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74、終息
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「えっと、あの……」
戸惑ったリルが何か言う前に、
「なんだとおおおぉぉぉ!?」
ノワゼアがビョーンっと飛び出し、体当たりで彼と彼女が繋ぐ手を断ち切った。
「我の妻を口説くとは身の程知らずな。恥を知れ!!」
胸の上に乗り吠え立ててくる子狐に、仰向けになったままの青年は狼狽える。
「それは申し訳ない、既婚者だとは知らずに……」
「違いますけど」
リルが反射的に誤解を解いた瞬間、
「では結婚しましょう」
……普通にややこしくなった。
「まだ言うか! この口か! この口が悪いのか!?」
「ちょっ、ノワ君、怪我人に暴力振るっちゃダメ!」
前足の肉球で青年の顔をぐいぐい踏み押す子狐を、少女が慌てて引き剥がす。
「まったく油断も隙もない。大体、リルもリルだ……ぞ……」
リルの腕の中で暴れていたノワゼアは、悪態をつきながらも睡魔に勝てず徐々に瞼がくっついていく。
青年もいつの間にか寝息を立てていた。
リルは籐の籠に毛布を敷いてノワゼアを寝かせてから、魔法使いに向き直った。
「スイウさん、あの蛇はどうなりました?」
「すべて恙無く処理した」
相変わらず言葉足らずだが、スイウが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。
「そっちは?」
「できる限り治療をしました。危険な状態は脱したと思うんですけど……」
聞かれて自信なさげに答えるリルに、スイウはシーツを捲って横たわる青年の容態を確認する。
「毒は抜けているな。傷の処置も悪くない。君の魔力は治癒魔法と相性が良いようだな」
スイウは一番傷の大きな毒牙の痕に手のひらを当てた。離した時には先程よりも傷口が塞がっている。
「瘴気に対する抵抗力が高かったから即死は免れたのだろう。寝かせておけばじき回復する」
「よかった……」
リルはほっと胸を撫で下ろしてから違和感に気づく。スイウの含みのある物言いは、
「もしかしてスイウさん、この人のこと知ってるんですか?」
「格好からして、玻璃神殿の騎士だな」
あっさり疑問を解消されて、少女は目を見張る。
「玻璃神殿って、伝説の聖者がいるっていう、あの玻璃神殿ですか!?」
頷くスイウに、リルは感嘆のため息をついた。この数ヶ月で、おとぎ話が次々に現実になっていく。
「で、その神殿の騎士様がどうして碧謐の森に?」
「用事の見当はついているが……」
スイウは難しい顔で言葉を切ってから、
「とにかく、死なせなかったことは重畳だ。君がいてくれて良かった」
「そんな……」
ストレートに褒められると照れてしまう。
「私だけの手柄じゃないです。森のみんなが手伝ってくれました」
リルの言葉に、ヒメミナとノーム達が「そうだ、そうだ」と騒ぎ出す。
「みんな、ありがとね。疲れたでしょうから、お茶を用意するね。スイウさんも」
上機嫌で踵を返そうとするリルに、ヒメミナがボソリと、
「その前に、湯浴みをしてはどうだ?」
「はっ!?」
言われて思い出す。リルは全身血塗れ状態だったのだ。
「家の掃除は私がしておくから、行って来い」
当然、床にも壁にも血が散乱している。
「すみません、お願いします!」
ペコリと頭を下げて井戸へと駆け出すリルを見送り、スイウは浄化魔法を使い始めた。
「……彼女に協力してくれてありがとう」
魔法使いの囁きに、大樹はとぼけた風に枝を揺らした。
戸惑ったリルが何か言う前に、
「なんだとおおおぉぉぉ!?」
ノワゼアがビョーンっと飛び出し、体当たりで彼と彼女が繋ぐ手を断ち切った。
「我の妻を口説くとは身の程知らずな。恥を知れ!!」
胸の上に乗り吠え立ててくる子狐に、仰向けになったままの青年は狼狽える。
「それは申し訳ない、既婚者だとは知らずに……」
「違いますけど」
リルが反射的に誤解を解いた瞬間、
「では結婚しましょう」
……普通にややこしくなった。
「まだ言うか! この口か! この口が悪いのか!?」
「ちょっ、ノワ君、怪我人に暴力振るっちゃダメ!」
前足の肉球で青年の顔をぐいぐい踏み押す子狐を、少女が慌てて引き剥がす。
「まったく油断も隙もない。大体、リルもリルだ……ぞ……」
リルの腕の中で暴れていたノワゼアは、悪態をつきながらも睡魔に勝てず徐々に瞼がくっついていく。
青年もいつの間にか寝息を立てていた。
リルは籐の籠に毛布を敷いてノワゼアを寝かせてから、魔法使いに向き直った。
「スイウさん、あの蛇はどうなりました?」
「すべて恙無く処理した」
相変わらず言葉足らずだが、スイウが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。
「そっちは?」
「できる限り治療をしました。危険な状態は脱したと思うんですけど……」
聞かれて自信なさげに答えるリルに、スイウはシーツを捲って横たわる青年の容態を確認する。
「毒は抜けているな。傷の処置も悪くない。君の魔力は治癒魔法と相性が良いようだな」
スイウは一番傷の大きな毒牙の痕に手のひらを当てた。離した時には先程よりも傷口が塞がっている。
「瘴気に対する抵抗力が高かったから即死は免れたのだろう。寝かせておけばじき回復する」
「よかった……」
リルはほっと胸を撫で下ろしてから違和感に気づく。スイウの含みのある物言いは、
「もしかしてスイウさん、この人のこと知ってるんですか?」
「格好からして、玻璃神殿の騎士だな」
あっさり疑問を解消されて、少女は目を見張る。
「玻璃神殿って、伝説の聖者がいるっていう、あの玻璃神殿ですか!?」
頷くスイウに、リルは感嘆のため息をついた。この数ヶ月で、おとぎ話が次々に現実になっていく。
「で、その神殿の騎士様がどうして碧謐の森に?」
「用事の見当はついているが……」
スイウは難しい顔で言葉を切ってから、
「とにかく、死なせなかったことは重畳だ。君がいてくれて良かった」
「そんな……」
ストレートに褒められると照れてしまう。
「私だけの手柄じゃないです。森のみんなが手伝ってくれました」
リルの言葉に、ヒメミナとノーム達が「そうだ、そうだ」と騒ぎ出す。
「みんな、ありがとね。疲れたでしょうから、お茶を用意するね。スイウさんも」
上機嫌で踵を返そうとするリルに、ヒメミナがボソリと、
「その前に、湯浴みをしてはどうだ?」
「はっ!?」
言われて思い出す。リルは全身血塗れ状態だったのだ。
「家の掃除は私がしておくから、行って来い」
当然、床にも壁にも血が散乱している。
「すみません、お願いします!」
ペコリと頭を下げて井戸へと駆け出すリルを見送り、スイウは浄化魔法を使い始めた。
「……彼女に協力してくれてありがとう」
魔法使いの囁きに、大樹はとぼけた風に枝を揺らした。
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