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63、ヤマモモを収穫しよう(4)帰宅後
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採ってきたヤマモモを塩水に浸して一時間。よく水洗いしてから、しっかり水気を切る。
「……ってことがあったんですよ」
下処理を終えたヤマモモを生で齧りながら、リルは今日の報告をしていた。
テーブルを挟んでお茶を飲みながら耳を傾けていたスイウは、憂いげに目を伏せた。
「危険な目には遭わなかったか?」
「むしろ気さくで良い人でしたよ。ヤマモモ採りを手伝ってくれたし」
あっけらかんと笑うリルに、安堵とも陰鬱ともつかないため息が漏れる。街出身の少女は他人を簡単に信じすぎる。
「スイウさんはレオンソードさんを知ってるんですか?」
「名前だけ。面識はない。私が魔法使いになる以前に森に棲んでいた者だ」
「森の住人って、引っ越したり戻ってきたりするんですか?」
「自由に動ける者もいる。『縛り』があって発生した場所から動けない者もいるが」
いわれてみると、クレーネは半身を泉に浸けたまま地上には上がらないが、ノワゼアは嫁探しに街に出ようとしていた。
「なるほど。じゃあ、ディセイラさんって?」
「それは……」
スイウは一瞬躊躇ってから、
「……私の師匠だ」
「スイウさんの師匠! ってことは、七代目の森の魔法使いですか?」
リルの言葉に、スイウはコクリと頷く。
「どんな人だったんですか? 女性だったんですよね?」
好奇心を隠さない少女に、現役魔法使いは戸惑ったようにお茶を啜る。
「陽気な人だった。色々と突飛なことをやらかす人で……飽きない人だった。森を出てもう久しい」
「魔法使いまで森を出て行っちゃうんですか?」
リルは目を見張って事情を知りたがったが、スイウが薄く笑って口を閉ざしたので、それ以上の追求は避けた。その代わり、話題を変える。
「そういえば、レオンソードさんが森の住人に本名教えちゃダメって」
「通常は。君は現在私の庇護下にあるから、命に関わる契約は出来ないようになっている」
「スイウさんに守られてるってことですか?」
「一応」
事もなげに頷かれると、なんだかこそばゆい。
「スイウというのは本当の名前じゃないんですか?」
「通り名だ。真名は他にある」
「私は普通に『リル』って名乗ってますけど、マナってどうやってつけるんですか?」
「真名は誰でも持っているが、危険だから魂の深部に隠されている。碧謐の森の魔法使いに関しては、十分に能力があると判断された時に、当代の魔法使いが読み解く」
「ええと、私が魔法使いになる時、スイウさんが私の真名を教えてくれるってことですか?」
スイウはコクリと頷いて、
「それまで君は、魔法使いを名乗ることはできない」
「えー? 職業『魔法使い』って言っちゃダメなんですか? 何個か魔法使えるようになったのに」
「君は、積み木で家を作ったくらいで大工を名乗るのか?」
自分の魔法を子どもの遊び扱いされて、リルは「うぐっ」と言葉を詰まらせた。
穏やかに流れる午後の時間。西の窓から強い光が差し込んで来たのに気づき、少女は立ち上がった。
「私、日暮れ前にヤマモモジャムの仕込みをしちゃいますね。保存容器に倉庫の空き瓶使っていいですか?」
「構わない」
元気に家を飛び出していくリルを見送り、スイウは冷めたお茶を一気に呷った。それから、カップの底に残った茶殻の模様を読み解きながら独りごちる。
「そうか……彼が帰ってきたのか」
「……ってことがあったんですよ」
下処理を終えたヤマモモを生で齧りながら、リルは今日の報告をしていた。
テーブルを挟んでお茶を飲みながら耳を傾けていたスイウは、憂いげに目を伏せた。
「危険な目には遭わなかったか?」
「むしろ気さくで良い人でしたよ。ヤマモモ採りを手伝ってくれたし」
あっけらかんと笑うリルに、安堵とも陰鬱ともつかないため息が漏れる。街出身の少女は他人を簡単に信じすぎる。
「スイウさんはレオンソードさんを知ってるんですか?」
「名前だけ。面識はない。私が魔法使いになる以前に森に棲んでいた者だ」
「森の住人って、引っ越したり戻ってきたりするんですか?」
「自由に動ける者もいる。『縛り』があって発生した場所から動けない者もいるが」
いわれてみると、クレーネは半身を泉に浸けたまま地上には上がらないが、ノワゼアは嫁探しに街に出ようとしていた。
「なるほど。じゃあ、ディセイラさんって?」
「それは……」
スイウは一瞬躊躇ってから、
「……私の師匠だ」
「スイウさんの師匠! ってことは、七代目の森の魔法使いですか?」
リルの言葉に、スイウはコクリと頷く。
「どんな人だったんですか? 女性だったんですよね?」
好奇心を隠さない少女に、現役魔法使いは戸惑ったようにお茶を啜る。
「陽気な人だった。色々と突飛なことをやらかす人で……飽きない人だった。森を出てもう久しい」
「魔法使いまで森を出て行っちゃうんですか?」
リルは目を見張って事情を知りたがったが、スイウが薄く笑って口を閉ざしたので、それ以上の追求は避けた。その代わり、話題を変える。
「そういえば、レオンソードさんが森の住人に本名教えちゃダメって」
「通常は。君は現在私の庇護下にあるから、命に関わる契約は出来ないようになっている」
「スイウさんに守られてるってことですか?」
「一応」
事もなげに頷かれると、なんだかこそばゆい。
「スイウというのは本当の名前じゃないんですか?」
「通り名だ。真名は他にある」
「私は普通に『リル』って名乗ってますけど、マナってどうやってつけるんですか?」
「真名は誰でも持っているが、危険だから魂の深部に隠されている。碧謐の森の魔法使いに関しては、十分に能力があると判断された時に、当代の魔法使いが読み解く」
「ええと、私が魔法使いになる時、スイウさんが私の真名を教えてくれるってことですか?」
スイウはコクリと頷いて、
「それまで君は、魔法使いを名乗ることはできない」
「えー? 職業『魔法使い』って言っちゃダメなんですか? 何個か魔法使えるようになったのに」
「君は、積み木で家を作ったくらいで大工を名乗るのか?」
自分の魔法を子どもの遊び扱いされて、リルは「うぐっ」と言葉を詰まらせた。
穏やかに流れる午後の時間。西の窓から強い光が差し込んで来たのに気づき、少女は立ち上がった。
「私、日暮れ前にヤマモモジャムの仕込みをしちゃいますね。保存容器に倉庫の空き瓶使っていいですか?」
「構わない」
元気に家を飛び出していくリルを見送り、スイウは冷めたお茶を一気に呷った。それから、カップの底に残った茶殻の模様を読み解きながら独りごちる。
「そうか……彼が帰ってきたのか」
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