森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

文字の大きさ
上 下
62 / 140

62、ヤマモモを収穫しよう(3)

しおりを挟む
「ヤマモモを採りに来たんですけど、どうやって収穫しようか悩んでて」

 リルの答えに、レオンソードはブハッと噴き出した。

「なにやってんの。リルちゃん、無計画!」

 ゲラゲラ笑われてリルは真っ赤になって頬を膨らますけど、実際その通りなので反論のしようがない。

「あと、正直に答えすぎ。気をつけなよ、人外の質問にホイホイ答えてると、気づかぬうちに変な契約結ばされちゃうよ? 特に名前はダメ」

「えぇ!?」

 リルは両手で口を押さえて飛び上がる。

「どうしよう。私、ス……魔法使いの名前言っちゃった……」

 失態に真っ青になるリルに、レオンソードは愉快そうに口角を上げた。

「それは大丈夫。魔法使いが真名を教えるわけないじゃん。君が知ってるのは通り名だよ」

 ……そういえば、リルが最初に名前を聞いた時、魔法使いは『スイウと呼ばれている』と言っていた。彼が名乗ったのは本名ではなかったのだ。

「よかった……」

 ほうっと脱力するリルに、金髪の青年は青い目を細めた。

「……君は、自分より他人の心配をする子なんだね。ちょっと似てるかも」

「え?」

 微かな呟きは風に溶けて、リルの耳には届かなかった。振り仰ぐ人間の少女に微笑んで、レオンソードはひらりと楓の木から飛び降りた。そして、優雅な足取りでリルに近づく。

「リルちゃんはいい子だから、おにーさんがヤマモモ採るの手伝ってあげよっか」

 長身の腰を折ってずいっと顔を寄せてきた彼に、リルは体を強張らせる。

「手伝うって……見返りはなんですか? 魂抜いたりします?」

 警戒心の塊の少女に、青年は笑う。

「抜かないよ。可愛い子には生きてて欲しいからね。さ、籠を出して」

 言われるがままにリルが籠を掲げると、レオンソードは軽く身を竦め――

 バサッ!!

 ――背中から翼を出した。
 自分の身長の何倍もある猛禽の羽を広げたレオンソードは、地面に立ったままそれを羽ばたかせた。
 強い風を受けたヤマモモの木は激しく梢を揺らし、たわわな赤い実の雨を降らせる。

「わっわっわっ!」

 リルがあたふたしている間に、ヤマモモは降り積もり、あっという間に籠は満杯になった。

「すごい! ありがとう、レオンソードさん!」

「だろう。俺はすごいんだぞ」

 大はしゃぎなリルに、レオンソードは鼻高々だ。

「お礼にお茶を飲んでいきませんか? ヤマモモも一緒に食べましょう」

 嬉々として誘う少女に、羽のある青年は苦笑を返した。

「それはやめとく。俺、大樹の家に入りたくないから」

「……え?」

 初めての拒絶の言葉に驚く。森の住人はお茶を目当てにこぞって大樹の家に来たがるのに、この人は違うのだろうか。

「じゃあ、俺は行くね。リルちゃんも暗くならないうちに帰るんだよ。今の魔法使いにもよろしく」

 先輩ぶった口調で言い残すと、レオンソードはふわりと宙に浮き、ぐんぐん上昇して空の彼方へと消えていく。

「ありがとーございましたぁー!」

 遠くなる翼の影に、リルは大きく手を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...