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62、ヤマモモを収穫しよう(3)
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「ヤマモモを採りに来たんですけど、どうやって収穫しようか悩んでて」
リルの答えに、レオンソードはブハッと噴き出した。
「なにやってんの。リルちゃん、無計画!」
ゲラゲラ笑われてリルは真っ赤になって頬を膨らますけど、実際その通りなので反論のしようがない。
「あと、正直に答えすぎ。気をつけなよ、人外の質問にホイホイ答えてると、気づかぬうちに変な契約結ばされちゃうよ? 特に名前はダメ」
「えぇ!?」
リルは両手で口を押さえて飛び上がる。
「どうしよう。私、ス……魔法使いの名前言っちゃった……」
失態に真っ青になるリルに、レオンソードは愉快そうに口角を上げた。
「それは大丈夫。魔法使いが真名を教えるわけないじゃん。君が知ってるのは通り名だよ」
……そういえば、リルが最初に名前を聞いた時、魔法使いは『スイウと呼ばれている』と言っていた。彼が名乗ったのは本名ではなかったのだ。
「よかった……」
ほうっと脱力するリルに、金髪の青年は青い目を細めた。
「……君は、自分より他人の心配をする子なんだね。ちょっと似てるかも」
「え?」
微かな呟きは風に溶けて、リルの耳には届かなかった。振り仰ぐ人間の少女に微笑んで、レオンソードはひらりと楓の木から飛び降りた。そして、優雅な足取りでリルに近づく。
「リルちゃんはいい子だから、おにーさんがヤマモモ採るの手伝ってあげよっか」
長身の腰を折ってずいっと顔を寄せてきた彼に、リルは体を強張らせる。
「手伝うって……見返りはなんですか? 魂抜いたりします?」
警戒心の塊の少女に、青年は笑う。
「抜かないよ。可愛い子には生きてて欲しいからね。さ、籠を出して」
言われるがままにリルが籠を掲げると、レオンソードは軽く身を竦め――
バサッ!!
――背中から翼を出した。
自分の身長の何倍もある猛禽の羽を広げたレオンソードは、地面に立ったままそれを羽ばたかせた。
強い風を受けたヤマモモの木は激しく梢を揺らし、たわわな赤い実の雨を降らせる。
「わっわっわっ!」
リルがあたふたしている間に、ヤマモモは降り積もり、あっという間に籠は満杯になった。
「すごい! ありがとう、レオンソードさん!」
「だろう。俺はすごいんだぞ」
大はしゃぎなリルに、レオンソードは鼻高々だ。
「お礼にお茶を飲んでいきませんか? ヤマモモも一緒に食べましょう」
嬉々として誘う少女に、羽のある青年は苦笑を返した。
「それはやめとく。俺、大樹の家に入りたくないから」
「……え?」
初めての拒絶の言葉に驚く。森の住人はお茶を目当てにこぞって大樹の家に来たがるのに、この人は違うのだろうか。
「じゃあ、俺は行くね。リルちゃんも暗くならないうちに帰るんだよ。今の魔法使いにもよろしく」
先輩ぶった口調で言い残すと、レオンソードはふわりと宙に浮き、ぐんぐん上昇して空の彼方へと消えていく。
「ありがとーございましたぁー!」
遠くなる翼の影に、リルは大きく手を振った。
リルの答えに、レオンソードはブハッと噴き出した。
「なにやってんの。リルちゃん、無計画!」
ゲラゲラ笑われてリルは真っ赤になって頬を膨らますけど、実際その通りなので反論のしようがない。
「あと、正直に答えすぎ。気をつけなよ、人外の質問にホイホイ答えてると、気づかぬうちに変な契約結ばされちゃうよ? 特に名前はダメ」
「えぇ!?」
リルは両手で口を押さえて飛び上がる。
「どうしよう。私、ス……魔法使いの名前言っちゃった……」
失態に真っ青になるリルに、レオンソードは愉快そうに口角を上げた。
「それは大丈夫。魔法使いが真名を教えるわけないじゃん。君が知ってるのは通り名だよ」
……そういえば、リルが最初に名前を聞いた時、魔法使いは『スイウと呼ばれている』と言っていた。彼が名乗ったのは本名ではなかったのだ。
「よかった……」
ほうっと脱力するリルに、金髪の青年は青い目を細めた。
「……君は、自分より他人の心配をする子なんだね。ちょっと似てるかも」
「え?」
微かな呟きは風に溶けて、リルの耳には届かなかった。振り仰ぐ人間の少女に微笑んで、レオンソードはひらりと楓の木から飛び降りた。そして、優雅な足取りでリルに近づく。
「リルちゃんはいい子だから、おにーさんがヤマモモ採るの手伝ってあげよっか」
長身の腰を折ってずいっと顔を寄せてきた彼に、リルは体を強張らせる。
「手伝うって……見返りはなんですか? 魂抜いたりします?」
警戒心の塊の少女に、青年は笑う。
「抜かないよ。可愛い子には生きてて欲しいからね。さ、籠を出して」
言われるがままにリルが籠を掲げると、レオンソードは軽く身を竦め――
バサッ!!
――背中から翼を出した。
自分の身長の何倍もある猛禽の羽を広げたレオンソードは、地面に立ったままそれを羽ばたかせた。
強い風を受けたヤマモモの木は激しく梢を揺らし、たわわな赤い実の雨を降らせる。
「わっわっわっ!」
リルがあたふたしている間に、ヤマモモは降り積もり、あっという間に籠は満杯になった。
「すごい! ありがとう、レオンソードさん!」
「だろう。俺はすごいんだぞ」
大はしゃぎなリルに、レオンソードは鼻高々だ。
「お礼にお茶を飲んでいきませんか? ヤマモモも一緒に食べましょう」
嬉々として誘う少女に、羽のある青年は苦笑を返した。
「それはやめとく。俺、大樹の家に入りたくないから」
「……え?」
初めての拒絶の言葉に驚く。森の住人はお茶を目当てにこぞって大樹の家に来たがるのに、この人は違うのだろうか。
「じゃあ、俺は行くね。リルちゃんも暗くならないうちに帰るんだよ。今の魔法使いにもよろしく」
先輩ぶった口調で言い残すと、レオンソードはふわりと宙に浮き、ぐんぐん上昇して空の彼方へと消えていく。
「ありがとーございましたぁー!」
遠くなる翼の影に、リルは大きく手を振った。
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