森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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58、クレーネとルビータ(2)

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「クレーネさん、両手を合わせてお椀にしてくれませんか? ルビータさんも」

 リルが水を手で掬うポーズをすると、青と赤の精霊はそれに倣う。

「それから、手のひらに水を溜めてください」

 クレーネの術で二人の手に水が溢れるのを確認すると、リルは泉の畔に生えていた【月の映る水面草】を摘んで、手の中でくしゃっと潰した。この植物は揉むと風味が良くなると教えてくれたのはスイウだ。
 ふわりと甘酸っぱい香りが立ち上る水面草を二人の手のお椀に散らし、次は素早く水中から儚凪草を摘む。泉から上げる前に凍らせてから運ぶ。儚い植物は精霊の手に落とすと同時に水に溶けた。そして最後に、近くに群生していたペパーミントの葉を一枚千切って浮かべる。

「これで完成です。さあ、どうぞ」

 クレーネとルビータはキョトンと目を見合わせてから、恐る恐る手のひらで作られた想織茶に口をつけた。……途端!

「あら!」

「まあ!」

 ぱあっと花開いたように笑顔が生まれる。

「なんて瑞々しい。鮮烈でとても爽やかだわ」

「生花はこんなに香りがいいのね。素晴らしいわ」

 美女に代わる代わる絶賛されて、リルは照れて頭を掻く。

「リル、ありがとう。あなたはいつもわたくしを元気にしてくれるわね」

 ひやりと人の感触ではない手が、リルの温かい手を包み込む。

「ねえ、リル。この先あなたが困った時は、いつでもわたくしが力を貸すわ。約束よ」

 透き通ったサファイヤの瞳で言われると、頬が熱くなる。

「そんな、大袈裟な。私はただ、自分に出来ることをしただけで……」

 恐縮するリルの肩に、今度はルビータがしなだれかかる。

「あなたは期待以上よ、リル。もしもの時は、あたしもあなたの力になる。約束するわ」

 妖艶な囁きに、耳が焼けそうだ。

「う、うん。何かあったら相談させてください……」

 二人の人知を超えた美女に囲まれて、人間の少女はぎくしゃくと頷くしかできなかった。

 ――この時のリルは、まだ知らない。
 クレーネとルビータとの『約束』が、リルの未来に大きな影響を与えることを。
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