森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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 鴨の首を落として外に吊るしたら、おもてなし再開だ。
 地下倉庫に潜り、茶葉を選ぶ。

(刺激的で情熱的ってことは、火属性と地属性を主体に味を組み立てよう)

 この二つの属性には、癖の強い茶葉が多い。
 ガラス瓶を五つ抱えてリビングに戻ると、呼んでもいないのにスイウが自室から出てきていて、ルビータの対面に座っていた。
 ウェーブ掛かった燃えるような赤橙髪の美女と、銀白色の長髪美青年は、そのまま額縁に入れれば美術館に飾れそうなほど神々しい。
 思わず見惚れてしまった少女に気づき、魔法使いが「ん?」と首を傾げる。

「いっ、今、お茶を淹れますね!」

 動揺を隠してテーブルに並べた茶葉の瓶がガチャガチャ音を立てる。

(集中、集中)

 リルはこっそり深呼吸して、ティーポットに茶葉を入れていく。火属性の【灼鉄草】をメインに、個性的な茶葉をあと四種類。

「ルビータさん、お願いします」

 瓶の清水を汲んだ水差しをルビータに渡すと、一瞬にして沸騰させて戻って来る。ティーポットに湯を注ぐと、

「わっ」

 陶器が溶けるのではないかと焦るほど、白いティーポットの表面が真っ赤に染まる。色が元に戻るのを待って、リルは三つのカップに均等に茶を注いだ。
 ルビータの髪に似た、朱と橙が混じった美しい液体。彼女は目を閉じて香りを楽しむと、火傷するほど熱いそれに躊躇いなく唇をつけた。
 一口嚥下すると、ほうっと息をつく。

「美味しいわ」

 美女の賛辞にリルは胸を撫で下ろす。……が、

「でも、期待ほどではないわね」

「へ?」

「美味しいけど、ただそれだけ。茶葉の個性を活かしつつ巧く調和させてるし、注文通り刺激も情熱も感じるわ。でも……なんだか物足りないのよね。スイウはどう思う?」

 水を向けられた魔法使いは、いつものように飄々と、

「注文通りなら及第点だろう」

「……っ!」

 無表情でお茶を飲み続けるスイウに、リルの頭に血が上る。

(きゅ、及第点って! そりゃあ、スイウさんは魔法使いですごいお茶淹れられるけど、私は素人なのに!)

 しかし、客の要望に完璧に応えられなかったのは事実だ。スイウの「ギリギリセーフ」的なフォローが、逆にリルの闘争心に火をつけた。街の少女は頭をフル回転させて――

「あっ!」

 ――思いついて、外へと駆け出した。
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