森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

文字の大きさ
上 下
42 / 140

42、新しいお客様(3)

しおりを挟む
 鴨の首を落として外に吊るしたら、おもてなし再開だ。
 地下倉庫に潜り、茶葉を選ぶ。

(刺激的で情熱的ってことは、火属性と地属性を主体に味を組み立てよう)

 この二つの属性には、癖の強い茶葉が多い。
 ガラス瓶を五つ抱えてリビングに戻ると、呼んでもいないのにスイウが自室から出てきていて、ルビータの対面に座っていた。
 ウェーブ掛かった燃えるような赤橙髪の美女と、銀白色の長髪美青年は、そのまま額縁に入れれば美術館に飾れそうなほど神々しい。
 思わず見惚れてしまった少女に気づき、魔法使いが「ん?」と首を傾げる。

「いっ、今、お茶を淹れますね!」

 動揺を隠してテーブルに並べた茶葉の瓶がガチャガチャ音を立てる。

(集中、集中)

 リルはこっそり深呼吸して、ティーポットに茶葉を入れていく。火属性の【灼鉄草】をメインに、個性的な茶葉をあと四種類。

「ルビータさん、お願いします」

 瓶の清水を汲んだ水差しをルビータに渡すと、一瞬にして沸騰させて戻って来る。ティーポットに湯を注ぐと、

「わっ」

 陶器が溶けるのではないかと焦るほど、白いティーポットの表面が真っ赤に染まる。色が元に戻るのを待って、リルは三つのカップに均等に茶を注いだ。
 ルビータの髪に似た、朱と橙が混じった美しい液体。彼女は目を閉じて香りを楽しむと、火傷するほど熱いそれに躊躇いなく唇をつけた。
 一口嚥下すると、ほうっと息をつく。

「美味しいわ」

 美女の賛辞にリルは胸を撫で下ろす。……が、

「でも、期待ほどではないわね」

「へ?」

「美味しいけど、ただそれだけ。茶葉の個性を活かしつつ巧く調和させてるし、注文通り刺激も情熱も感じるわ。でも……なんだか物足りないのよね。スイウはどう思う?」

 水を向けられた魔法使いは、いつものように飄々と、

「注文通りなら及第点だろう」

「……っ!」

 無表情でお茶を飲み続けるスイウに、リルの頭に血が上る。

(きゅ、及第点って! そりゃあ、スイウさんは魔法使いですごいお茶淹れられるけど、私は素人なのに!)

 しかし、客の要望に完璧に応えられなかったのは事実だ。スイウの「ギリギリセーフ」的なフォローが、逆にリルの闘争心に火をつけた。街の少女は頭をフル回転させて――

「あっ!」

 ――思いついて、外へと駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

処理中です...