40 / 140
40、新しいお客様(1)
しおりを挟む
「ぐゎー! むーかーつーくー!!」
ベッドの上でジタバタ暴れまくる。
翌日、目が覚めてもまだリルの怒りは治まらなかった。
「発根剤のことといい、井戸底の石といい、スイウさんって肝心なことは何も教えてくれないじゃない」
スイウは基本、リルの質問にはすべて答えてくれる。しかし、訊かなければ話してくれないのだ。これでは、何が解らないのか判らないリルにとっては、質問のしようがない。
その行為が危険だったり無意味だったりしたことを、いつも終わった後に気づかされるなんて。
「……そのうち取り返しのつかないことになりそうじゃん」
スイウは『間違いからしか得られない知識もある』と言っていたが、その間違いで誰か――あるいは自分――が命を落としたら、どうするつもりなのだ。
「スイウさんって、意地悪じゃない?」
天井を仰いで同意を求めるが、大樹はそよ風に葉を揺らすだけで答えない。
「むぅ」
リルは不満げに唸ってから、着替えて部屋を出た。リビング隅の大瓶の蓋を開けると、九分目までたっぷりと水が満ちていた。
「ヒメちゃん、ありがとね」
昨日までの労力を思い出すと、つい水面を拝んでしまう。
順調に育っている挿し木の鉢も、水を上げて風通しのよい場所に置いた。
「さてと、次は……」
天気がいいから洗濯を済ませちゃおうかな、と思った瞬間、くぅ~っと腹が鳴る。
「ダメだ。何をするにしても、なんか食べてからにしよ」
健康優良児のリルは、空腹に抗えない。さっそく食べ物を探しに地下倉庫へ下りてみるが、しかし貯蔵庫の中はすでに空で、パンも魚も残っていなかった。
「うぅ、森でお芋掘ってくるか……」
しょんぼりと戸棚を閉める。
「せめて小麦粉が常備してあれば主食に困らないのになぁ。街に買いに行きたいってスイウさんに頼んでみようか」
……といっても、リルは一文無しなのだが。
ぶちぶち言いながら階段を上っていると、
「ごめんくださーい! ねぇ、誰もいないの?」
玄関の方から声が聞こえた。どうやら客が来たようだ。大樹がザワッと枝を震わせている。
「はーい、今開けます!」
リルが内側からドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
真紅の瞳に真紅の唇、オレンジ掛かった赤髪は光に照らされるとまるで炎のように揺らめく。豊満な胸の谷間と魅力的な太腿を惜しげもなく晒したベアドレスに身を包んだ彼女は、妖艶に微笑んだ。
「あなたがリル?」
絶世の美女の唇から自分の名前が零れて、リルは緊張に硬直する。美女は嬉しそうに目を細めると、リルのポニーテールの毛先を指で掬った。
「あなたも赤毛なのね。素敵」
囁かれると勝手に心臓がバクバクして、顔に血が上る。
「あ、あの……なんで私の名前を……?」
上手く舌が回らない。しどろもどろで尋ねるリルに、
「あたしはルビータ。水の噂であなたが美味しいお茶を淹れるって聞いて、飲みに来たの」
自己紹介した彼女は悪戯っぽくウインクして、左手を胸の高さまで上げた。
「お土産も持ってきたのよ」
差し出されたのは、首をだらんと下げて絶命した鴨だった。
ベッドの上でジタバタ暴れまくる。
翌日、目が覚めてもまだリルの怒りは治まらなかった。
「発根剤のことといい、井戸底の石といい、スイウさんって肝心なことは何も教えてくれないじゃない」
スイウは基本、リルの質問にはすべて答えてくれる。しかし、訊かなければ話してくれないのだ。これでは、何が解らないのか判らないリルにとっては、質問のしようがない。
その行為が危険だったり無意味だったりしたことを、いつも終わった後に気づかされるなんて。
「……そのうち取り返しのつかないことになりそうじゃん」
スイウは『間違いからしか得られない知識もある』と言っていたが、その間違いで誰か――あるいは自分――が命を落としたら、どうするつもりなのだ。
「スイウさんって、意地悪じゃない?」
天井を仰いで同意を求めるが、大樹はそよ風に葉を揺らすだけで答えない。
「むぅ」
リルは不満げに唸ってから、着替えて部屋を出た。リビング隅の大瓶の蓋を開けると、九分目までたっぷりと水が満ちていた。
「ヒメちゃん、ありがとね」
昨日までの労力を思い出すと、つい水面を拝んでしまう。
順調に育っている挿し木の鉢も、水を上げて風通しのよい場所に置いた。
「さてと、次は……」
天気がいいから洗濯を済ませちゃおうかな、と思った瞬間、くぅ~っと腹が鳴る。
「ダメだ。何をするにしても、なんか食べてからにしよ」
健康優良児のリルは、空腹に抗えない。さっそく食べ物を探しに地下倉庫へ下りてみるが、しかし貯蔵庫の中はすでに空で、パンも魚も残っていなかった。
「うぅ、森でお芋掘ってくるか……」
しょんぼりと戸棚を閉める。
「せめて小麦粉が常備してあれば主食に困らないのになぁ。街に買いに行きたいってスイウさんに頼んでみようか」
……といっても、リルは一文無しなのだが。
ぶちぶち言いながら階段を上っていると、
「ごめんくださーい! ねぇ、誰もいないの?」
玄関の方から声が聞こえた。どうやら客が来たようだ。大樹がザワッと枝を震わせている。
「はーい、今開けます!」
リルが内側からドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
真紅の瞳に真紅の唇、オレンジ掛かった赤髪は光に照らされるとまるで炎のように揺らめく。豊満な胸の谷間と魅力的な太腿を惜しげもなく晒したベアドレスに身を包んだ彼女は、妖艶に微笑んだ。
「あなたがリル?」
絶世の美女の唇から自分の名前が零れて、リルは緊張に硬直する。美女は嬉しそうに目を細めると、リルのポニーテールの毛先を指で掬った。
「あなたも赤毛なのね。素敵」
囁かれると勝手に心臓がバクバクして、顔に血が上る。
「あ、あの……なんで私の名前を……?」
上手く舌が回らない。しどろもどろで尋ねるリルに、
「あたしはルビータ。水の噂であなたが美味しいお茶を淹れるって聞いて、飲みに来たの」
自己紹介した彼女は悪戯っぽくウインクして、左手を胸の高さまで上げた。
「お土産も持ってきたのよ」
差し出されたのは、首をだらんと下げて絶命した鴨だった。
38
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。
青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。
公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。
父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。
そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。
3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。
長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる