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「ぐゎー! むーかーつーくー!!」
ベッドの上でジタバタ暴れまくる。
翌日、目が覚めてもまだリルの怒りは治まらなかった。
「発根剤のことといい、井戸底の石といい、スイウさんって肝心なことは何も教えてくれないじゃない」
スイウは基本、リルの質問にはすべて答えてくれる。しかし、訊かなければ話してくれないのだ。これでは、何が解らないのか判らないリルにとっては、質問のしようがない。
その行為が危険だったり無意味だったりしたことを、いつも終わった後に気づかされるなんて。
「……そのうち取り返しのつかないことになりそうじゃん」
スイウは『間違いからしか得られない知識もある』と言っていたが、その間違いで誰か――あるいは自分――が命を落としたら、どうするつもりなのだ。
「スイウさんって、意地悪じゃない?」
天井を仰いで同意を求めるが、大樹はそよ風に葉を揺らすだけで答えない。
「むぅ」
リルは不満げに唸ってから、着替えて部屋を出た。リビング隅の大瓶の蓋を開けると、九分目までたっぷりと水が満ちていた。
「ヒメちゃん、ありがとね」
昨日までの労力を思い出すと、つい水面を拝んでしまう。
順調に育っている挿し木の鉢も、水を上げて風通しのよい場所に置いた。
「さてと、次は……」
天気がいいから洗濯を済ませちゃおうかな、と思った瞬間、くぅ~っと腹が鳴る。
「ダメだ。何をするにしても、なんか食べてからにしよ」
健康優良児のリルは、空腹に抗えない。さっそく食べ物を探しに地下倉庫へ下りてみるが、しかし貯蔵庫の中はすでに空で、パンも魚も残っていなかった。
「うぅ、森でお芋掘ってくるか……」
しょんぼりと戸棚を閉める。
「せめて小麦粉が常備してあれば主食に困らないのになぁ。街に買いに行きたいってスイウさんに頼んでみようか」
……といっても、リルは一文無しなのだが。
ぶちぶち言いながら階段を上っていると、
「ごめんくださーい! ねぇ、誰もいないの?」
玄関の方から声が聞こえた。どうやら客が来たようだ。大樹がザワッと枝を震わせている。
「はーい、今開けます!」
リルが内側からドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
真紅の瞳に真紅の唇、オレンジ掛かった赤髪は光に照らされるとまるで炎のように揺らめく。豊満な胸の谷間と魅力的な太腿を惜しげもなく晒したベアドレスに身を包んだ彼女は、妖艶に微笑んだ。
「あなたがリル?」
絶世の美女の唇から自分の名前が零れて、リルは緊張に硬直する。美女は嬉しそうに目を細めると、リルのポニーテールの毛先を指で掬った。
「あなたも赤毛なのね。素敵」
囁かれると勝手に心臓がバクバクして、顔に血が上る。
「あ、あの……なんで私の名前を……?」
上手く舌が回らない。しどろもどろで尋ねるリルに、
「あたしはルビータ。水の噂であなたが美味しいお茶を淹れるって聞いて、飲みに来たの」
自己紹介した彼女は悪戯っぽくウインクして、左手を胸の高さまで上げた。
「お土産も持ってきたのよ」
差し出されたのは、首をだらんと下げて絶命した鴨だった。
ベッドの上でジタバタ暴れまくる。
翌日、目が覚めてもまだリルの怒りは治まらなかった。
「発根剤のことといい、井戸底の石といい、スイウさんって肝心なことは何も教えてくれないじゃない」
スイウは基本、リルの質問にはすべて答えてくれる。しかし、訊かなければ話してくれないのだ。これでは、何が解らないのか判らないリルにとっては、質問のしようがない。
その行為が危険だったり無意味だったりしたことを、いつも終わった後に気づかされるなんて。
「……そのうち取り返しのつかないことになりそうじゃん」
スイウは『間違いからしか得られない知識もある』と言っていたが、その間違いで誰か――あるいは自分――が命を落としたら、どうするつもりなのだ。
「スイウさんって、意地悪じゃない?」
天井を仰いで同意を求めるが、大樹はそよ風に葉を揺らすだけで答えない。
「むぅ」
リルは不満げに唸ってから、着替えて部屋を出た。リビング隅の大瓶の蓋を開けると、九分目までたっぷりと水が満ちていた。
「ヒメちゃん、ありがとね」
昨日までの労力を思い出すと、つい水面を拝んでしまう。
順調に育っている挿し木の鉢も、水を上げて風通しのよい場所に置いた。
「さてと、次は……」
天気がいいから洗濯を済ませちゃおうかな、と思った瞬間、くぅ~っと腹が鳴る。
「ダメだ。何をするにしても、なんか食べてからにしよ」
健康優良児のリルは、空腹に抗えない。さっそく食べ物を探しに地下倉庫へ下りてみるが、しかし貯蔵庫の中はすでに空で、パンも魚も残っていなかった。
「うぅ、森でお芋掘ってくるか……」
しょんぼりと戸棚を閉める。
「せめて小麦粉が常備してあれば主食に困らないのになぁ。街に買いに行きたいってスイウさんに頼んでみようか」
……といっても、リルは一文無しなのだが。
ぶちぶち言いながら階段を上っていると、
「ごめんくださーい! ねぇ、誰もいないの?」
玄関の方から声が聞こえた。どうやら客が来たようだ。大樹がザワッと枝を震わせている。
「はーい、今開けます!」
リルが内側からドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
真紅の瞳に真紅の唇、オレンジ掛かった赤髪は光に照らされるとまるで炎のように揺らめく。豊満な胸の谷間と魅力的な太腿を惜しげもなく晒したベアドレスに身を包んだ彼女は、妖艶に微笑んだ。
「あなたがリル?」
絶世の美女の唇から自分の名前が零れて、リルは緊張に硬直する。美女は嬉しそうに目を細めると、リルのポニーテールの毛先を指で掬った。
「あなたも赤毛なのね。素敵」
囁かれると勝手に心臓がバクバクして、顔に血が上る。
「あ、あの……なんで私の名前を……?」
上手く舌が回らない。しどろもどろで尋ねるリルに、
「あたしはルビータ。水の噂であなたが美味しいお茶を淹れるって聞いて、飲みに来たの」
自己紹介した彼女は悪戯っぽくウインクして、左手を胸の高さまで上げた。
「お土産も持ってきたのよ」
差し出されたのは、首をだらんと下げて絶命した鴨だった。
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