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9、初めての仕事(1)
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リルは早速地下倉庫に下りて茶葉を選ぶ。
棚をざっと確認してみると茶葉は属性順に並んではいるようだが、アトリ亭では取り扱っていない物が多すぎて選ぶのに困ってしまう。
「スイウさん、どのお茶が飲みたいですか?」
階上の魔法使いに呼び掛けてみると、
「どれでも」
まったく参考にならない答えが返ってくる。
「どれでもってことは、どの茶葉を組み合わせても大丈夫ってことですか?」
もう一度確認してみると、少しの沈黙があった後、
「禁忌の組み合わせに当たるとたまに死ぬ」
「全然大丈夫じゃない!!」
リルは思わず悲鳴を上げた。いきなり殺人犯にはなりたくない。仕方がないので、知っている茶葉のガラス瓶を五つ持って階段を戻る。
「注意喚起もなく一般人に危ない橋を渡らせないでください。とりあえず、アトリ亭で使っていた茶葉と同種の物で淹れますね。後で知らない茶葉の効能と禁忌の組み合わせを教えてください」
「分かった」
批難混じりの発言にあっさり頷かれて、リルは意外そうに眉を上げた。
「スイウさんって、実はすごく親切ですよね」
言われたスイウも意外そうに眉を寄せる。
「そのような評価を受けたのは初めてだが、何故だ?」
「だって、借金取りから助けてくれたし、道に迷わないように手を繋いでくれたし、家具も融通利かせてくれたし。最初からずっと、私の質問には全部答えてくれてましたから」
……壊滅的に言葉足らずだけどね。心の中でリルはこっそり付け足すが、声に出したことは本当。今だって、彼女が危険な組み合わせの茶葉を持ってきたら、聞く前に教えてくれた筈だ。
物事を良い方向に捉える里の人間に、森の魔法使いは若干不本意そうにボソリと、
「連れてきた責任上、ある程度は君の安全に留意する。不用意に死なれると処理が手間なだけだから」
「ふぇ!?」
素っ頓狂な声を出すリルに、スイウは続けて、
「まあ、肥やしになれば樹木は喜ぶかもしれんが」
「ちょ、埋める前提で話を進めるのやめてもらえません? 私、養分になってまでお家の好感度上げたくないんですけど!」
無表情な魔法使いとキャンキャン吠え立てる町娘に、天井の木の葉がさざめく。
……まるで楽しげに笑っているかのように。
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「どれでもってことは、どの茶葉を組み合わせても大丈夫ってことですか?」
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「分かった」
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「連れてきた責任上、ある程度は君の安全に留意する。不用意に死なれると処理が手間なだけだから」
「ふぇ!?」
素っ頓狂な声を出すリルに、スイウは続けて、
「まあ、肥やしになれば樹木は喜ぶかもしれんが」
「ちょ、埋める前提で話を進めるのやめてもらえません? 私、養分になってまでお家の好感度上げたくないんですけど!」
無表情な魔法使いとキャンキャン吠え立てる町娘に、天井の木の葉がさざめく。
……まるで楽しげに笑っているかのように。
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