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8、翌朝
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「ん……っ」
瞼に落ちる眩しい光に薄目を開ける。
リルが街を離れて二日目。外は晴天なのか、降り注ぐ木洩れ日が部屋を明るく照らしていて、すっかり夜が明けていることを体感する。
「おはよぉ~」
あくび混じりに家に挨拶する。上半身を起こすと、肩や背中に強張りを感じて腕を回す。
造ってもらったベッドは丸太のように滑らかな木肌で寝返りを打っても身体が傷つくことはないが、如何せん硬すぎるのが難点だ。マットでも敷ければいいのだが……。
「ねぇ、このベッドって、もう少し柔らかくならない?」
一応尋ねてみるが、家はだんまりを決め込んだまま。魔法使いの言うことしか聞いてくれないのだろうか。
「どうやったら仲良くなれるんだろ?」
ため息交じりに呟いて部屋を出る。赤毛を手櫛で束ねながらリビングに行くと、スイウがいた。
梢から降り注ぐ一条の光の中で佇む長い銀髪の青年の姿は幽玄的で、リルは思わず呼吸も忘れて見入ってしまう。
人の気配に気づいたのか、魔法使いは髪を揺らしてリルを振り返ると、わずかに金色の瞳を細めた。
「起きたか」
「お、おはようございますっ」
新入居者は慌てて挨拶する。
「スイウさんは早起きですね! 今が何時かは知らないけど」
焦って不必要な会話をしてしまうリルに、スイウは表情を変えずに足元に目を落とした。
「時間なら床に落ちる光の位置で判る」
「へ?」
リルも一緒に下を向くと、床には円状に規則正しい木目が並んだ箇所があって、その一つに木洩れ日が射しているのが見えた。
「今は六時だ」
どうやらこの家は天然の日時計の役割もあるらしい。
「季節によって日の傾きは変わるが、家の方で調整してくれる」
「へぇ、便利ですね!」
素直にリルが感心すると、梢が軽快に揺れた。家が照れたのかもしれない。
「スイウさんはいつもこの時間に起きるんですか?」
決まっているなら家主と起床時間を合わせようと思ったが、
「いや」
スイウはふるふると首を振る。
「寝てない」
「寝てない!?」
起床以前の問題だった。
「私には朝晩の区別はない。寝たくなったら寝て、起きたくなったら起きる。君は私の生活に合わせなくていい」
「……はい」
魔法使いとは自由な生き物らしい。
街育ちのリルと森の魔法使いのスイウでは、常識も習慣もまるで違う。この場所での暮らしに慣れるには時間が掛かりそうだ。――それでも彼女は、
「お茶を淹れてくれないか?」
「はい!」
好きなことを出来るとなれば、すぐにご機嫌になれるのだった。
瞼に落ちる眩しい光に薄目を開ける。
リルが街を離れて二日目。外は晴天なのか、降り注ぐ木洩れ日が部屋を明るく照らしていて、すっかり夜が明けていることを体感する。
「おはよぉ~」
あくび混じりに家に挨拶する。上半身を起こすと、肩や背中に強張りを感じて腕を回す。
造ってもらったベッドは丸太のように滑らかな木肌で寝返りを打っても身体が傷つくことはないが、如何せん硬すぎるのが難点だ。マットでも敷ければいいのだが……。
「ねぇ、このベッドって、もう少し柔らかくならない?」
一応尋ねてみるが、家はだんまりを決め込んだまま。魔法使いの言うことしか聞いてくれないのだろうか。
「どうやったら仲良くなれるんだろ?」
ため息交じりに呟いて部屋を出る。赤毛を手櫛で束ねながらリビングに行くと、スイウがいた。
梢から降り注ぐ一条の光の中で佇む長い銀髪の青年の姿は幽玄的で、リルは思わず呼吸も忘れて見入ってしまう。
人の気配に気づいたのか、魔法使いは髪を揺らしてリルを振り返ると、わずかに金色の瞳を細めた。
「起きたか」
「お、おはようございますっ」
新入居者は慌てて挨拶する。
「スイウさんは早起きですね! 今が何時かは知らないけど」
焦って不必要な会話をしてしまうリルに、スイウは表情を変えずに足元に目を落とした。
「時間なら床に落ちる光の位置で判る」
「へ?」
リルも一緒に下を向くと、床には円状に規則正しい木目が並んだ箇所があって、その一つに木洩れ日が射しているのが見えた。
「今は六時だ」
どうやらこの家は天然の日時計の役割もあるらしい。
「季節によって日の傾きは変わるが、家の方で調整してくれる」
「へぇ、便利ですね!」
素直にリルが感心すると、梢が軽快に揺れた。家が照れたのかもしれない。
「スイウさんはいつもこの時間に起きるんですか?」
決まっているなら家主と起床時間を合わせようと思ったが、
「いや」
スイウはふるふると首を振る。
「寝てない」
「寝てない!?」
起床以前の問題だった。
「私には朝晩の区別はない。寝たくなったら寝て、起きたくなったら起きる。君は私の生活に合わせなくていい」
「……はい」
魔法使いとは自由な生き物らしい。
街育ちのリルと森の魔法使いのスイウでは、常識も習慣もまるで違う。この場所での暮らしに慣れるには時間が掛かりそうだ。――それでも彼女は、
「お茶を淹れてくれないか?」
「はい!」
好きなことを出来るとなれば、すぐにご機嫌になれるのだった。
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