3 / 140
3、究極の二択
しおりを挟む
――店を出ていくリルを見送った男性客は、カウンターの中にいるマリッサに問いかけた。
「店主、彼女は何故店を辞めることに?」
マリッサは頬に手を当てて憂いげにため息をついた。
「あの子は不憫な子でねぇ。恩のある叔父さんが事業で失敗して夜逃げしちゃって。それで保証人になってたリルちゃんが借金を被ってしまったのさ。待っていた男達は高利貸しの手下だよ。行き着く先は奴隷か娼館か……。残念だよ、ゆくゆくはあの子にあたしの店を継いでもらいたかったのに」
窓の向こうには人相の悪い男に腕を引かれ、項垂れて歩く少女の姿が見えた。弱々しく揺れるポニーテールが物悲しい。
男性客はカウンターに小銭を置くと、エプロンの端で涙を拭うマリッサに目もくれず外へ出る。そして躊躇わずに口を開いた。
「待て」
突然響いた地を這うような重低音に、リルと男達は振り返る。
緑色の瞳に映った常連客の青年の姿に、リルは大層驚いた。どうして彼が追いかけてきたのだろう?
「なんだ、テメェは」
リルの困惑なんかお構いなしに、男達のボス格が常連客に剣呑な唸り声を上げる。しかし、場馴れしたならず者の威嚇にも彼は怯まない。無表情で右手を突き出した。
「彼女の借金はいくらだ? 証文があるだろう。見せてもらえないか」
淡々とした口調で言われ、ボス格はブハッと噴き出した。
「テメェ、この女と恋仲か? 残念だったな、こいつの借金は庶民がおいそれと払える額じゃ……」
気分良く嘲笑っている最中にふと気づく。眼の前の青年が広げている羊皮紙は、ボス格が懐に収めていたはずの証文ではないか……!?
「おい、いつの間に!」
色めき立つ男達を目で制し、青年はぼそりと呟いた。
「この金額なら、手持ちで足りるな」
自然な動作で腰に下げていた革袋を外し、口紐を解いた。中から現れたのは、明らかに借金よりも多い額の金貨だ。
青年は右手に証文、左手に金貨の袋を掲げたまま、リルに向き直る。そして、いつものお茶を注文するような素っ気ない口調で言った。
「君自身が選ぶといい。私と彼ら、どちらと共に行くのかを」
突然眼の前に突きつけられた人生の選択肢に、リルは――……。
「店主、彼女は何故店を辞めることに?」
マリッサは頬に手を当てて憂いげにため息をついた。
「あの子は不憫な子でねぇ。恩のある叔父さんが事業で失敗して夜逃げしちゃって。それで保証人になってたリルちゃんが借金を被ってしまったのさ。待っていた男達は高利貸しの手下だよ。行き着く先は奴隷か娼館か……。残念だよ、ゆくゆくはあの子にあたしの店を継いでもらいたかったのに」
窓の向こうには人相の悪い男に腕を引かれ、項垂れて歩く少女の姿が見えた。弱々しく揺れるポニーテールが物悲しい。
男性客はカウンターに小銭を置くと、エプロンの端で涙を拭うマリッサに目もくれず外へ出る。そして躊躇わずに口を開いた。
「待て」
突然響いた地を這うような重低音に、リルと男達は振り返る。
緑色の瞳に映った常連客の青年の姿に、リルは大層驚いた。どうして彼が追いかけてきたのだろう?
「なんだ、テメェは」
リルの困惑なんかお構いなしに、男達のボス格が常連客に剣呑な唸り声を上げる。しかし、場馴れしたならず者の威嚇にも彼は怯まない。無表情で右手を突き出した。
「彼女の借金はいくらだ? 証文があるだろう。見せてもらえないか」
淡々とした口調で言われ、ボス格はブハッと噴き出した。
「テメェ、この女と恋仲か? 残念だったな、こいつの借金は庶民がおいそれと払える額じゃ……」
気分良く嘲笑っている最中にふと気づく。眼の前の青年が広げている羊皮紙は、ボス格が懐に収めていたはずの証文ではないか……!?
「おい、いつの間に!」
色めき立つ男達を目で制し、青年はぼそりと呟いた。
「この金額なら、手持ちで足りるな」
自然な動作で腰に下げていた革袋を外し、口紐を解いた。中から現れたのは、明らかに借金よりも多い額の金貨だ。
青年は右手に証文、左手に金貨の袋を掲げたまま、リルに向き直る。そして、いつものお茶を注文するような素っ気ない口調で言った。
「君自身が選ぶといい。私と彼ら、どちらと共に行くのかを」
突然眼の前に突きつけられた人生の選択肢に、リルは――……。
48
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。
青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。
公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。
父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。
そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。
3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。
長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる