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101、ノルヴェスト砦(2)

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 着任の挨拶と砦内の主要施設の説明を聞き終わったら、もう夕方。
 初日ということで夜警の輪番にも入っていない今日はこれから自由時間だ。

「ね、エレノア。散歩に行こうよ」

 簡単に荷解きを済ませたユニが言う。ノルヴェストの官舎は一部屋に二段ベッドが四台も並んだ狭苦しい造りだけど、ここでもユニと同室なのはありがたい。

「うん、いいよ」

 これから三ヶ月はこの砦に滞在するのだ、土地勘を掴んでおかねば。即答した私の肩に羽の生えた仔虎が飛び乗ってくる。彼もお出かけする気満々だ。
 終業後といっても最前線なので私用の外出でも軍服のまま、私達は慣れない土地へと踏み出した。

「なんか、めちゃくちゃ賑わってるね」

「ノルヴェストは近隣の村の中では一番人口が多いんだって。だから隊商キャラバンの出入りも盛んなんだよ」

 辺りをキョロキョロ見回す私に、傍らのユニが教えてくれる。
 この地域では砦は街扱いなのか。王都の軍事施設も敷地は広かったけど、ノルヴェスト砦ここは規模が違う。とにかく人が多い。大通りには飲食店や雑貨屋が並んでいて、前線とは思えない物資の豊富さだ。でも大都会とは違って荒削りな雰囲気で、子どもの頃住んでいた下町を思い出す。

「どれくらいの人がいるんだろ?」

 混雑する大通りの中で独りごちると、

「現在は七万人ほどですね」

 頭の上という思ってもいない方向から答えが降ってきた。振り仰ぐと、そこには見知った青色髪が立っていた。

「ゴードン副長、お疲れ様です」

 すかさず挨拶するユニに、ゴードンは優しく目を細めた。

「お疲れ様。外出ですか。ご一緒しても?」

「はい、どーぞ」

 同行者わたしの意見を訊かずに返事するな、ユニ。別に反対しないけど。

「副長お一人ですか? フィル……アート殿下は?」

 ……危ない。うっかり『フィル』と言いそうになった。心の動揺を隠して平静を装い尋ねてみると、ゴードンは今度は意味深に目を細めて、

「殿下は総督と会食です。私一人ではご不満ですか?」

「……いいえ、全然」

 この人……淡々としてるのに、結構他人を見透かしてくるんだよね。食えない奴。

「でも、七万人も暮らしていて、そのほとんどが軍関係者なんでしょ? よくそんなに集まりましたね」

「今は最大期ですからね。通常なら一万人程度です」

 まっすぐ顔を向けて話しかけてくるユニに、ゴードンは自然に彼女の腕を引き寄せながら答える。丁度前から馬車が走って来たので、それを避けたのだ。

 ――なんとなく、この二人いい雰囲気なのよね。

 ここはお邪魔虫にならないよう、さり気なく私が消えるべきか。
 しかし、私にはゴードンに気取られずに姿をくらます技量がないぞ。
 若干の気まずさを抱えつつ、三人で歩いていると――

「だーかーら、イヤだってば!」

 ――またも聞き知った声が耳に飛び込んできた。
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