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99、通算三回目のデート(12)魔剣を作ろう、その後

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「は~~~、生き返るぅ~」

 浴槽に肩まで浸かり、至福のため息を漏らす。
 まったり足を伸ばす私の上では、セリニがスイスイ泳ぎ回っている。虎に近い魔獣のセリニは水浴びが好きらしく、シャンプーも嫌がらない。
 魔鉱石掘りから帰った泥だらけの私達は、カプリース家のメイドにお風呂に直行させられた。
 玄関ポーチに降り立った大きなセリニが猫サイズに戻った途端、ドサッとその場に泥山が出来た時には、使用人一同に悲鳴を上げられたものだ。
 大きなセリニについた泥は、小さくなっても質量は変わらない。では、虎サイズの時にいっぱいご飯を食べて、消化しないまま猫サイズになったら、胃の内容物の質量はどうなるのだろう?

「こういうのって、スノーが詳しいのかしら?」

 毛が濡れて一回り小さくなったセリニを抱き上げると、彼は「みゅ?」と首を傾げる。
 ……細かいことはどうでもいいか、可愛いから。

「今日はセリニも大活躍だったね。ありがとう」

 お風呂から上がると、丁寧にタオルドライして風と火魔法をブレンドして温風を作って白い毛並みを乾かす。学生の頃の猫被っていた私は髪の手入れに心血を注いでいたから、この温風魔法は得意。……今は乾かさないで寝ちゃって、翌朝髪が大爆発してるけど。

「たった数ヶ月で、人生変わっちゃったよね」

 無難な玉の輿生活を送るはずだったのに、今は騎士団で剣を振るってるなんて。

「……私が王子様のお妃様になったら、どうする?」

 ぽそっと訊いてみると、相棒の仔虎は大あくびを返すだけ。

「柄でもないよね」

 私はブンブン首を振って頭からウエディングドレスの妄想を追い出すと、セリ二を抱いてベッドに飛び込む。ああ、自分の部屋最高。
 明日も出掛ける予定があるから、早く寝なきゃなんないんだけど……。

「……」

 目を閉じると今日のフィルアートの告白が頭の中に蘇り、ベッドの上でジタバタゴロゴロ暴れ回ってしまった。

◆ ◇ ◆ ◇

 翌日、私はセリニをつれて武器屋へ出掛けた。目的は勿論、魔剣の材料を届けるためだ。

「わっ! すごいね。こんな魔鉱石見たことない。何属性だろ?」

 私の持ってきたオレンジ色の柔らかい石に、ザックは目をキラキラさせる。

「魔剣に使えそうですか?」

「金属との相性次第だけど。鋳溶かすとこ見ていく?」

「ぜひ!」

 せっかく森一つ潰して採ってきた魔石だもん、行く末は見届けたい。ザックの提案に一も二もなく飛びついた私に、武器屋の店員はドアに『閉店』の札を掛けて外に出た。
 歩くこと数十分、連れてこられたのは王都郊外の古い建物だった。

「ここがうちの鍛冶工房」

 開けっ放しのドアから熱気が吹き出している。中を覗くと、炉の前で作業している壮年の男性が見えた。

「親父、お客さん」

 ザックが声を掛けると、頭に手ぬぐいを巻いたおやじさんはこちらを見ると軽く会釈をして、すぐに作業を再開する。いかにも頑固な職人気質って感じ。

「ごめんね、無愛想で」

「全然」

 こっちがアポ無しで来たのだから、お構いなく。恐縮するザックに連れられて工房奥に行くと、小型の溶解炉が見えた。

「まずはこれで鋼と魔鉱石を溶かすよ。あ、うちの鋼の配合は企業秘密だからね」

 言いながらザックは溶鉱炉にるつぼをセットし、鋼を溶かす。そして、「割って入れた方がいいかな?」とオレンジの魔鉱石を手に取った……刹那。魔鉱石はぬるりと蛇のように長く伸び、自らるつぼの中に飛び込んだ。
 目を見張る私達の前で、鋼と混じり合った魔鉱石は一瞬強い輝きを放つと、すぐに収まった。

「なに、今の?」

「魔石の属性反応だ」

 呆然とする私とザックに、後ろから様子を窺っていたおやじさんが言う。

「火属性で鋼と相性のいい魔石だったみたいだな。強い剣が打てるぞ」

 鍛冶師の親方のお墨付きをもらって喜ぶ私達だけど、

「まあ、後はザックの腕次第だがな」

 しっかり釘を刺してくるところが偏屈だ。

「……絶対いい剣を打ってやる」

 闘争心を燃やしたザックにはぜひ頑張ってもらいたい。主に私のために。

「じゃあ、私はそろそろ行きますね」

 ずっと見ていたいけど、他にも終わらせなきゃならない用事がある。

「ああ、完成したらノルヴェスト砦に届けるから楽しみにしてて」

 溶解炉から目を離さず、ザックが手を振る。私が踵を返した……その時。
 ひらり、と肩の上のセリニから、白い猛禽の羽が一本抜け落ちた。羽はしばらくひらひらと浮遊した後、溶解炉の小さな口に吸い込まれ……、

 ボンッ!!

 天井まで届く勢いの火柱を上げた。

「ぎゃっ!」

 尻餅をつくザックに、私は慌てて駆け寄る。

「大丈夫? 怪我は?」

「無事だよ、ただ驚いただけ……」

 前髪の先を焦がしたザックがよろけながらも立ち上がる。
 恐る恐る覗き込むと、先程までオレンジに光っていたるつぼの中身は、青白く変わっていた。

「これって……」

「別の属性が混じったみたいだな」

 おやじさんの呆れ声に、私とザックは一斉にセリニに視線を向ける。
 元凶の魔獣は「みゃ?」とあざとい上目遣いで首を傾げた。
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