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90、通算三回目のデート(3)
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『俺はもう、見合いはしない』
聞こえた言葉の意味が理解できなくて、私は目をぱちくりさせた。固まった私にフィルアートは再度、噛んで含むように言う。
「見合いをする必要がなくなった。君と出会ったから」
……え?
顔を上げた私は、じっと見つめる彼と視線がぶつかった。透き通るような琥珀の瞳に射抜かれ、心拍数が跳ね上がる。
「ど、ど、どういう意味……?」
しどろもどろな私に、彼はあくまで落ち着いた口調で、
「俺は君と結婚したい。君以外とは結婚したくない。だからもう見合いはしない」
まっすぐ目を合わせたまま、しっかりと告げる。
「それくらい、俺はエレノアが好きだ」
……………………。
「えええぇぇええぇえぇぇぇ!?」
私は思わずしゃがみこんだまま全力で後ずさった。
な、何言ってんの? コクられた? 王子様がコクった!?
どういうこと? なんかの間違い? 夢? これは夢か!?
背中に岩壁がぶつかりこれ以上下がれなくなった私が両手で頬を挟んで混乱していると、フィルアートがずずいとにじり寄ってくる。
「どうした? そんなに取り乱して」
確実にあんたのせいだよ!!
「だって、殿下が変なこと言うから……」
「変か? 出会って二日目からはちゃんとプロポーズしてたつもりだが」
してた! 確かにしてた……けど!
「でも、いきなり結婚なんて……」
顔を隠そうと広げていた私の手を、フィルアートが優しく手首を掴んで外す。ああ、真っ赤になってるのがバレちゃう。
「俺のことが嫌いか?」
だから、子犬の目で見上げるなっ。
「き、嫌いではないけど……」
私はキュウっと鳴る胸を抑えて、必死に答える。
「でも私、あなたのことそういう風に考えてなかったから……」
それは本心だ。フィルアートは結婚できれば誰でも良くて、私は多くの候補者の一人だと思ってた。期待しても裏切られるから、二回目のデート以降は意識しないようにしてた。なのに、本気で私個人を好きだなんて。
「私、貴族の結婚なんて家同士のことで、私自身は安定した暮らしができればそれでいいって思ってた。だから、誰かと恋愛なんて、ましてや相手が王族なんて考えもしなかったから……」
狼狽える私が彼の琥珀の瞳の中で揺れている。不安げな表情。きっと私が断ると思ってる。でも……。でも……!
「だから……考える時間をください」
私の言葉に、フィルアートははっと目を見開いた。彼が何かを言う前に、私は続ける。
「フィルアート殿下のお気持ちは分かりました。だから私も真剣に考えます。考えて、考えて、それから結論を出します。……それまで、待ってもらえますか?」
窺うような私の視線を、彼は鹿爪らしい顔で受け止め――
「……良かった……」
――ほっと表情を崩すと、その場でぐったりと脱力した。
「保留でも嬉しい。何度もフラレるのはきつかった」
あ、地味にダメージ受けてたんだ、私の断りの台詞に。
「待つよ」
フィルアートは腕を伸ばし、手の甲で私の頬に触れた。
「君が俺を好きになってくれるまで。でも、そんなに遅くならない方がありがたい」
「それは、殿下次第じゃないですか?」
反射的に憎まれ口を叩く私に、彼は「努力する」と屈託なく笑う。
その笑顔を見てると……私が答えを出す日もそう遠くないんじゃないかと思った。
聞こえた言葉の意味が理解できなくて、私は目をぱちくりさせた。固まった私にフィルアートは再度、噛んで含むように言う。
「見合いをする必要がなくなった。君と出会ったから」
……え?
顔を上げた私は、じっと見つめる彼と視線がぶつかった。透き通るような琥珀の瞳に射抜かれ、心拍数が跳ね上がる。
「ど、ど、どういう意味……?」
しどろもどろな私に、彼はあくまで落ち着いた口調で、
「俺は君と結婚したい。君以外とは結婚したくない。だからもう見合いはしない」
まっすぐ目を合わせたまま、しっかりと告げる。
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「変か? 出会って二日目からはちゃんとプロポーズしてたつもりだが」
してた! 確かにしてた……けど!
「でも、いきなり結婚なんて……」
顔を隠そうと広げていた私の手を、フィルアートが優しく手首を掴んで外す。ああ、真っ赤になってるのがバレちゃう。
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だから、子犬の目で見上げるなっ。
「き、嫌いではないけど……」
私はキュウっと鳴る胸を抑えて、必死に答える。
「でも私、あなたのことそういう風に考えてなかったから……」
それは本心だ。フィルアートは結婚できれば誰でも良くて、私は多くの候補者の一人だと思ってた。期待しても裏切られるから、二回目のデート以降は意識しないようにしてた。なのに、本気で私個人を好きだなんて。
「私、貴族の結婚なんて家同士のことで、私自身は安定した暮らしができればそれでいいって思ってた。だから、誰かと恋愛なんて、ましてや相手が王族なんて考えもしなかったから……」
狼狽える私が彼の琥珀の瞳の中で揺れている。不安げな表情。きっと私が断ると思ってる。でも……。でも……!
「だから……考える時間をください」
私の言葉に、フィルアートははっと目を見開いた。彼が何かを言う前に、私は続ける。
「フィルアート殿下のお気持ちは分かりました。だから私も真剣に考えます。考えて、考えて、それから結論を出します。……それまで、待ってもらえますか?」
窺うような私の視線を、彼は鹿爪らしい顔で受け止め――
「……良かった……」
――ほっと表情を崩すと、その場でぐったりと脱力した。
「保留でも嬉しい。何度もフラレるのはきつかった」
あ、地味にダメージ受けてたんだ、私の断りの台詞に。
「待つよ」
フィルアートは腕を伸ばし、手の甲で私の頬に触れた。
「君が俺を好きになってくれるまで。でも、そんなに遅くならない方がありがたい」
「それは、殿下次第じゃないですか?」
反射的に憎まれ口を叩く私に、彼は「努力する」と屈託なく笑う。
その笑顔を見てると……私が答えを出す日もそう遠くないんじゃないかと思った。
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