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83、里帰り(1)

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  真鍮のドアハンドルを握ると、懐かしさが込み上げる。深みのあるウォールナットの扉を押し開くと、

「おかえりなさいませ、エレノアお嬢様」

 六人の常勤使用人が並んでお出迎え。

「ただいま、みんな」

 そのまま進むと、玄関ホールの中央にはオレンジブロンドの紳士と栗毛の婦人が立っている。その隣には同じ顔の青年が二人。

「おかえり、エレノア」

「おかえりなさい、エレノアちゃん」

伯父おとう様、伯母おかあ様、ただいま帰りました」

 スカートの裾を摘み、淑女のお辞儀をしようとした瞬間。

「おかえり、我が妹よ!」

「一段と可愛くなったな、妹よ!」

 八歳年上の従兄弟達お兄ちゃんズが左右から抱きついてくる。わわっ、肩のセリニが落ちるから!

「今、お茶を淹れるから荷物を置いてきたら? お部屋はエレノアちゃんが居た時のままなのよ」

「ありがとう、伯母様」

 重いトランクは執事に持ってもらって、私は階段を上って自室に向かう。

「ふわ~、実家の匂いがする~~~!」

 懐かしい天蓋付きのベッドに思わずダイブする。
 一ヶ月ぶりのカプリース邸。私は今日、就職してから初めての里帰りを果たした。

「この寝心地、やっぱ最高だわ」

 八年間慣れ親しんだ寝具でセリニを抱いてゴロゴロしていると、締め切っていなかったドアから「みゅう」と三毛猫が顔を出した。途端に弾かれたように白仔虎は起き上がり、文字通り飛んで猫の元へと向かう。二匹で顔を寄せ合いじゃれ合いながら、廊下へと駆けていく。あれはセリニの育てのお母さん。他の乳兄弟姉妹にも会いにいったのだろう。私の相棒も、たっぷり実家を堪能するといい。
 自室で一頻りのんびりしてから居間に行くと、テーブルにはケーキスタンドが用意してあった。香り高い紅茶と共に、一家揃っての団欒。

「エレノアちゃんがいると、家が明るくなるわ」

「グロウスもクラインもあちこち飛び回っていて、あまり家におらんからな」

「公演が多いからね。仕事があるのはいいことだよ」

 母と父とグロウスの会話を聞きながら、クラインが話しかけてくる。

「エレノアは五日間休みもらえたんだろう? どこか遊びに行こう。俺、休み取ったから」

「俺も俺も!」

 パルティトラ芸術界の売れっ子二人が妹の為に予定を空けてくれたのは嬉しい。だけど、

「あんまり時間がないかも。必要な物の買い出しや荷造りしなきゃならないから」

 私はカップケーキを頬張りつつ、首を竦める。
 ……そう、今回の休暇と里帰りには理由がある。
 それは、第七隊が来週から暗晦の森近くの砦に派遣されることになったからだ。
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