かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!

灯倉日鈴(合歓鈴)

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81、次席魔導士(1)

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 剣術の基礎練習が終わった午後、私はセリニを肩に乗せて魔導士隊の詰所までの道のりを歩いていた。訪問の理由は先日の廃病院のこと。
 魔物の幻覚に二度も惑わされて命の危機に晒された私は、フィルアートの助言を受けてその道の専門家魔法使いに精神攻撃への対処法を習いに来たのだ。
 国民の大半が魔力を持って生まれてくるパルティトラでも、職業として『魔法使い』を名乗る者は少ない。ましてや国から資格を得た『魔導士』はほんの一握り。王国の中でも特別な存在だ。
 軍にいる魔導士達は皆王国魔導士団に所属していて、騎士団やその他の軍隊に派遣される形で働いている。
 魔物討伐隊第七隊には現在五名の魔導士が在籍している。私はまだ入隊して日が浅いから、あまり彼らと関わっていない。とりあえず、挨拶がてら顔を出してみようと思っていたら……。
 私の十歩先で、詰所のドアが開いた。
 出て来たのは純白の髪に菫の瞳、引きずりそうな裾の濃紺のローブを羽織った少年魔導士だ。
 見知った顔に私が声を掛けようとした、その時。

「待って、スノー君!」

 中から彼を追いかけて一人の女性が飛び出してきた。スノーと揃いのローブの背の高い彼女は、紫色の長い髪を振り乱し、必死に訴える。

「あの、合同練習はちゃんと出てね? 隊列も覚えてくれなきゃ困るの。大きな魔物のは集団詠唱の攻撃魔法が有効だし。そりゃあ、スノー君は一人でも大丈夫かもだけど……。できれば明日は出て欲しいな。ねぇ、聞いてるかな? ねぇ、待って。スノー君!」

 当然待たないスノーは彼女の声に振り返りもせず、無表情で去っていく。残された彼女はしょんぼりと肩を落とし、開きっぱなしのドアへと踵を返して……遠巻きに眺めていた私と目が合った。

「あのぅ、ご用ですか?」

 涙目の彼女に尋ねられて、私はぎくりと肩を震わす。気まずい。

「ちょっと相談があって来たのですが、取り込み中なら後でいいです」

 若干引き気味の私に、彼女はふるふると首を振る。

「いえ、平気です。お見苦しいところをお見せしまして」

 深々とお辞儀をしてから、私に向き直る。年の頃は二十代半ばかな。水色の目が綺麗な美人さんだ。

「私はロザリンド、第七隊の次席魔導士です。あなたは?」

「先日入隊したエレノア――」

 ――ですけど、と言う前に。

「えぇ!?」

 ロザリンドは驚愕の叫びを上げた。

「もしかして、スノー君と仲がいいエレノアさんですか!?」

「違います」

 エレノアですが、仲は良くないです。
 そこはきっぱり否定しておいた。
 
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