80 / 101
80、セリニの能力
しおりを挟む
夜の官舎。夕食と入浴を済ませて就寝までの僅かな自由時間。
私はベッドに座ってセリニと遊んでいた。魚のぬいぐるみの付いた紐を振り回すと、ペシペシ猫パンチしたり、前足で抱え込んでガブガブ噛みつく仔虎の仕草は愛らしすぎて頬が緩みっぱなしだ。
「ユニ。この猫じゃらし、めっちゃ気に入ったみたい。ありがとね!」
机で書き物をしている同室者に声を掛けると、ユニは眼鏡のリムをクイッと上げてドヤ顔をする。
「でしょでしょ。不規則な動きになるよう魚の重さに拘ったのよ!」
猫じゃらし制作者は、カスタマーのリアクションに大満足だ。
厩務員の彼女は、なにかとセリ二を気にかけて可愛がってくれている。ありがたい。
ひょいっと天井に猫じゃらしを投げると、セリニは猛禽の翼を広げて上手に口でキャッチして、そのまま空中を飛び回る。羽いいなぁ、羽。
意識を集中すると、天井を見上げるパジャマ姿の私が見える。これが契約者との視覚同調。
「セリニはどこにいても私と繋がっているんだね」
だから安心して離れていられるし、居たい時に傍に居てくれる。この前は、助けに来てくれてありがとう。何度も口にした言葉をもう一度心で呟いていると、
「そのことなんだけどさ」
不意にユニが椅子ごとこちらに体を向けて話しかけてきた。
「先日エレノアが外出してた時、私は部屋で調べ物してたから、お昼寝しているセリニと一緒にいたんだけど。夕方頃、急にセリニが飛び起きて部屋を出て行っちゃったの。あれって街にいたエレノアのところに行ったんだよね?」
その日、私はユニに午後から出掛けると伝えていた。夕方までには戻るとも。でも結局深夜になっちゃって、セリニを抱えて帰宅した私はユニに「こんな遅くまでどこ行ってたの? もう少しで捜索隊出すとこだったんだよ!」と涙目で詰め寄られた。どうやらめちゃめちゃ心配掛けまくったらしい。謝りつつざっくり事情を説明したら、壮絶さに絶句してたけど。
「うん、そうだよ」
セリニは迷わず空から私の元に飛んで来られる。肯定の答えに、ユニは難しい顔でぽつりと、
「ありえない」
「なにが?」
聞き返す私に、彼女は一気に捲し立てる。
「だって、この軍事施設には強力な結界が張ってあって、騎獣は契約者と一緒じゃなきゃ外に出られないようになっているの。人間と騎獣、双方の安全のためにね。だからセリニが部屋を出ていった時、私は基地に戻ってきたエレノアを迎えに行ったんだと思ったの。騎獣が契約者の元へ駆けつける時の様子はよく知ってるから。それがまさか、結界に引っかからずに外に出ていたなんて……」
喋りながら考えを整理したユニは、一つの結論にたどり着く。
「この子、もしかして体の大きさに合わせて魔力の量も調整できるんじゃない?」
虎の大きさの時は魔力が強くて、猫の時は弱いってこと? それなら、強大な魔獣を閉じ込める結界を猫のセリニがすり抜けられた説明はつく。だけど、
「それって珍しいの?」
いまいちピンときてない私に、ユニは神妙に頷く。
「珍しいというか……。ここまで魔力量を自由にコントロールできる魔物がいるなんて聞いたことないわ。窮奇は文献にも載っている凶悪な魔獣、小さな結界じゃとても封じられない存在よ。幼獣だから大きな結界をすり抜けるって言い訳は、既に巨大化した時に神獣クラスの能力を発揮するセリニには通用しない。場面に合わせて魔力量を変えてどんな結界もすり抜ける魔獣なんて、誰にも止められないじゃない。もし、セリニとエレノアが契約してなかったら……」
ぶるっと体を震わせるユニに、私はゴクリと喉を鳴らす。
「それってつまり……」
ベッドに立って手を伸ばし、空飛ぶセリニを『たかいたかい』の格好で抱き止める。
「うちのセリニは超絶可愛い無敵にゃんこってこと!?」
真剣な表情で振り返った私に、ユニはブハッと吹き出した。
「それはいいわね。あなた達は二人揃っていれば平和でいられそう」
……?
なんで笑われてるのか解らないけど、私とセリニはずっと仲良しだ。
「ところでさ」
話題を変えたユニが二マッと笑う。
「王子様との二度目のデートは何か進展あったの?」
……そういえば、ざっくりとしか事情説明してなかったな。
「えーと……参加者が一人増えた」
「は? 誰?」
「スノー」
「え? スノーって、あの無愛想な筆頭魔導士? どうして??」
ハテナばかりのユニに、私は詳細を話し……。
やっぱり大爆笑された。
私はベッドに座ってセリニと遊んでいた。魚のぬいぐるみの付いた紐を振り回すと、ペシペシ猫パンチしたり、前足で抱え込んでガブガブ噛みつく仔虎の仕草は愛らしすぎて頬が緩みっぱなしだ。
「ユニ。この猫じゃらし、めっちゃ気に入ったみたい。ありがとね!」
机で書き物をしている同室者に声を掛けると、ユニは眼鏡のリムをクイッと上げてドヤ顔をする。
「でしょでしょ。不規則な動きになるよう魚の重さに拘ったのよ!」
猫じゃらし制作者は、カスタマーのリアクションに大満足だ。
厩務員の彼女は、なにかとセリ二を気にかけて可愛がってくれている。ありがたい。
ひょいっと天井に猫じゃらしを投げると、セリニは猛禽の翼を広げて上手に口でキャッチして、そのまま空中を飛び回る。羽いいなぁ、羽。
意識を集中すると、天井を見上げるパジャマ姿の私が見える。これが契約者との視覚同調。
「セリニはどこにいても私と繋がっているんだね」
だから安心して離れていられるし、居たい時に傍に居てくれる。この前は、助けに来てくれてありがとう。何度も口にした言葉をもう一度心で呟いていると、
「そのことなんだけどさ」
不意にユニが椅子ごとこちらに体を向けて話しかけてきた。
「先日エレノアが外出してた時、私は部屋で調べ物してたから、お昼寝しているセリニと一緒にいたんだけど。夕方頃、急にセリニが飛び起きて部屋を出て行っちゃったの。あれって街にいたエレノアのところに行ったんだよね?」
その日、私はユニに午後から出掛けると伝えていた。夕方までには戻るとも。でも結局深夜になっちゃって、セリニを抱えて帰宅した私はユニに「こんな遅くまでどこ行ってたの? もう少しで捜索隊出すとこだったんだよ!」と涙目で詰め寄られた。どうやらめちゃめちゃ心配掛けまくったらしい。謝りつつざっくり事情を説明したら、壮絶さに絶句してたけど。
「うん、そうだよ」
セリニは迷わず空から私の元に飛んで来られる。肯定の答えに、ユニは難しい顔でぽつりと、
「ありえない」
「なにが?」
聞き返す私に、彼女は一気に捲し立てる。
「だって、この軍事施設には強力な結界が張ってあって、騎獣は契約者と一緒じゃなきゃ外に出られないようになっているの。人間と騎獣、双方の安全のためにね。だからセリニが部屋を出ていった時、私は基地に戻ってきたエレノアを迎えに行ったんだと思ったの。騎獣が契約者の元へ駆けつける時の様子はよく知ってるから。それがまさか、結界に引っかからずに外に出ていたなんて……」
喋りながら考えを整理したユニは、一つの結論にたどり着く。
「この子、もしかして体の大きさに合わせて魔力の量も調整できるんじゃない?」
虎の大きさの時は魔力が強くて、猫の時は弱いってこと? それなら、強大な魔獣を閉じ込める結界を猫のセリニがすり抜けられた説明はつく。だけど、
「それって珍しいの?」
いまいちピンときてない私に、ユニは神妙に頷く。
「珍しいというか……。ここまで魔力量を自由にコントロールできる魔物がいるなんて聞いたことないわ。窮奇は文献にも載っている凶悪な魔獣、小さな結界じゃとても封じられない存在よ。幼獣だから大きな結界をすり抜けるって言い訳は、既に巨大化した時に神獣クラスの能力を発揮するセリニには通用しない。場面に合わせて魔力量を変えてどんな結界もすり抜ける魔獣なんて、誰にも止められないじゃない。もし、セリニとエレノアが契約してなかったら……」
ぶるっと体を震わせるユニに、私はゴクリと喉を鳴らす。
「それってつまり……」
ベッドに立って手を伸ばし、空飛ぶセリニを『たかいたかい』の格好で抱き止める。
「うちのセリニは超絶可愛い無敵にゃんこってこと!?」
真剣な表情で振り返った私に、ユニはブハッと吹き出した。
「それはいいわね。あなた達は二人揃っていれば平和でいられそう」
……?
なんで笑われてるのか解らないけど、私とセリニはずっと仲良しだ。
「ところでさ」
話題を変えたユニが二マッと笑う。
「王子様との二度目のデートは何か進展あったの?」
……そういえば、ざっくりとしか事情説明してなかったな。
「えーと……参加者が一人増えた」
「は? 誰?」
「スノー」
「え? スノーって、あの無愛想な筆頭魔導士? どうして??」
ハテナばかりのユニに、私は詳細を話し……。
やっぱり大爆笑された。
5
お気に入りに追加
4,080
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした
奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。
そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。
その時、一人の騎士を助けたリシーラ。
妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。
問題の公子がその騎士だったのだ。
無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳
キムラましゅろう
恋愛
わたし、ハノン=ルーセル(22)は術式を基に魔法で薬を
精製する魔法薬剤師。
地方都市ハイレンで西方騎士団の専属薬剤師として勤めている。
そんなわたしには命よりも大切な一人息子のルシアン(3)がいた。
そしてわたしはシングルマザーだ。
ルシアンの父親はたった一夜の思い出にと抱かれた相手、
フェリックス=ワイズ(23)。
彼は何を隠そうわたしの命の恩人だった。侯爵家の次男であり、
栄誉ある近衛騎士でもある彼には2人の婚約者候補がいた。
わたし?わたしはもちろん全くの無関係な部外者。
そんなわたしがなぜ彼の子を密かに生んだのか……それは絶対に
知られてはいけないわたしだけの秘密なのだ。
向こうはわたしの事なんて知らないし、あの夜の事だって覚えているのかもわからない。だからこのまま息子と二人、
穏やかに暮らしていけると思ったのに……!?
いつもながらの完全ご都合主義、
完全ノーリアリティーのお話です。
性描写はありませんがそれを匂わすワードは出てきます。
苦手な方はご注意ください。
小説家になろうさんの方でも同時に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる