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77、二回目のデート、のはず(17)

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 吸っても吐いても息が苦しい。私は努めてゆっくり呼吸をして、跳ね回る心臓の鼓動を落ち着かせる。
 満天の星と満月の下には、瓦礫の山と魔獣の死骸。……随分とシュールなデートだな。
 へたり込んだ私の肩に、猫サイズに戻ったセリニが飛び乗ってくる。「みゅう」と頬を寄せてくる窮奇に、私は顎を撫でて感謝を伝える。

「ありがとう、セリニ。助けに来てくれて」

 帰ったらブラッシングして美味しい物食べさせてあげるからね!

「あー、早く官舎に戻ってお風呂入りたい」

 服も髪もドロドロだ。本当に、王子の誘いに乗ると碌なことがない。次は絶対断るぞ、と心に決めながら立ち上がると、突然セリニが耳を伏せて「フシャーッ!」と威嚇の声を出した。驚いて彼の睨む先を辿ると、そこには倒れたマンティコアの躯があって……。切り裂かれた喉の奥に、ドロリとくすぶった炎の塊が覗いていた。小さな火花を飛ばすそれに、頭の中で激しく警鐘が鳴り出す。
 これ、爆発する!
 内側から照らされた死骸が光り輝く。私が衝撃から逃れようと身を翻した……刹那。

 ピシリ。

 突然、マンティコアが氷漬けになった。煙さえ上げず炎を打ち消す凍結力。振り返ると、風に白い髪をなびかせた魔法使いの少年が立っていた。

「……むかつく」

 スノーは尖らせた唇で吐き捨てると、凍った魔獣の頭を踵で踏み割った。

「僕の見せ場がなかったじゃん。むかつくむかつくむかつく!」

 ゲシゲシと氷像を粉砕し続けるスノーを、私は放っておくことにした。思春期って難しい。
 とりあえず危険は去ったので一息ついていると、

「エレノア」

 今度はフィルアートが右足を引きずりながら近づいてきた。

「よくやったな、エレノア」

「これのお陰です」

 私は握ったままの神剣を軽く掲げて笑って見せる。

「殿下は足は大丈夫ですか?」

「無理矢理引き抜いた時に多少折れたが問題ない。ミカに診てもらえばすぐ治る」

 ……骨が折れるのって大問題な気がするのですが……。本人が気にしてないならいいのかな?

「どうした? これはなにがあったんだ!?」

 遠くから警笛を鳴らしながら憲兵が近づいてくる音がする。フィルアートは私の手から神剣を取ると、血を払って鞘に収めながら憲兵隊に体を向ける。

「こっちだ。私は王国騎士団魔物討伐隊第七隊隊長フィルアート。魔獣に遭遇し討伐した」

 堂々とした口上に、憲兵達がどよめく。

「フィルアート殿下でしたか! まさか街中に魔物が出没るとは」

 初老の憲兵は敬礼すると、足元の死骸にしきりに感心する。

「なんと、マンティコアを退治なされるとは。流石はフィルアート殿下」

「いや、退治したのはうちの隊のエレノアだ」

 途端に憲兵の目が集中し、私は身を固くする。別に手柄を譲ってくれなくてもいいのに。

「殿下はよい部下をお持ちで」

「ああ、自慢の隊員だ」

 謙遜もなくお世辞を正面から受け止めないでよ。手放しに褒められて、私は気恥ずかしさにセリ二を抱きしめ俯いてしまう。……まあ、悪い気はしないけど。
 あれだけの大立ち回りの後だ。辺りには続々と野次馬が集まってきて、郊外の病院跡地は一気に喧騒に包まれる。
 私達は憲兵隊の事情聴取を受けた後、日付が変わるギリギリに帰路に着いたのだった。
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