かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!

灯倉日鈴(合歓鈴)

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69、二回目のデート、のはず(9)

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「何がですか?」

 聞き返す私に、フィルアートは答える。

「白ガウンは多分入院着だ。ここで死んだ入院患者なら、幽霊になって病棟を彷徨っていてもおかしくない。しかし、一般市民の霊がこれほど多くいるのはどういうことだ? しかも総じて若い」

 確かに、幽霊って自分の縁のある場所に出没るものよね。私は頭の中で話を整理する。廃病院に連れて来られた時、フィルアートは何て説明してたっけ? それは……。

『若者の間では心霊スポットが流行っている』
『面白がって病院に入った若者がそのまま姿を消した』

 ……導き出された結論に、私は血の気が引くのを感じた。

「この廃病院に肝試しに来た人達が幽霊になったの? 行方不明じゃなく……死んでるってこと?」

 フィルアートは神妙に頷く。

「しかも、人を襲う悪霊になるほど悲惨な死に方で」

 眼の前が暗くなる。この平和な王都で、一体何が起こっているの?

「さっき床から滲み出た汚泥を見ただろう? あれは明らかに魔力が介在している。人を殺し、魔に堕とす廃病院ここにはあるんだ」

 しん、と建物内は静まり返る。
 窓を照らす茜色の光が消えた。闇の帳の中でスノーが手のひらを宙に向けると、音もなく光球が生み出された。

「……うん、ね」

 つま先でタンタンと床を蹴って、スノーが口角を上げる。

「うるさい雑魚霊がいなくなったから、聴こえるようになった。ここにいるよ」

 彼が示しているのは、ロビーの床の下。でも、見渡す限り上階うえへの階段はあっても、地下に向かう階段は見当たらない。
 フィルアートは近くの長椅子をひっくり返し、音を立てて床を歩き、あちこちの壁を叩いて回った。そして、受付カウンターの中で足を止めた。

「あったぞ」

 カウンターの内側に隠れていたのは、床板の継ぎ目と区別がつかないほど巧妙に作られた扉だった。大きさは、成人男性がやっと通れるほど。開けてみると、暗闇の中に梯子が掛かっているのが見えた。
 うわぁ、嫌な予感しかしない。

「ようこそ、地獄の入口へ」

 勝手にチャッチフレーズをつけるスノーに笑う気も起きない。

「スノー、光球を落とせ」

 王子の命令に魔法使いが光の玉を暗闇に投げ入れた。届いた光から目測すると、深さは建物二階分というところか。

「ここで待っていてもいいぞ」

 地下への扉に半分体を埋めて見上げてくるフィルアートに、軽く首を竦める。

「ご冗談でしょ」

 ここまで来て、あとに引けるか。
 私はフィルアートに続き、暗黒へと続く梯子を下りていった。
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