かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!

灯倉日鈴(合歓鈴)

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62、二回目のデート、のはず(2)

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「ねえねえ、第三王子、アイス買って。エレノアの分も」

 休日でごった返す繁華街を並んで歩く。アイスクリームの屋台を見つけて無遠慮にせがむスノーに、フィルアートは「俺はチョコ味」と小銭を渡す。
 ……なんだ? この気安い会話は。
 私が軍に入ってから一週間。そういえば、スノーとフィルアートが話してるとこ初めてみたな。

「もしかして、二人は仲がいいの?」

 一応訊いてみると、

「ううん」

「取り立てては」

 双方、否定的なお答え。

「僕は去年まで王宮で暮らしてから、王族とは顔見知りなの。今は官舎住まいだけど」

 クッキー入りのアイスを私に差し出しながら、スノーが言う。そうか、黒い血の末裔の彼は王宮で保護されていたのか。

「でも、第三王子って呼び方はどうなの? 名前で呼んだら?」

 気になって注意してみるけど、

「なんで? 王族って人数多いから番号の方が呼びやすいじゃん」

「どんな呼び方されようと、俺が国王の三番目の王子だという事実は変わらないからな」

 双方気にしていないようだ。
 ……まあ、本人達がいいのなら構わないけど。
 二人共浮世離れした感じが、案外相性がいいのかもしれない。

「ところで、今日はどこに連れてってくれるんですか?」

 まだ目的地も教えてもらっていない。私の問いに、フィルアートはチョコアイスを頬張りながら返す。

「近場だ。今回は王都内だから」

 前回は荒野でしたからね。ってことは、今回は普通に街デートってこと? それならもっとおめかしして来ても良かったな。王室御用達のレストランに連れてってもらえるかもしれないし。
 あ、これってもしかして、前回のデートのやり直しなのかな? それとも、がんばってる私へのご褒美とか?
 なんにせよ、地の底まで落ちていた気分が急浮上する。
 せっかく誘ってくれたんだし、今日は楽しもう!

 そう思っていたのだけど……。

 アイスを食べながら繁華街を抜け、アイスを食べ終わる頃には閑静な住宅街を通り過ぎ、森林公園のゴミ箱にアイスのカップを放り込んで辿り着いた先は、民家もまばらな王都郊外。
 小一時間! 小一時間歩かされてますよ!!
 どこが近場だよ。デート仕様の女子を徒歩で移動させる距離じゃないよ!
 それでも日々の鍛錬で体力のついた私はまだ余裕だけど、普段インドア派の魔導士は更にたまったもんじゃない。

「ねえ……第三王子。どこまで行く気?」

 うんざりした表情で肩で息をするスノーをフィルアートが振り返る。

「着いたぞ」

 彼が立ち止まった先を見て、私ははっと呼吸を止めた。
 門の鉄扉に巻かれた太い鎖。間隔の狭い槍柵の囲いの向こう側に見えるのは、びっしり蔦に覆われた赤煉瓦の建物。庭は雑草が伸び放題で、枯れかけた柳の枝がカサカサと音を立てて揺れている。
 建物の周辺だけ空気が重く湿っていて、暖かいはずの気温で何故か鳥肌が立つ。

「ここは……?」

 見上げる私に、フィルアートはにやりと口角を上げた。

「廃病院だ」
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