62 / 101
62、二回目のデート、のはず(2)
しおりを挟む
「ねえねえ、第三王子、アイス買って。エレノアの分も」
休日でごった返す繁華街を並んで歩く。アイスクリームの屋台を見つけて無遠慮にせがむスノーに、フィルアートは「俺はチョコ味」と小銭を渡す。
……なんだ? この気安い会話は。
私が軍に入ってから一週間。そういえば、スノーとフィルアートが話してるとこ初めてみたな。
「もしかして、二人は仲がいいの?」
一応訊いてみると、
「ううん」
「取り立てては」
双方、否定的なお答え。
「僕は去年まで王宮で暮らしてから、王族とは顔見知りなの。今は官舎住まいだけど」
クッキー入りのアイスを私に差し出しながら、スノーが言う。そうか、黒い血の末裔の彼は王宮で保護されていたのか。
「でも、第三王子って呼び方はどうなの? 名前で呼んだら?」
気になって注意してみるけど、
「なんで? 王族って人数多いから番号の方が呼びやすいじゃん」
「どんな呼び方されようと、俺が国王の三番目の王子だという事実は変わらないからな」
双方気にしていないようだ。
……まあ、本人達がいいのなら構わないけど。
二人共浮世離れした感じが、案外相性がいいのかもしれない。
「ところで、今日はどこに連れてってくれるんですか?」
まだ目的地も教えてもらっていない。私の問いに、フィルアートはチョコアイスを頬張りながら返す。
「近場だ。今回は王都内だから」
前回は荒野でしたからね。ってことは、今回は普通に街デートってこと? それならもっとおめかしして来ても良かったな。王室御用達のレストランに連れてってもらえるかもしれないし。
あ、これってもしかして、前回のデートのやり直しなのかな? それとも、がんばってる私へのご褒美とか?
なんにせよ、地の底まで落ちていた気分が急浮上する。
せっかく誘ってくれたんだし、今日は楽しもう!
そう思っていたのだけど……。
アイスを食べながら繁華街を抜け、アイスを食べ終わる頃には閑静な住宅街を通り過ぎ、森林公園のゴミ箱にアイスのカップを放り込んで辿り着いた先は、民家も疎らな王都郊外。
小一時間! 小一時間歩かされてますよ!!
どこが近場だよ。デート仕様の女子を徒歩で移動させる距離じゃないよ!
それでも日々の鍛錬で体力のついた私はまだ余裕だけど、普段インドア派の魔導士は更にたまったもんじゃない。
「ねえ……第三王子。どこまで行く気?」
うんざりした表情で肩で息をするスノーをフィルアートが振り返る。
「着いたぞ」
彼が立ち止まった先を見て、私ははっと呼吸を止めた。
門の鉄扉に巻かれた太い鎖。間隔の狭い槍柵の囲いの向こう側に見えるのは、びっしり蔦に覆われた赤煉瓦の建物。庭は雑草が伸び放題で、枯れかけた柳の枝がカサカサと音を立てて揺れている。
建物の周辺だけ空気が重く湿っていて、暖かいはずの気温で何故か鳥肌が立つ。
「ここは……?」
見上げる私に、フィルアートはにやりと口角を上げた。
「廃病院だ」
休日でごった返す繁華街を並んで歩く。アイスクリームの屋台を見つけて無遠慮にせがむスノーに、フィルアートは「俺はチョコ味」と小銭を渡す。
……なんだ? この気安い会話は。
私が軍に入ってから一週間。そういえば、スノーとフィルアートが話してるとこ初めてみたな。
「もしかして、二人は仲がいいの?」
一応訊いてみると、
「ううん」
「取り立てては」
双方、否定的なお答え。
「僕は去年まで王宮で暮らしてから、王族とは顔見知りなの。今は官舎住まいだけど」
クッキー入りのアイスを私に差し出しながら、スノーが言う。そうか、黒い血の末裔の彼は王宮で保護されていたのか。
「でも、第三王子って呼び方はどうなの? 名前で呼んだら?」
気になって注意してみるけど、
「なんで? 王族って人数多いから番号の方が呼びやすいじゃん」
「どんな呼び方されようと、俺が国王の三番目の王子だという事実は変わらないからな」
双方気にしていないようだ。
……まあ、本人達がいいのなら構わないけど。
二人共浮世離れした感じが、案外相性がいいのかもしれない。
「ところで、今日はどこに連れてってくれるんですか?」
まだ目的地も教えてもらっていない。私の問いに、フィルアートはチョコアイスを頬張りながら返す。
「近場だ。今回は王都内だから」
前回は荒野でしたからね。ってことは、今回は普通に街デートってこと? それならもっとおめかしして来ても良かったな。王室御用達のレストランに連れてってもらえるかもしれないし。
あ、これってもしかして、前回のデートのやり直しなのかな? それとも、がんばってる私へのご褒美とか?
なんにせよ、地の底まで落ちていた気分が急浮上する。
せっかく誘ってくれたんだし、今日は楽しもう!
そう思っていたのだけど……。
アイスを食べながら繁華街を抜け、アイスを食べ終わる頃には閑静な住宅街を通り過ぎ、森林公園のゴミ箱にアイスのカップを放り込んで辿り着いた先は、民家も疎らな王都郊外。
小一時間! 小一時間歩かされてますよ!!
どこが近場だよ。デート仕様の女子を徒歩で移動させる距離じゃないよ!
それでも日々の鍛錬で体力のついた私はまだ余裕だけど、普段インドア派の魔導士は更にたまったもんじゃない。
「ねえ……第三王子。どこまで行く気?」
うんざりした表情で肩で息をするスノーをフィルアートが振り返る。
「着いたぞ」
彼が立ち止まった先を見て、私ははっと呼吸を止めた。
門の鉄扉に巻かれた太い鎖。間隔の狭い槍柵の囲いの向こう側に見えるのは、びっしり蔦に覆われた赤煉瓦の建物。庭は雑草が伸び放題で、枯れかけた柳の枝がカサカサと音を立てて揺れている。
建物の周辺だけ空気が重く湿っていて、暖かいはずの気温で何故か鳥肌が立つ。
「ここは……?」
見上げる私に、フィルアートはにやりと口角を上げた。
「廃病院だ」
5
お気に入りに追加
4,065
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※
両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。
多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。
大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。
そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……?
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
田舎暮らしの魔草薬師
鈴木竜一
ファンタジー
治癒魔法使いたちが集まり、怪我や病に苦しむ人たちを助けるために創設されたレイナード聖院で働くハリスは拝金主義を掲げる新院長の方針に逆らってクビを宣告される。
しかし、パワハラにうんざりしていたハリスは落ち込むことなく、これをいいきっかけと考えて治癒魔法と魔草薬を広めるべく独立して診療所を開業。
一方、ハリスを信頼する各分野の超一流たちはその理不尽さとあからさまな金儲け運用に激怒し、独立したハリスをサポートすべく、彼が移り住んだ辺境領地へと集結するのだった。
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる