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61、二回目のデート、のはず(1)
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――足が重い。
空は青く雲一つない。頬を撫でる穏やかな風が心地好い絶好のお出掛け日和なのだけど……。
できれば今日は寝ていたかった。全身筋肉痛でギシギシいってるんですけど!
それでもなんとか足を動かして約束の場所に向かうと、西門前に人影が見えた。
黒髪にすらりと高い背丈。ありふれた綿シャツが最高級の絹ブラウスに見えるほど気品漂う彼は、フィルアート、我が国の第三王子だ。くそぅ、ほんとに見てくれだけはいいな。
「お待たせしました」
「俺も今来たところだ」
合流の会話は普通のデートっぽいけど、油断は出来ない。こいつはいろいろやらかすからな。
「あの、私の服はどうですか?」
今日の衣装は、襟に草木模様の刺繍のあるカットソー、膝丈のキュロットスカートに厚手のソックスとショートブーツを合わせてみた。髪は編み込み入りのハーフアップ。貴重品は帆布のショルダーバッグに収めた。前回、いきなりダメ出し食らったから、今回は流行を取り入れつつカジュアルダウンしてみたのだけど。
フィルアートは、私を頭からつま先まで見下ろし、
「可愛いと思う」
「かわっ!!?」
私は叫びそうになる口を慌てて両手で押さえた。褒めた、普通に褒めたよ、この人! 今日連れて行かれる場所にふさわしい服装かどうか聞いただけなのに。
やればできるじゃん、王子。正直、ちょっとときめいた。最初からこうならもっと好感度上がったのに。
「どうした?」
動揺する私の顔を覗き込んでくるフィルアートに、「なんでもないです」と返す。
「それより、早く行きましょう。一刻も早く敷地内から出ましょう」
待ち合わせに職場を選んだものだから、人の視線が気になる。休日ということで訓練場には誰もおらず、幸い西側通用門までの道すがら誰にも声は掛けられなかったけど、同じ隊の隊長とプライベートで一緒にいる姿を見られるのは色々と気まずい。……やましいことはなくてもね。
今日だってただデートに誘われただけで、私は彼と付き合ってない。予定がないから断れなかっただけなのに、また婚約者なんて噂を立てられたらめんどくさいし……。
私が頭の中でごちゃごちゃ言い訳を並べていると、
「あ、エレノアみっけ!」
急に明るい声が上から降ってきた。見上げると、大きな欅の木の枝に真っ白な髪の魔法使いが座っていた。
げっ、ややこしい奴に遭遇した。
「こんなところで何してるの? スノー」
聞いてみると、彼は自分の身長の倍はある距離から、事もなげに飛び降りた。風を孕んで軽やかに着地したスノーは当然無傷だ。
「ここ、僕のお昼寝スポット。この通用門って滅多に使われないから穴場なんだよ」
ニコニコ言う魔法使いに、頭が痛くなる。待ち合わせ場所の選択ミスりましたよ、フィルアート殿下。
「あれ? 第三王子もいる。もしかして、どっか行くの? 僕も連れてってよ」
もう一人の存在に気づいたスノーはグイグイ距離を詰めてくる。空気読んで、スノー。どう考えても逢引の邪魔してるでしょ!
ここは最年長者に年下を諭してもらおうと、私がフィルアートに目配せした瞬間、彼は鷹揚に頷いた。
「来たければ、来てもいいぞ」
あああ、こっちも空気を読まない奴だったよ!
「では、行くか。遅くなると門限に間に合わなくなる」
「どこ行くの? 第三王子の奢り?」
さっさと通用門をくぐるフィルアートに、スノーが横柄な物言いでついていく。
そんな二人の背中を眺めながら、私はデートの定義について真剣に考えていた。
空は青く雲一つない。頬を撫でる穏やかな風が心地好い絶好のお出掛け日和なのだけど……。
できれば今日は寝ていたかった。全身筋肉痛でギシギシいってるんですけど!
それでもなんとか足を動かして約束の場所に向かうと、西門前に人影が見えた。
黒髪にすらりと高い背丈。ありふれた綿シャツが最高級の絹ブラウスに見えるほど気品漂う彼は、フィルアート、我が国の第三王子だ。くそぅ、ほんとに見てくれだけはいいな。
「お待たせしました」
「俺も今来たところだ」
合流の会話は普通のデートっぽいけど、油断は出来ない。こいつはいろいろやらかすからな。
「あの、私の服はどうですか?」
今日の衣装は、襟に草木模様の刺繍のあるカットソー、膝丈のキュロットスカートに厚手のソックスとショートブーツを合わせてみた。髪は編み込み入りのハーフアップ。貴重品は帆布のショルダーバッグに収めた。前回、いきなりダメ出し食らったから、今回は流行を取り入れつつカジュアルダウンしてみたのだけど。
フィルアートは、私を頭からつま先まで見下ろし、
「可愛いと思う」
「かわっ!!?」
私は叫びそうになる口を慌てて両手で押さえた。褒めた、普通に褒めたよ、この人! 今日連れて行かれる場所にふさわしい服装かどうか聞いただけなのに。
やればできるじゃん、王子。正直、ちょっとときめいた。最初からこうならもっと好感度上がったのに。
「どうした?」
動揺する私の顔を覗き込んでくるフィルアートに、「なんでもないです」と返す。
「それより、早く行きましょう。一刻も早く敷地内から出ましょう」
待ち合わせに職場を選んだものだから、人の視線が気になる。休日ということで訓練場には誰もおらず、幸い西側通用門までの道すがら誰にも声は掛けられなかったけど、同じ隊の隊長とプライベートで一緒にいる姿を見られるのは色々と気まずい。……やましいことはなくてもね。
今日だってただデートに誘われただけで、私は彼と付き合ってない。予定がないから断れなかっただけなのに、また婚約者なんて噂を立てられたらめんどくさいし……。
私が頭の中でごちゃごちゃ言い訳を並べていると、
「あ、エレノアみっけ!」
急に明るい声が上から降ってきた。見上げると、大きな欅の木の枝に真っ白な髪の魔法使いが座っていた。
げっ、ややこしい奴に遭遇した。
「こんなところで何してるの? スノー」
聞いてみると、彼は自分の身長の倍はある距離から、事もなげに飛び降りた。風を孕んで軽やかに着地したスノーは当然無傷だ。
「ここ、僕のお昼寝スポット。この通用門って滅多に使われないから穴場なんだよ」
ニコニコ言う魔法使いに、頭が痛くなる。待ち合わせ場所の選択ミスりましたよ、フィルアート殿下。
「あれ? 第三王子もいる。もしかして、どっか行くの? 僕も連れてってよ」
もう一人の存在に気づいたスノーはグイグイ距離を詰めてくる。空気読んで、スノー。どう考えても逢引の邪魔してるでしょ!
ここは最年長者に年下を諭してもらおうと、私がフィルアートに目配せした瞬間、彼は鷹揚に頷いた。
「来たければ、来てもいいぞ」
あああ、こっちも空気を読まない奴だったよ!
「では、行くか。遅くなると門限に間に合わなくなる」
「どこ行くの? 第三王子の奢り?」
さっさと通用門をくぐるフィルアートに、スノーが横柄な物言いでついていく。
そんな二人の背中を眺めながら、私はデートの定義について真剣に考えていた。
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