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59、街へお出掛け(3)

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 と、いうことで。
 騎獣具専門店の店主にセリニの採寸をしてもらう。流石ユニ御用達の店、以前行った魔獣店とは比べ物にならないほど、仕事が丁寧。……まあ、あれは私の店選びに難があったんだけど。
 色々測って説明を受けて、猫科魔獣用の鞍と手綱、それに急所を覆う甲冑を作ることにした。

「軽くて薄くて熱の籠らない魔法合金で作るから、お値段はこのくらい」

「げっ!!」

 羊皮紙にサラサラと書かれた内訳の下の合計金額に、私の目玉は飛び出しそうになる。

「たっか! もうちょっと安くなりませんか?」

「これが精一杯だよ。素材の質を落とせば安くなるが、騎獣の負担が増えるからね。無理なら余所の店に行っておくれ」

「この店は良心的よ。この価格は原価ギリギリだもん。ホント、どうやって商売してんだか」

 客を選ぶ店主を、常連ユニが援護する。う~、職人気質め。

「ちなみに、騎獣用品は経費で落ちますか?」

 上目遣いでゴードンに確認すると、

「基本、自腹です。経理に申請を出すと二割ほど補助金がもらえることもあります」

 にべもない上官のお答え。

「えぇと、月賦払いできますか?」

 これも可愛いセリニの為だ。がんばって働いて返していこうと思います。
 小さくなったセリニが宙をパタパタ飛び回る中、私は注文書にサインをしていく。何気なく振り返ると、店の奥ではゴードンとユニが商品を手に頭を寄せて笑い合っている。

 ……おや?

「お待たせしました」

 手続きを終えて二人の元へ行くと、

「では、私も手綱を買ってきますね」

 ゴードンは自然とユニから離れてカウンターに向かった。
 私は色々と訊きたくなったものの、疼く好奇心を抑え込んだ。
 騎獣具専門店を出たのは、昼下がり。ぽかぽかの陽気で眠くなる。

「さて、基地に戻ったら荷解きの続きしよっかな」

 入隊してすぐ入院で、荷物の整理が出来てなかったんだよね。早く終わらせなきゃと思っていたら、

「何言ってるんですか」

 ゴードンが冷たい声で水を差す。

「まだ就業時間内ですよ、帰ったら訓練再開です。給金が発生している以上、外出中も勤労意識を忘れないように」
 しまった。まだまだ時間が自由に使える学生気分が抜けていなかった。

「はぁい……」

 項垂れて返事をした私に、

「はいは短く一回!」

 またも上官の叱責が飛んだ。

◆ ◇ ◆ ◇

「ふへ~、疲れたぁ」

 お風呂上がりの私は、半乾きの髪のままベッドにダイブする。
 軍総司令部に戻った後、私は明日からの訓練計画を立ててから、終業の鐘が鳴るまでゴードン曰く「軽いランニング」を続けていたのだ。※全然軽くなかった。
 明日からはもっと辛い訓練が待っていると思うと就職先を間違った気がする。
 うつ伏せになった私のふくらはぎを、仔猫サイズの窮奇がふみふみして遊んでいる。

「やめて、セリニ。筋肉がぷるぷるしてるから!」

 悶絶する私を、ドレッサー前で髪を梳かしていた同室者ユニがクスクス笑う。

「今日はお疲れ様、エレノア。早く鞍ができるといいね」

「うん」

 私は首だけで顔を上げながら、彼女を見た。

「ねぇ、ユニってゴードン副長と仲良いの?」

「えぇ!?」

 突然の質問に、彼女は頬を真っ赤にして、癖のある毛先をもじもじいじる。

「仲良いというか……、騎獣を見によく厩舎に来るから、割りと喋る方かな? あと、仕事の相談にも真摯に対応してくれるし」

 ……ほほぅ。
 ニマニマする私に、「なんにもないから!」とユニはそっぽを向く。

「でも、ゴードン副長のことだけじゃなく、騎士団の中では第七隊は結構働きやすいと思うのよね」

 ブラシを髪に当てながら、ユニが言う。

「貴族とか騎士階級は威張る人が多いけど、この隊は平民にも非戦闘員にも階級関係なく接してくれる。フィルアート殿下がそういう人だから、似たような人が集まるのかも」

 ……意外と人望あるのね、あの王子様。

「私のことはいいから、エレノアはどうなの? フィルアート殿下とは……」

 ユニの高く愛らしい声が遠くなっていく。

「エレノア?」

 ダメだ、まぶたが重い。
 微かに苦笑の混じったため息が聞こえる。

「おやすみ、エレノア」

 肩に掛かる毛布の心地よさに、私は夢の中へと旅立った。
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