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55、副隊長と訓練(2)
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「それでは、早速質問していいですか? ゴードン先生」
私は立位体前屈しながら尋ねてみる。
「先生じゃないですけど、どうぞ」
いちいち訂正するのが副隊長らしい。
「先日の敵襲の時、フィルアート殿下は剣身の何倍もあるデスワームを両断しましたよね? 薪を割るみたいに。あれってどうやったんですか?」
ゴードンは「ふむ」と顎に手を当てて、
「エレノアさんは魔力がありますよね?」
「はい」
「あれは、剣に魔力を乗せて、標的に刃が当たった衝撃を剣身から延長させているのです」
「……はい?」
意味が解らないんですけど。
「実際にお見せしましょうか」
そう言ってゴードンは倉庫から巻藁を出してきて床に立てた。
「少し離れていてくださいね」
彼が手にしたのは、小振りのナイフ。刃渡りは巻藁の1/3もない。
……あんな短く薄い刃で、一抱えもある巻藁を斬る気なの? 半信半疑の私を背に、「よく視ていてくださいね」と言い置き、ゴードンは片手でナイフを構えた。
静かに息を吸い、一歩踏み出すタイミングで得物を振るう。
――次の瞬間。
すとん、っと巻藁の上半分が斜めに切れて床に落ちた。本当に、熱したナイフでバターを切るみたいに簡単に。
「どうです? 視ましたか?」
訊かれて私はコクコク頷く。
「視ました」
……確かに視た。ナイフの先から青い光が伸びて、刃が何倍も長くなった。
「すごい! なんですか、そのナイフ。魔剣ですか!?」
驚きに飛び跳ねる私に、ゴードンは「ただの数打ちですよ」とナイフを見せる。
「金属は魔力を通しやすいですからね。使い方を知っていれば、こういうことも出来ます。でも、あくまでナイフの攻撃力を延長させただけなので、それ以上に切れ味が良くなることはありません」
単に短い得物を長くできるだけってこと?
でも、その理屈なら、ゴードンは刃渡りが長ければ普通のナイフで片手で巻藁を両断できるってことか……。やっぱこの人トンデモナイ。
「あとは、幽鬼など実体のない魔物にも物理攻撃と同等のダメージを与えることができます」
「そんなこともできるんですか!」
純粋に感心する私に、ゴードンは不思議そうに首を傾げる。
「エレノアさんは、王立学園出身ですよね?」
「そうですよ」
「では、理屈は剣術の授業で習っているはずですが?」
……あ。
「私、運動系の授業は全部欠席していて……」
「へ? なんでですか?」
「……なんででしょうね」
玉の輿に乗るために病弱装ってました。なんて、口が裂けても言えない。
訝しむゴードンに、私は明後日の方を向いて気づかないふりをした。
私は立位体前屈しながら尋ねてみる。
「先生じゃないですけど、どうぞ」
いちいち訂正するのが副隊長らしい。
「先日の敵襲の時、フィルアート殿下は剣身の何倍もあるデスワームを両断しましたよね? 薪を割るみたいに。あれってどうやったんですか?」
ゴードンは「ふむ」と顎に手を当てて、
「エレノアさんは魔力がありますよね?」
「はい」
「あれは、剣に魔力を乗せて、標的に刃が当たった衝撃を剣身から延長させているのです」
「……はい?」
意味が解らないんですけど。
「実際にお見せしましょうか」
そう言ってゴードンは倉庫から巻藁を出してきて床に立てた。
「少し離れていてくださいね」
彼が手にしたのは、小振りのナイフ。刃渡りは巻藁の1/3もない。
……あんな短く薄い刃で、一抱えもある巻藁を斬る気なの? 半信半疑の私を背に、「よく視ていてくださいね」と言い置き、ゴードンは片手でナイフを構えた。
静かに息を吸い、一歩踏み出すタイミングで得物を振るう。
――次の瞬間。
すとん、っと巻藁の上半分が斜めに切れて床に落ちた。本当に、熱したナイフでバターを切るみたいに簡単に。
「どうです? 視ましたか?」
訊かれて私はコクコク頷く。
「視ました」
……確かに視た。ナイフの先から青い光が伸びて、刃が何倍も長くなった。
「すごい! なんですか、そのナイフ。魔剣ですか!?」
驚きに飛び跳ねる私に、ゴードンは「ただの数打ちですよ」とナイフを見せる。
「金属は魔力を通しやすいですからね。使い方を知っていれば、こういうことも出来ます。でも、あくまでナイフの攻撃力を延長させただけなので、それ以上に切れ味が良くなることはありません」
単に短い得物を長くできるだけってこと?
でも、その理屈なら、ゴードンは刃渡りが長ければ普通のナイフで片手で巻藁を両断できるってことか……。やっぱこの人トンデモナイ。
「あとは、幽鬼など実体のない魔物にも物理攻撃と同等のダメージを与えることができます」
「そんなこともできるんですか!」
純粋に感心する私に、ゴードンは不思議そうに首を傾げる。
「エレノアさんは、王立学園出身ですよね?」
「そうですよ」
「では、理屈は剣術の授業で習っているはずですが?」
……あ。
「私、運動系の授業は全部欠席していて……」
「へ? なんでですか?」
「……なんででしょうね」
玉の輿に乗るために病弱装ってました。なんて、口が裂けても言えない。
訝しむゴードンに、私は明後日の方を向いて気づかないふりをした。
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