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52、王子のお迎え

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 重い扉を押し開けると、ふわりと涼しい風が頬を撫でる。
 ふわぁ、空気が美味しい!
 たった二日の入院だったけど、ずっと寝たきりだったからね。深呼吸すると強張っていた身体がほっと解れていく。 腕の中のセリニも、私の真似をしてくわっと大あくびしている。
 病院建物を一歩出ると、最初に目に飛び込んできたのは黒のサラサラ髪。詰め襟の軍服を着た彼は、私に気づくと深緑のマントをふわりと翻し、琥珀の瞳を眩しげに細めた。

「やあ、退院したな」

 嬉しそうに微笑むフィルアート。くそぅ、この王子、無駄に格好いいな。無駄に。

「わざわざ待ってたんですか?」

「また明日、って約束したろ?」

 呆れる私に、フィルアートはさらりと返す。あなたの約束はいつも一方的ですけどね。……悪い気はしないけど。
 この人って、なんで私に構いたがるんだろう?
 私と王子は並んで軍総司令部に続く渡り廊下を歩いていく。病棟と司令部の建物の間には中庭があって、ランニングや筋トレしている兵士がちらほら見受けられる。

「怪我の具合はどうだ?」

「もう大丈夫です」

 身体は問題ありませんが、髪には若干不安が残っておりますよ。
 数歩進んでから、不意に彼は立ち止まって私の顔を覗き込んだ。

「散々な初陣になってしまったな」

 辛そうに眉根を寄せる。

「訓練もままならない新兵を前線に立たせたのはこちらの落ち度だ。申し訳ない」

「……司令官がそんなに簡単に謝っちゃダメですよ」

 私は何気ない風に嘯く。

「私の怪我は私の油断が招いたこと。これからはもっと気を引き締めます」

「そのことだが……」

 フィルアートは歯切れ悪く、

「君は俺が無理矢理引き入れたようなものだ。もし、まだ気が乗らな……」

 言いかけた彼の唇に、人差し指を当てた。

「それ以上言ったら、怒りますよ」

 わざと眉を吊り上げる。

「私、誰かに命令されて人生決める人間じゃありませんから。私が辞める時は、私が辞めたくなった時だけ。今は役立たずな自分に腹が立ってるんです。せっかく燃え上がった闘志に水を差すのはやめてくれません?」

 びしっと断言した私に、王子は驚いたように目を見開いて、

「流石だな、エレノア・カプリース」

 子供のように笑った。

「そうか。それならあれは余計なお節介だったな」

 ん?
 思案げに呟くフィルアートに、私は首を傾げる。

「お節介って?」

「ああ、君が実家で養生したいかと思って……」

 聞き返す私に、彼が答えかけた……その時。

「「エレノア!!」」

 いきなり左右からガバッと抱き着かれた!
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