52 / 101
52、王子のお迎え
しおりを挟む
重い扉を押し開けると、ふわりと涼しい風が頬を撫でる。
ふわぁ、空気が美味しい!
たった二日の入院だったけど、ずっと寝たきりだったからね。深呼吸すると強張っていた身体がほっと解れていく。 腕の中のセリニも、私の真似をしてくわっと大あくびしている。
病院建物を一歩出ると、最初に目に飛び込んできたのは黒のサラサラ髪。詰め襟の軍服を着た彼は、私に気づくと深緑のマントをふわりと翻し、琥珀の瞳を眩しげに細めた。
「やあ、退院したな」
嬉しそうに微笑むフィルアート。くそぅ、この王子、無駄に格好いいな。無駄に。
「わざわざ待ってたんですか?」
「また明日、って約束したろ?」
呆れる私に、フィルアートはさらりと返す。あなたの約束はいつも一方的ですけどね。……悪い気はしないけど。
この人って、なんで私に構いたがるんだろう?
私と王子は並んで軍総司令部に続く渡り廊下を歩いていく。病棟と司令部の建物の間には中庭があって、ランニングや筋トレしている兵士がちらほら見受けられる。
「怪我の具合はどうだ?」
「もう大丈夫です」
身体は問題ありませんが、髪には若干不安が残っておりますよ。
数歩進んでから、不意に彼は立ち止まって私の顔を覗き込んだ。
「散々な初陣になってしまったな」
辛そうに眉根を寄せる。
「訓練もままならない新兵を前線に立たせたのはこちらの落ち度だ。申し訳ない」
「……司令官がそんなに簡単に謝っちゃダメですよ」
私は何気ない風に嘯く。
「私の怪我は私の油断が招いたこと。これからはもっと気を引き締めます」
「そのことだが……」
フィルアートは歯切れ悪く、
「君は俺が無理矢理引き入れたようなものだ。もし、まだ気が乗らな……」
言いかけた彼の唇に、人差し指を当てた。
「それ以上言ったら、怒りますよ」
わざと眉を吊り上げる。
「私、誰かに命令されて人生決める人間じゃありませんから。私が辞める時は、私が辞めたくなった時だけ。今は役立たずな自分に腹が立ってるんです。せっかく燃え上がった闘志に水を差すのはやめてくれません?」
びしっと断言した私に、王子は驚いたように目を見開いて、
「流石だな、エレノア・カプリース」
子供のように笑った。
「そうか。それならあれは余計なお節介だったな」
ん?
思案げに呟くフィルアートに、私は首を傾げる。
「お節介って?」
「ああ、君が実家で養生したいかと思って……」
聞き返す私に、彼が答えかけた……その時。
「「エレノア!!」」
いきなり左右からガバッと抱き着かれた!
ふわぁ、空気が美味しい!
たった二日の入院だったけど、ずっと寝たきりだったからね。深呼吸すると強張っていた身体がほっと解れていく。 腕の中のセリニも、私の真似をしてくわっと大あくびしている。
病院建物を一歩出ると、最初に目に飛び込んできたのは黒のサラサラ髪。詰め襟の軍服を着た彼は、私に気づくと深緑のマントをふわりと翻し、琥珀の瞳を眩しげに細めた。
「やあ、退院したな」
嬉しそうに微笑むフィルアート。くそぅ、この王子、無駄に格好いいな。無駄に。
「わざわざ待ってたんですか?」
「また明日、って約束したろ?」
呆れる私に、フィルアートはさらりと返す。あなたの約束はいつも一方的ですけどね。……悪い気はしないけど。
この人って、なんで私に構いたがるんだろう?
私と王子は並んで軍総司令部に続く渡り廊下を歩いていく。病棟と司令部の建物の間には中庭があって、ランニングや筋トレしている兵士がちらほら見受けられる。
「怪我の具合はどうだ?」
「もう大丈夫です」
身体は問題ありませんが、髪には若干不安が残っておりますよ。
数歩進んでから、不意に彼は立ち止まって私の顔を覗き込んだ。
「散々な初陣になってしまったな」
辛そうに眉根を寄せる。
「訓練もままならない新兵を前線に立たせたのはこちらの落ち度だ。申し訳ない」
「……司令官がそんなに簡単に謝っちゃダメですよ」
私は何気ない風に嘯く。
「私の怪我は私の油断が招いたこと。これからはもっと気を引き締めます」
「そのことだが……」
フィルアートは歯切れ悪く、
「君は俺が無理矢理引き入れたようなものだ。もし、まだ気が乗らな……」
言いかけた彼の唇に、人差し指を当てた。
「それ以上言ったら、怒りますよ」
わざと眉を吊り上げる。
「私、誰かに命令されて人生決める人間じゃありませんから。私が辞める時は、私が辞めたくなった時だけ。今は役立たずな自分に腹が立ってるんです。せっかく燃え上がった闘志に水を差すのはやめてくれません?」
びしっと断言した私に、王子は驚いたように目を見開いて、
「流石だな、エレノア・カプリース」
子供のように笑った。
「そうか。それならあれは余計なお節介だったな」
ん?
思案げに呟くフィルアートに、私は首を傾げる。
「お節介って?」
「ああ、君が実家で養生したいかと思って……」
聞き返す私に、彼が答えかけた……その時。
「「エレノア!!」」
いきなり左右からガバッと抱き着かれた!
2
お気に入りに追加
4,082
あなたにおすすめの小説
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
へっぽこ召喚士は、モフモフ達に好かれやすい〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
翠玉 結
ファンタジー
憧れの召喚士になったミア・スカーレット。
ただ学園内でもギリギリで、卒業できたへっぽこな召喚士。
就職先も中々見当たらないでいる中、ようやく採用されたのは魔獣騎士団。
しかも【召喚士殺し】の異名を持つ、魔獣騎士団 第四部隊への配属だった。
ヘマをしないと意気込んでいた配属初日早々、鬼畜で冷酷な団長に命じられるまま召喚獣を召喚すると……まさかの上司である騎士団長 リヒト・アンバネルを召喚してしまう!
彼らの秘密を知ってしまったミアは、何故か妙に魔獣に懐かれる体質によって、魔獣達の世話係&躾係に?!
その上、団長の様子もどこかおかしくて……?
「私、召喚士なんですけどっ……!」
モフモフ達に囲まれながら、ミアのドタバタな生活が始まる…!
\異世界モフモフラブファンタジー/
毎日21時から更新します!
※カクヨム、ベリーズカフェでも掲載してます。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる