かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!

灯倉日鈴(合歓鈴)

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51、お迎え

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 病棟は、軍総司令部の建物と渡り廊下で繋がっているらしい。
 とりあえず、女性官舎に帰りたいんだけど、どこから外に出れるんだろ?
 あと、セリニ。どこにいるのかな? 所有者登録してるから、呼べば来るんだよね?
 ええと、まずはセリニと視界を同調させて……と、思ったら。

「みゃーーー!!」

 いきなり、白い翼が廊下の先から全速力で突っ込んできた!

「わっ、っと!」

 咄嗟に広げた私の腕の中に、翼のある虎は真っ直ぐダイブしてくる。

「ただいま、セリニ」

 私の肩に前足を乗せて、思いっきり頬ずりしてくる凶獣の背中を存分に撫でてあげる。うーん、やっぱりこのもふもふは至福だ!

「お迎えに来てくれたの? ありがとう」

 窮奇に向かってそう言うと、

「今日退院だって言ってたでしょ」

 廊下の角からひょこっと顔を出した白頭が答える。あ、スノーが連れて来てくれたのか。
 ニコニコ近づいてくる彼は、やっぱり無愛想とは程遠い。

「スノーって神出鬼没だけど、いつも何やってんの?」

 私は歩きながら尋ねてみる。今は就業時間のはずなのに。彼は歩幅を合わせながら、

「好きなこと。昼寝したり本読んだり。ここ二日はセリニと遊んでた」

 なにそれ、優雅。私もその生活したい。

「そういえば。聞いたよ、『黒い血』の話」

 隠す理由もないし私から切り出すと、王国の生物兵器の末裔は好奇心に紫の目を輝かせた。

「どう思った?」

「私は当事者じゃないから。ただの昔話としか」

 他人事な感想に、当事者は「だよねー!」とケラケラ笑う。

「僕自身も、魔物が混じってるって言われても、良く解んない。『黒い血』っていっても、僕の血、赤いし」

 そうなんだ。

「魔力が人より強いのはありがたいけど、どうせなら変身できればいいのにね。セリニみたいに巨大化とか」

「……なりたいの?」

 それより栄養摂った方が賢明でしょ、まだ育ち盛りなんだから。

「夢見るくらいいいじゃん。僕に翼があったら、カッコよくない?」

 上目遣いに窺うスノーを、

「正直、イタい」

 私はすぱっとぶった斬った。
 むうっと頬を膨らます少年に、今度は私から訊いてみる。

「スノーは王国を恨んでるの?」

「へ? なんで?」

 キョトンと首を捻る。

「勝手に百年前の罪悪感から僕に働かなくても給金をくれる政府だよ? ありがたがりこそすれ、恨むいわれはないよ。むしろ、なくなったら困る。僕に恨むべき対象がいるとしたら、僕を捨てた父さんだけど。今の生活が楽すぎるから、逆に捨ててくれて感謝ってかんじだし」

 名前に似て、冷めたお子さんだ。

「それにしては、自分の出自を吹聴して回ってるって」

「回ってるってほど、他人と喋ってないんだけどなぁ。ほら、僕、無口なキャラだし」

 嘘つけ。
 私も最初に本人あんたから『黒い血』って単語聞いたぞ。

「僕、優遇されまくってるから、妬んだり絡んだりしてくる人が結構いるんだよね。そういう賎民に、僕は特権階級なんだってに教えてあげてるだけ。後は勝手に怯えて避けてくれるから便利!」

 なんていうか……ファンタジー小説なら主役張れる重い設定持ちなのに、悲壮感がなさすぎるぞ、この子。

「ところで。スノーって、兵役免除になってるのに、魔物討伐には参加してるのよね?」

 ゴードン副長が「仕事はできる」って言ってたもんね。

「うん。能力給貰えるし、暇潰し程度に」

 彼は事も無げに頷く。

「大っぴらに殺戮魔法使えるの、魔物にくらいだしね。対人だと、正当防衛の状況を作らなきゃならないし」

「……それはやめなさい。後々ややこしいから」

「うん。エレノアがとめたから、もうやらない」

 気持ちの良い笑顔で頷くスノー。
 ……なんで私、この子にこんなに気に入られてんだろ?
 白い髪の少年は指を伸ばし、私のオレンジブロンドの毛先に触れてくる。

「怪我、もう痛くない?」

 捨てられた子犬の悲哀で尋ねる彼に、私は笑ってしまう。

「平気よ、ミカ先生に治してもらったから」

 ……ちょっとハゲたけどね。
 進行方向の先に、建物の出口が見えてくる。どうやらスノーが誘導してくれていたらしい。

「あ、あとさ」

 折角だから私は別の質問もしてみる。

「前にスノーが言ってた、鍵や――」

 ――くって何? と言う前に、

「今日はここまで」

 彼が人差し指を翳して、私の唇を遮った。

「全部話しちゃうと、次がなくなっちゃうでしょ? お楽しみは後に取っておかなきゃ」

 悪戯っぽく白い歯を見せるスノー。
 ……私はネタバレOKですが?

「じゃあ、またね。エレノア」

 スッと自然な仕草で頬に寄せてきた唇に、私も滑らかなバックステップで距離を取る。
 たとえほっぺでも、早々何度もキスさせないからね。
 空振った唇を拗ねたように尖らせて、少年は去っていく。
 その後ろ姿を見送りながら、私はぽつっと呟いた。

「あの子、普通に性格悪いな」

 腕の中の仔虎が、「みゅ?」と不思議そうに首を傾げた。
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