かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!

灯倉日鈴(合歓鈴)

文字の大きさ
上 下
50 / 101

50、遺伝

しおりを挟む
「……ってことは、スノーには魔物の血が入ってるってことですか?」

「そうね。彼の父親は普通の人間だし、六世代目だからあまり濃くはないと思うけど」

 私のどストレートな疑問に、ミカはサラリと答える。
 ほほう、だからセリニと仲良しなのかな。

「長年、政府は黒い血の存在を隠蔽してきたけど、彼が戻ってきたことで、露見してしまった」

 悩ましげにため息をつくミカに、私は首を捻る。

「でも、どうやってスノーが黒い血の末裔だって証明したんですか?」

 見た目は人間だし、子供を捨てて逃げた父親の証言なんて当てにならないのに。

「それは……彼の能力が魔物並だったからよ」

 ミカは眉根を寄せて、

「習ったわけでもないのに、最高位の魔導士より強い魔法が使える。それに、一般人がまず観ることの出来ない黒い血の研究記録の内容を、彼は知っていたの。きっと母親から教わったのでしょう」

 対魔物兵器として、人間を創り変えるなんて……。

「随分、非人道的な行為がなされてきたんですね」

「そうね」

 私の零した言葉に、ミカは同意しつつも、

「でも、お陰でパルティトラの民は生き延びてきたの。黒い血の研究の副産物として、合成獣や魔物の所有者登録の技術も発展したわ」

 一般人は恩恵を受けても……当事者としては溜まったもんじゃないだろうな。

「王城に残されたスノーを、政府は軍籍に置いて扶養することにしたの。一応、王族であるフィルアート殿下の配下になっているけど、兵役につくかは自由。人を殺さない限りは軍律破りも免除。今は文字通り飼い殺しの状態よね」

 それが、黒い血を生み出したことに対する王家の贖罪なのだろう。

「でも、私にこんな詳しく他人スノーのこと話していいんですか?」

 医師の守秘義務はないのだろうか?

「再三言うけど、あの子が自分から吹聴してるのよ」

 私の不安に、軍医は首を竦める。

「自分は黒い血、穢れた者だって」

 それは本人から聞いた気がする。

「それにあの子、無愛想で」

 そう? ウザいくらい人懐っこかったけど。

「横柄で皮肉屋で癇癪持ちだから、みんなに距離を置かれてる……いえ、自分から距離を置くよう仕向けてるのよ」

 ……ああ、それは解るかも。

「でもね」

 ミカはふっと息をついて、

「アナタが意識不明の時、スノーがしょっちゅう様子見に来てたのよ。白い虎を抱て」

 無断侵入以外にも来てたのか。

「あの子が他人に興味を持つのは初めてだから、歪んだ断片を聞いて偏見を持つ前に、史実を知っていて欲しかったの。ちょっとしたお節介」

 ……なるほどね。

「でも私、今の話を聞いたところで、彼に何かしてあげようとか思いませんけど」

 正直、私は玉の輿に学生生活を捧げるくらいは自分最優先だから、他に回す余力はない。

「それでいいと思うわ」

 ミカは意味深に口角を上げて、

「だからスノーに気に入られたのかもね」

 ……なんか、私の周り厄介な人ばっかだな。

「ありがとうございました」

 話の途切れたタイミングで、私は席を立つ。訓練復帰は明日からだから、セリニを引き取りに行ってから、自室でダラダラしよう。
 ドアに向かう私に、妖艶な軍医は「ねえ」と問いかけた。

「エレノアちゃんには、心当たりはない?」

「はい?」

 振り返る私に目を細めて、

「今話したように、その体質は大半は遺伝なのよね。勿論、突然変異もあるけど。今後の治療のためにも、何かアタシが知っておくことはある?」

 ミカの見透かすような眼光に、私は思わす片手で左目を覆った。

「……何も」

 それだけ言い置いて、逃げるように病室を出る。
 廊下に出ると、不安に鼓動の速まる胸を押さえた。
 ……あんなこと言われたら、嫌でも勘繰りたくなるじゃない。

 ──名前も知らない、父の存在を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※ 両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。 多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。 大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。 そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……? *HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

田舎暮らしの魔草薬師

鈴木竜一
ファンタジー
 治癒魔法使いたちが集まり、怪我や病に苦しむ人たちを助けるために創設されたレイナード聖院で働くハリスは拝金主義を掲げる新院長の方針に逆らってクビを宣告される。  しかし、パワハラにうんざりしていたハリスは落ち込むことなく、これをいいきっかけと考えて治癒魔法と魔草薬を広めるべく独立して診療所を開業。  一方、ハリスを信頼する各分野の超一流たちはその理不尽さとあからさまな金儲け運用に激怒し、独立したハリスをサポートすべく、彼が移り住んだ辺境領地へと集結するのだった。

処理中です...