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50、遺伝
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「……ってことは、スノーには魔物の血が入ってるってことですか?」
「そうね。彼の父親は普通の人間だし、六世代目だからあまり濃くはないと思うけど」
私のどストレートな疑問に、ミカはサラリと答える。
ほほう、だからセリニと仲良しなのかな。
「長年、政府は黒い血の存在を隠蔽してきたけど、彼が戻ってきたことで、露見してしまった」
悩ましげにため息をつくミカに、私は首を捻る。
「でも、どうやってスノーが黒い血の末裔だって証明したんですか?」
見た目は人間だし、子供を捨てて逃げた父親の証言なんて当てにならないのに。
「それは……彼の能力が魔物並だったからよ」
ミカは眉根を寄せて、
「習ったわけでもないのに、最高位の魔導士より強い魔法が使える。それに、一般人がまず観ることの出来ない黒い血の研究記録の内容を、彼は知っていたの。きっと母親から教わったのでしょう」
対魔物兵器として、人間を創り変えるなんて……。
「随分、非人道的な行為がなされてきたんですね」
「そうね」
私の零した言葉に、ミカは同意しつつも、
「でも、お陰でパルティトラの民は生き延びてきたの。黒い血の研究の副産物として、合成獣や魔物の所有者登録の技術も発展したわ」
一般人は恩恵を受けても……当事者としては溜まったもんじゃないだろうな。
「王城に残されたスノーを、政府は軍籍に置いて扶養することにしたの。一応、王族であるフィルアート殿下の配下になっているけど、兵役につくかは自由。人を殺さない限りは軍律破りも免除。今は文字通り飼い殺しの状態よね」
それが、黒い血を生み出したことに対する王家の贖罪なのだろう。
「でも、私にこんな詳しく他人のこと話していいんですか?」
医師の守秘義務はないのだろうか?
「再三言うけど、あの子が自分から吹聴してるのよ」
私の不安に、軍医は首を竦める。
「自分は黒い血、穢れた者だって」
それは本人から聞いた気がする。
「それにあの子、無愛想で」
そう? ウザいくらい人懐っこかったけど。
「横柄で皮肉屋で癇癪持ちだから、みんなに距離を置かれてる……いえ、自分から距離を置くよう仕向けてるのよ」
……ああ、それは解るかも。
「でもね」
ミカはふっと息をついて、
「アナタが意識不明の時、スノーがしょっちゅう様子見に来てたのよ。白い虎を抱て」
無断侵入以外にも来てたのか。
「あの子が他人に興味を持つのは初めてだから、歪んだ断片を聞いて偏見を持つ前に、史実を知っていて欲しかったの。ちょっとしたお節介」
……なるほどね。
「でも私、今の話を聞いたところで、彼に何かしてあげようとか思いませんけど」
正直、私は玉の輿に学生生活を捧げるくらいは自分最優先だから、他に回す余力はない。
「それでいいと思うわ」
ミカは意味深に口角を上げて、
「だからスノーに気に入られたのかもね」
……なんか、私の周り厄介な人ばっかだな。
「ありがとうございました」
話の途切れたタイミングで、私は席を立つ。訓練復帰は明日からだから、セリニを引き取りに行ってから、自室でダラダラしよう。
ドアに向かう私に、妖艶な軍医は「ねえ」と問いかけた。
「エレノアちゃんには、心当たりはない?」
「はい?」
振り返る私に目を細めて、
「今話したように、その体質は大半は遺伝なのよね。勿論、突然変異もあるけど。今後の治療のためにも、何かアタシが知っておくことはある?」
ミカの見透かすような眼光に、私は思わす片手で左目を覆った。
「……何も」
それだけ言い置いて、逃げるように病室を出る。
廊下に出ると、不安に鼓動の速まる胸を押さえた。
……あんなこと言われたら、嫌でも勘繰りたくなるじゃない。
──名前も知らない、父の存在を。
「そうね。彼の父親は普通の人間だし、六世代目だからあまり濃くはないと思うけど」
私のどストレートな疑問に、ミカはサラリと答える。
ほほう、だからセリニと仲良しなのかな。
「長年、政府は黒い血の存在を隠蔽してきたけど、彼が戻ってきたことで、露見してしまった」
悩ましげにため息をつくミカに、私は首を捻る。
「でも、どうやってスノーが黒い血の末裔だって証明したんですか?」
見た目は人間だし、子供を捨てて逃げた父親の証言なんて当てにならないのに。
「それは……彼の能力が魔物並だったからよ」
ミカは眉根を寄せて、
「習ったわけでもないのに、最高位の魔導士より強い魔法が使える。それに、一般人がまず観ることの出来ない黒い血の研究記録の内容を、彼は知っていたの。きっと母親から教わったのでしょう」
対魔物兵器として、人間を創り変えるなんて……。
「随分、非人道的な行為がなされてきたんですね」
「そうね」
私の零した言葉に、ミカは同意しつつも、
「でも、お陰でパルティトラの民は生き延びてきたの。黒い血の研究の副産物として、合成獣や魔物の所有者登録の技術も発展したわ」
一般人は恩恵を受けても……当事者としては溜まったもんじゃないだろうな。
「王城に残されたスノーを、政府は軍籍に置いて扶養することにしたの。一応、王族であるフィルアート殿下の配下になっているけど、兵役につくかは自由。人を殺さない限りは軍律破りも免除。今は文字通り飼い殺しの状態よね」
それが、黒い血を生み出したことに対する王家の贖罪なのだろう。
「でも、私にこんな詳しく他人のこと話していいんですか?」
医師の守秘義務はないのだろうか?
「再三言うけど、あの子が自分から吹聴してるのよ」
私の不安に、軍医は首を竦める。
「自分は黒い血、穢れた者だって」
それは本人から聞いた気がする。
「それにあの子、無愛想で」
そう? ウザいくらい人懐っこかったけど。
「横柄で皮肉屋で癇癪持ちだから、みんなに距離を置かれてる……いえ、自分から距離を置くよう仕向けてるのよ」
……ああ、それは解るかも。
「でもね」
ミカはふっと息をついて、
「アナタが意識不明の時、スノーがしょっちゅう様子見に来てたのよ。白い虎を抱て」
無断侵入以外にも来てたのか。
「あの子が他人に興味を持つのは初めてだから、歪んだ断片を聞いて偏見を持つ前に、史実を知っていて欲しかったの。ちょっとしたお節介」
……なるほどね。
「でも私、今の話を聞いたところで、彼に何かしてあげようとか思いませんけど」
正直、私は玉の輿に学生生活を捧げるくらいは自分最優先だから、他に回す余力はない。
「それでいいと思うわ」
ミカは意味深に口角を上げて、
「だからスノーに気に入られたのかもね」
……なんか、私の周り厄介な人ばっかだな。
「ありがとうございました」
話の途切れたタイミングで、私は席を立つ。訓練復帰は明日からだから、セリニを引き取りに行ってから、自室でダラダラしよう。
ドアに向かう私に、妖艶な軍医は「ねえ」と問いかけた。
「エレノアちゃんには、心当たりはない?」
「はい?」
振り返る私に目を細めて、
「今話したように、その体質は大半は遺伝なのよね。勿論、突然変異もあるけど。今後の治療のためにも、何かアタシが知っておくことはある?」
ミカの見透かすような眼光に、私は思わす片手で左目を覆った。
「……何も」
それだけ言い置いて、逃げるように病室を出る。
廊下に出ると、不安に鼓動の速まる胸を押さえた。
……あんなこと言われたら、嫌でも勘繰りたくなるじゃない。
──名前も知らない、父の存在を。
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