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49、黒い血の末裔
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凶悪で強大な魔物が歪を通って魔界から地上へと大量に押し寄せてくる最大期。
いつもなら最大期を迎えた歪は、その後すぐに収束期に入るはずなのだが……。その期は、二十年を過ぎ、二十五年を超えても、収まる気配を見せなかった。
やむことのない魔物の襲撃に、人々は疲弊し、パルティトラ王国は衰退の一途を辿っていた。
日増しに多く強くなっていく魔物を、神の加護を受けた王族率いる王国軍でさえ防ぎ切ることはできない。
兵も民も倒れ、王国の三分の二が焦土と化した頃……。
一人の魔導師が、こんな提案をした。
「このままでは、パルティトラの民は全滅してしまう。人の力でこの窮地を乗り越える術がないのなら、我々が人を超える力を持たねばならない」
……そうして始まったのが『黒い血』計画だ。
魔物に対抗する能力を持つ人間を『創る』。その為には……人間が魔物の能力を取り入れるしかない。
かくして、王家公認の元、人間と魔物を融合させる実験が始まった。
被験者には罪人が選ばれたが、だからといって倫理的に許される範囲ではない。大半の者は適合せずに文字通り引き裂かれ、辛うじて融合した成功体も理性を失い発狂した。
魔導師達は融合を安定させる為、成功体を交配させることにした。そして生まれてきた二世が、人魔融合の完成体『黒い血の魔法使い』だ。
人の皮と魔物の能力を持った彼らは、絶大な力をもって王国の盾となった。この時、計画開始から十五年。前線に立っていた彼らの年齢は推して知るべしだ。
年端もいかぬ頃から最前線に投げ込まれ、対魔兵器として戦い続けていた彼らがお役御免になったのは、それから数年のこと。
突然、収束期が訪れたのだ。
魔物は激減し、俯き嘆いていた人々は、朗らかにこの世の春を歌い出した。
王国全土が活気を取り戻し、急速に復興していく中……黒い血の魔法使いへの迫害が始まった。
人であって人でない彼らを、凡人が恐れるのは自明だ。
王国の窮地を救うべく生み出された彼らは、平和な世の中では忌避の対象でしかなかった。
しかし、来る次の最大期の為に、彼らは必要だ。
権力者達は『黒い血』の公の記録を抹消し、王宮の奥にひっそりと彼らを閉じ込めながら研究を続けた。彼らは協力を拒み、時に反乱を起こしたが、結局は制圧され数を減らしていった。
状況が変わったのは、当代の王の御代になってからだ。
彼らの惨状を憂いていた王は、即位と同時に黒い血を解放すると宣言したのだ。この時、既に計画が開始されてから八十年近い歳月が過ぎていた。
五世代目になっていた黒い血を引き継いでいたのは僅か一人。二十代の女性だった。自由になった彼女はふらりと姿を消し、それきり音沙汰がなくなった。
……そして、パルティトラ史にまた『黒い血』が現れたのは、五年前。
一人の農夫が子供を連れて王城にやってきたのだ。
『この子は俺と妻の子だ。でも妻が死んで、俺一人ではこの悪魔の子を育てられない。どうか、面倒見てくだせぇ』
そう言い残し、農夫は転がるように逃げていった。
残されたのは、白髪に紫の目をした、十歳くらいの少年。
虚ろな瞳でぼんやり佇むその子供こそ……。
――黒い血の血統六世代目、スノー・レシタルだった。
いつもなら最大期を迎えた歪は、その後すぐに収束期に入るはずなのだが……。その期は、二十年を過ぎ、二十五年を超えても、収まる気配を見せなかった。
やむことのない魔物の襲撃に、人々は疲弊し、パルティトラ王国は衰退の一途を辿っていた。
日増しに多く強くなっていく魔物を、神の加護を受けた王族率いる王国軍でさえ防ぎ切ることはできない。
兵も民も倒れ、王国の三分の二が焦土と化した頃……。
一人の魔導師が、こんな提案をした。
「このままでは、パルティトラの民は全滅してしまう。人の力でこの窮地を乗り越える術がないのなら、我々が人を超える力を持たねばならない」
……そうして始まったのが『黒い血』計画だ。
魔物に対抗する能力を持つ人間を『創る』。その為には……人間が魔物の能力を取り入れるしかない。
かくして、王家公認の元、人間と魔物を融合させる実験が始まった。
被験者には罪人が選ばれたが、だからといって倫理的に許される範囲ではない。大半の者は適合せずに文字通り引き裂かれ、辛うじて融合した成功体も理性を失い発狂した。
魔導師達は融合を安定させる為、成功体を交配させることにした。そして生まれてきた二世が、人魔融合の完成体『黒い血の魔法使い』だ。
人の皮と魔物の能力を持った彼らは、絶大な力をもって王国の盾となった。この時、計画開始から十五年。前線に立っていた彼らの年齢は推して知るべしだ。
年端もいかぬ頃から最前線に投げ込まれ、対魔兵器として戦い続けていた彼らがお役御免になったのは、それから数年のこと。
突然、収束期が訪れたのだ。
魔物は激減し、俯き嘆いていた人々は、朗らかにこの世の春を歌い出した。
王国全土が活気を取り戻し、急速に復興していく中……黒い血の魔法使いへの迫害が始まった。
人であって人でない彼らを、凡人が恐れるのは自明だ。
王国の窮地を救うべく生み出された彼らは、平和な世の中では忌避の対象でしかなかった。
しかし、来る次の最大期の為に、彼らは必要だ。
権力者達は『黒い血』の公の記録を抹消し、王宮の奥にひっそりと彼らを閉じ込めながら研究を続けた。彼らは協力を拒み、時に反乱を起こしたが、結局は制圧され数を減らしていった。
状況が変わったのは、当代の王の御代になってからだ。
彼らの惨状を憂いていた王は、即位と同時に黒い血を解放すると宣言したのだ。この時、既に計画が開始されてから八十年近い歳月が過ぎていた。
五世代目になっていた黒い血を引き継いでいたのは僅か一人。二十代の女性だった。自由になった彼女はふらりと姿を消し、それきり音沙汰がなくなった。
……そして、パルティトラ史にまた『黒い血』が現れたのは、五年前。
一人の農夫が子供を連れて王城にやってきたのだ。
『この子は俺と妻の子だ。でも妻が死んで、俺一人ではこの悪魔の子を育てられない。どうか、面倒見てくだせぇ』
そう言い残し、農夫は転がるように逃げていった。
残されたのは、白髪に紫の目をした、十歳くらいの少年。
虚ろな瞳でぼんやり佇むその子供こそ……。
――黒い血の血統六世代目、スノー・レシタルだった。
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