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42、初陣(5)

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 痛いとか熱いとか、どっちともつかない衝撃が背中にはしる。

「……ぐっ」

 息が詰まって悲鳴も出ない。背中を包むどろりとした感覚と、シュウシュウと音を立てて上がる白い蒸気と脂の焦げる嫌な臭い。……あ、私の背中、溶けてる。

「……スノー、無事?」

 かろうじて口を開いて訊いてみると、白髪の少年は、顔まで真っ白になってコクコクと頷く。

「そう、よか……」

 私がホッとしたのも束の間。
 ガクンッ!
 乗っていた窮奇が大きく傾いた。
 ああっ、セリニの風切羽にもデスワームの粘液がかかって溶けかけている!
 上空でバランスを崩した白虎の背から、私は投げ出された。

「エレノア!」

 必死の形相でスノーが手を伸ばすが、届かない。爪の先を掠めただけで、彼の指は空振りする。
 夜風が当たる背中が刺すように痛む。
 地上へ引っ張らせるように落ちていく私を、スノーとセリニが見下ろしている。二人の瞳が悲痛に歪んでいる。

 グルヲォォォ!

 唸りを上げたセリニが頭を下げて、宙を蹴って私を追いかけようとしている。

(だめ!)

 私は所有者登録で繋がった心で、相棒に命じる。
 そんな翼で急降下したら、そのまま墜落しちゃうかもしれない。
 体勢を立て直して、安全な場所に降りて。私は大丈夫。だって……。
 不安げに私を見つめるセリニの目を通して解る。
 私の下に広がる、藍色の大きな翼が。

「エレノア!」

 ……落ちてきた私を受け止めたのは、しなやかで力強いフィルアートの両腕。
 事態を察知した彼は、翼竜ルラキを駆って私の落下地点に先回りしていたのだ。
 さすが王子様。美味しいとこ持ってくね。

「エレノア! 大丈夫か、エレノア!」

 ……どうみても大丈夫じゃないっす。
 抗魔力仕様のマントで私を包んで呼びかけるフィルアートに、私は軽口を返す余裕もない。

「寝るな、エレノア。意識を保て!」

 無茶言わないで。起きてるとすっごい背中が痛いんですけど。
 目を瞑りそうになる私の頬をペチペチ叩いて覚醒させながら、フィルアートは部下に指示を飛ばす。

「負傷兵を運ぶ! 重傷者は俺の騎竜に乗せろ! ゴードン、残務処理は任せた!」

「はっ!」

 ビシッと副長が敬礼を返す。
 多分、隊長自ら負傷者を搬送するのは、ルラキが一番速く飛べるからだろう。
 周囲で慌ただしく駆け回る音がしているけど、周りを見渡す気力もない。
 ……セレニとスノーはどこにいるんだろ?

「エレノア、がんばれ! すぐに助けてやる!」

 しっかりと私を抱える王子の手が温かい。
 長大な翼が風を孕み、重力から解き放たれる浮遊感。

 ……今日の私、役立たずなばかりか大迷惑じゃん……。

 こんな後悔したまんま死んだら、化けて出そうだ。
 そんなくだらないことを考えながら、私の思考は闇へと引きずり込まれた。
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