かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました！

34、同室者（１）

　猫サイズ魔獣を抱っこして、しばらくベッドでゴロゴロしてから、私はようやく体を起こした。
　同室の人が帰ってくる前に、荷解きしとかなきゃ。
　二台のベッドは部屋の左右の壁に寄せられていて、チェストも二つ。物書き用の机が中央の端に一台。鏡合わせの配置の室内だ。
　私のスペースは、ドアから入って右手側。左側のベッドには熊のぬいぐるみ、チェストの上には化粧品の瓶や小物がオシャレな配置で並んでいる。
　まだ見ぬ同室の子は、女子力高そうだ。
　私はトランクを開けて、空のチェストに衣類を詰めていく。今日支給されたばかりの騎士団の軍服はハンガーで壁に吊るした。
　丈の長い紺の詰め襟は、初めて会った時にフィルアートが着ていた物と似ているが、飾りが少なくデザインも簡素だ。ま、平の騎士見習いなんてこんなもんよね。
　魔力合成繊維でできているという軍服は、魔法攻撃――つまり、魔物の攻撃――に耐性が高いのだそうだ。基本的に軍服は出動時に着用し、普段の訓練中は動きやすい服装であれば特に指定はないらしい。
　まだ袖を通していない軍服。いつ着ることになるのだろう……。
　私は感慨深く壁に掛かった詰め襟を眺めて――

「うっ」

　――気づいてしまった。
　紺地の軍服が、白い毛だらけだということに！

「セーリーニー！」

　まだベッドで丸くなってぬくぬくしていた仔虎をひっくり返して、お腹をわしゃわしゃ撫でる。

「もう！　君のせいで軍服が真っ白じゃない！」

　彼は悪びれもせずゴロゴロ喉を鳴らして身を捩る。
　うう、毎日ブラッシングしてるのに、無限に毛が飛ぶぞ！　可愛いけど。
　軍服にもブラシを掛けなきゃ。
　……そういえば、同室の子って、猫（っぽい魔物）好きかな？　ゴードンはペット禁止って言ってたけど、騎獣厩舎に入れるには、セリニは小さすぎるし……。
　悩みながらも白虎と戯れていると、不意にガチャリとドアの開く音がした。振り返ると、そこには黒髪をおさげにした私と同年代の女性が立っていた。
　あ、同室の子が帰ってきたのかな？

「こんにちは。私、今日から配属されたエレノア・カプ……」

　挨拶しかけた……その時。

「ちょっと！　貴女、なんなの！？」

　おさげの彼女は丸眼鏡を光らせ、猛烈な勢いで私に突進してきた！