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33、魔導士スノー
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「君とはまた会えると思っていたんだ。僕、勘がいいでしょ」
にこにこしながら、スノーが近づいてくる。
「セリニも元気だった?」
何気なく伸ばされた少年の手に、窮奇はゴロゴロと頬を擦りつける。この子達、初対面から仲良いんだよね。何故か。
「ええと、スノーよね?」
「うん。名前、覚えてくれたんだ、嬉しいな」
ついさっき無視した子とは同一人物だと思えないくらい愛想が良い。
「ここ、女子官舎だけど?」
「エレノアに挨拶に来ただけだから、すぐに出て行くよ。固いことは言いっこなしね!」
言いながら彼は、私のベッドに腰を下ろす。
……帰る気ないだろ、それ。
「副長が朝礼で言ってた隊長の推薦枠で入って来た新人って、エレノアだったんだね」
無視している割には、ちゃんとゴードンの話を聞いているらしい。
「他のことは聞いてる?」
「他って?」
「なんでもない」
……婚約者って話は、ゴードンで止まっていたみたいだ。一安心。
「エレノアって、第三王子とどんな関係なの?」
殿下って言わないところが不敬な子だ。
「どんなって……兄の知り合い、かな?」
目下口説かれ中です。とは、口が裂けても言えない。
「そう、良かった」
スノーはにこにこと、
「フィルアート王子は『王家の鍵鑰』だからね。長生きしないから好きにならない方がいいよ」
「は!?」
私は思わず声を荒げてしまった。
「長生きできないって、どういうこと? 鍵鑰って何!?」
肩を掴む私に、スノーは笑顔を崩さない。
「あ、これって秘匿事項かな? 僕が言ったことは内緒ね」
「内緒って……」
「でも、言ったところで僕は処分されないよ。だって僕は『黒い血』の末裔だから」
何? 黒い血って??
「じゃ、僕は帰るね」
しっかり掴んでいたはずなのに、スノーはいつの間にか私の手をすり抜けて、窓際に立っていた。
「またね、エレノア」
窓を開けて、何のてらいもなくそこから飛び降りる。
「ちょっ!」
ここ、三階!
慌てて窓から身を乗り出して下を覗き込むけど、地面には少年の姿はどこにもなかった。
これが、魔導士の能力か。
……なんか、知らない単語がいくつも出てきたんですけど……。
「誰か、攻略本持ってないの?」
私はうんざり呟いて、仔虎を抱えてベッドにダイブした。
にこにこしながら、スノーが近づいてくる。
「セリニも元気だった?」
何気なく伸ばされた少年の手に、窮奇はゴロゴロと頬を擦りつける。この子達、初対面から仲良いんだよね。何故か。
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ついさっき無視した子とは同一人物だと思えないくらい愛想が良い。
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「エレノアに挨拶に来ただけだから、すぐに出て行くよ。固いことは言いっこなしね!」
言いながら彼は、私のベッドに腰を下ろす。
……帰る気ないだろ、それ。
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「他って?」
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殿下って言わないところが不敬な子だ。
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目下口説かれ中です。とは、口が裂けても言えない。
「そう、良かった」
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「は!?」
私は思わず声を荒げてしまった。
「長生きできないって、どういうこと? 鍵鑰って何!?」
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「あ、これって秘匿事項かな? 僕が言ったことは内緒ね」
「内緒って……」
「でも、言ったところで僕は処分されないよ。だって僕は『黒い血』の末裔だから」
何? 黒い血って??
「じゃ、僕は帰るね」
しっかり掴んでいたはずなのに、スノーはいつの間にか私の手をすり抜けて、窓際に立っていた。
「またね、エレノア」
窓を開けて、何のてらいもなくそこから飛び降りる。
「ちょっ!」
ここ、三階!
慌てて窓から身を乗り出して下を覗き込むけど、地面には少年の姿はどこにもなかった。
これが、魔導士の能力か。
……なんか、知らない単語がいくつも出てきたんですけど……。
「誰か、攻略本持ってないの?」
私はうんざり呟いて、仔虎を抱えてベッドにダイブした。
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