かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!

灯倉日鈴(合歓鈴)

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28、訓練場

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 荷物を置いて剣だけ佩いて次に向かった先は、中庭の訓練場。ここは八隊ある魔物討伐隊の他に、王城を守護する近衛騎士隊も使用しているのだそうだ。
 燦々と日が降り注ぐ広いグラウンドでは、屈強な軍人達が剣を振ったり筋トレやマラソンをして体を鍛えている。あ、女性も結構いるな。

「この訓練場では年に一度騎乗槍試合が行われて、王侯貴族が観覧に来るんですよ」

「へえ」

 槍試合って、直線上で左右に分かれて突進して、すれ違い様に相手を攻撃する戦いのことよね?

「騎乗って、騎獣に乗ってですか?」

「ええ。対戦相手とは騎獣の格を合わせますが。馬なら馬、跳ね蜥蜴なら跳ね蜥蜴。昨年の決勝のフィルアート殿下の飛竜と近衛騎士隊長のペガサスの戦いは圧巻でしたよ」

 誇らしげに語るゴードンに、私も想像力を働かせる。……翼のある神獣を駆っての戦いかぁ。かっこいいな!

「君も早く大きくなってよ」

 肩の白い仔虎のピンクの鼻をつつくと、セリニはカプカプと私の手を甘噛みしてくる。うん、可愛いから小さいままでもいいや。

「さて、次は――」

 ゴードンが踵を返して訓練場を後にしようとした時、

「――おいおい待てよ」

 背後から声が掛けられた。
 振り向くと、スキンヘッドの大男がニヤニヤ私達を見下ろしていた。上半身裸で分厚い筋肉を惜しげもなく晒している様は、絵本に出てくる海賊そっくりだ。

「ゴードン、そいつ第七隊の新人か?」

「だとしたら、なんです?」

 すっと表情を消し、不機嫌モードに入ったゴードンが、大男から隠すように私の前に立つ。
 なんだなんだ? 私、絡まれてるの?

「相変わらず第七はお上品なヤツばかり集めてるな。お嬢ちゃん、そんな細腕で本気で騎士団に入るつもりなのか?」

「つもりも何も、もう入ってます」

 スキンヘッドの挑発に答えた私を、ゴードンが「エレノアさん!」と嗜める。

「相手にしなくていいです。行きましょう」

「おいおい、逃げるのか?」

 私を促し立ち去ろうとするゴードンに、スキンヘッドは追い打ちをかける。

「どうせなら、合同訓練と行こぜ。俺がその新人に稽古つけてやるよ」

「いい加減に……」

「ゴードン副長」

 眉を吊り上げる彼の腕を引き止め、綿には微笑んで見せた。

「せっかくのお誘いです、お受けしましょう」

「な!?」

 驚愕するゴードンを尻目に、スキンヘッドは「そうこなくっちゃ!」と手を叩く。

「何考えてるんですか? 相手は下品ですが現役の騎士ですよ!」

 スキンヘッドに聞こえる音量で余計な一言を挟むゴードン。まあ、私はまだ叙勲を受けてないから騎士じゃないけど。

「副長、さっき私の腕を証明してもらいたいって言ってましたよね」

 ……私も、自分がどの程度なのか知りたい。

「だからここは先輩スキンヘッドの胸をお借りしましょう」

 肩から窮奇を下ろし、ゴードンに渡す。

「預かっててください。ちょっと噛むけど、食いちぎりはしないと思うので」

「……噛むんですね」

 早速副長の指をガブガブ始めたセリニを置いて、私はスキンヘッドに向き直る。

「さあ、始めましょうか?」
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