かぶっていた猫が外れたら騎士団にスカウトされました!

灯倉日鈴(合歓鈴)

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13、王子様とデート(9)

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 ドタドタと荒い足音が廊下に響く。

「お兄ちゃんズ、ちょっと聞い――」

 バンッとリビングのドアを開けた……、瞬間。思ってもみない人物が目に飛び込んできて、私は言いかけた言葉を飲んだ。
 カプリーズ一家の憩いの居間には、ローテーブルを囲んでソファに腰を下ろした双子の兄と……我が国の第三王子様。

「……フィルアート殿下、まだ帰られていなかったんですね」

「君の兄上達に引き止められてな」

 苦笑する王子の前には真紅の液体の満ちたワイングラスが置かれている。……今日の出来事デートを酒の肴にされていたのか。

「聞いたぞ、エレノア! 昼飯は鹿だったんだって?」

「デザートはコカトリス退治なんて、うちの妹は豪快だなぁ」

 すっかり出来上がったグロウスとクラインが陽気に笑う。……この酔っぱらいどもめ。

「窮奇はどうした?」

 まだ素面らしいフィルアートが尋ねてくる。

「ミルクをたくさん飲んで、今は落ち着いています」

 答えた私に、彼は「そうか」と頷く。また否定的なことを言われるかな? と身構えたけど、

「軍の騎獣の専門医を紹介する。明日、診せに行くといい」

 意外にも協力的だった。

「ありがとうございます」

「礼はまだ早い。今は弱って大人しくても、所詮魔獣は魔獣だ。油断すると人間なんて簡単に食い殺されるぞ。それに、野生の魔獣は服従させなければ契約し騎獣にもできない」

「……はぁい」

 そっか。魔獣は小さなままじゃないものね。でも……騎獣にできる可能性もあるのか。夢が膨らむな。カプリーズ家家族の安全の為にも、早めに契約しないと。

「そういえば、エレノアはえらい勢いで居間ここに飛び込んできたけど、何かあったのか?」

 手酌でワインを注ぎながら、グロウスが訊いてくる。

「そうそう、聞いてよ!」

 私は怒りを再燃させて……ふと、思いつく。そして、黙々とワイングラスを空にする黒髪の秀麗な王子様に目を向けた。

「時にフィルアート殿下、先程の交換条件はまだ有効ですか?」

「ん?」

 首を傾げるフィルアートに、私は神妙に切り出した。

「実は頼みがあるんですけど……」
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