上 下
8 / 101

8、王子様とデート(4)

しおりを挟む
 フィルアートは訥々と話し出す。

「当時の俺は子供で、突然の魔物の襲撃に怯えて蹲ることしかできなかった。そんな弱い俺を庇い、魔物と対峙した騎士の背中は今でも瞼の裏に焼きついている」

 ……こんな王都から離れた辺境に、どうして子供の王子がいたのだろう?
 疑問が浮かぶが口にはせずに、私は黙ってフィルアートの声を聞いている。

「俺はその騎士のように人を護れる存在になりたいと、この道を選んだ。できれば君にも、騎士の在り方について知ってもらいたいと思っている」

 ……やっぱり勧誘ですか。なんかがっかりだ。

「そのお話は既にお断りしたはずですけど?」

 無愛想に唇を尖らせる私に、彼は下手に出る。

「では、俺が何か君にできることはないだろうか? 騎士団に入るなら、俺のできる範囲で君の望みを叶えよう」

 交換条件か。それなら……、

飛竜ルラキが欲しいです」

「解った。諦めよう」

 あっさり引いた!
 ちぇっ、騎竜は私より価値があるのか。
 私はふてくされた気分で、新しい肉串に噛みついた。

「じゃあ、私へのプロポーズも、騎士団勧誘の口実なんですね」

 僅かでも浮かれてしまった自分がバカみたい。私がこっそり落ち込んでいると……、

「いや、君が承諾してくれるなら結婚したい」

 ……今度はあっさり受け入れた!

「は……??」

 目をまんまるにする私に、フィルアートは淡々と、

「君は頑丈で壊れなさそうだからな。俺も後世に子孫を残したい欲はある。君となら強健な子ができるだろう」

「はぁ!?」

 なにそれ、総じて体目当てかよ!

「そっちもお断りです!」

 ぷいっと横を向いた私に、王子はしょんぼり肩を落とす。

「そうか、それは残念だ」

 表情に乏しいくせに、こんな時だけあからさまに落ち込まないでよ。傷ついたのは私の方なんだからね。
 私達はそれから黙々と鹿肉ジビエを食べ続けた。

「では、そろそろ帰るか」

 火の始末をしながら、フィルアートが切り出す。
 ここは魔境に近い、だだっ広い丘陵地帯。狩り以外に目ぼしい観光スポットもない。……この王子様、デートプランの立て方が壊滅的に下手だ。
 ま、お肉は美味しかったし、飛竜にも乗れたから、私的には満足だけどね。王都に戻るのにも数時間掛かるから、早めに切り上げるのは帰りが遅くならない為の配慮だと思おう。
 鹿肉の余った部位は、骨と皮も纏めて藍竜ルラキが食べてくれた。魔獣、便利。
 そして、最後に……。

「今日の土産にこれを」

 フィルアートは木の枝のように張り出した、立派な牡鹿の角の片方を私に手渡す。
 ……えーと。

鹿の角これを持って帰ってどうしろと?」

「削って研げばペーパーナイフが作れるぞ?」

「……加工後の物をください」

 何故、完成品でなく原材料を寄越すんだ。
 結局、鹿の角もルラキに食べてもらいました。

「よし、忘れ物はないな」

 竜の背の収納箱の施錠を確認してから、フィルアートが鐙に足をかける。私も乗ろうと鞍に手を掛けた……その時。

 グォォォオオオォォォン!!

 突然、長い首を上げてルラキが吼えた。

「なっ」

 立ち上がった飛竜を制御しようと王子が手綱を引き、私は竜に踏み潰されないように飛び退く。

「どうした、ルラキ。落ち着け」

 竜の首を撫でて気を静めようとするが、飛竜の興奮は治まらない。そして……その理由はすぐに判明した。
 ルラキが嘶きながら振り仰ぐ空に、影が射した。

「あ……」

 私達が見守る中で、その影はぐんぐん大きくなっていき、

 ズドオオォォン!

 猛烈な勢いで地面に落下した。
 衝撃に土煙が上がる。茶色く濁った霞の合間に、私達が見たものは……。

「……虎!?」

 翼の生えた、巨大な白い虎だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

処理中です...