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8、王子様とデート(4)
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フィルアートは訥々と話し出す。
「当時の俺は子供で、突然の魔物の襲撃に怯えて蹲ることしかできなかった。そんな弱い俺を庇い、魔物と対峙した騎士の背中は今でも瞼の裏に焼きついている」
……こんな王都から離れた辺境に、どうして子供の王子がいたのだろう?
疑問が浮かぶが口にはせずに、私は黙ってフィルアートの声を聞いている。
「俺はその騎士のように人を護れる存在になりたいと、この道を選んだ。できれば君にも、騎士の在り方について知ってもらいたいと思っている」
……やっぱり勧誘ですか。なんかがっかりだ。
「そのお話は既にお断りしたはずですけど?」
無愛想に唇を尖らせる私に、彼は下手に出る。
「では、俺が何か君にできることはないだろうか? 騎士団に入るなら、俺のできる範囲で君の望みを叶えよう」
交換条件か。それなら……、
「飛竜が欲しいです」
「解った。諦めよう」
あっさり引いた!
ちぇっ、騎竜は私より価値があるのか。
私はふてくされた気分で、新しい肉串に噛みついた。
「じゃあ、私へのプロポーズも、騎士団勧誘の口実なんですね」
僅かでも浮かれてしまった自分がバカみたい。私がこっそり落ち込んでいると……、
「いや、君が承諾してくれるなら結婚したい」
……今度はあっさり受け入れた!
「は……??」
目をまんまるにする私に、フィルアートは淡々と、
「君は頑丈で壊れなさそうだからな。俺も後世に子孫を残したい欲はある。君となら強健な子ができるだろう」
「はぁ!?」
なにそれ、総じて体目当てかよ!
「そっちもお断りです!」
ぷいっと横を向いた私に、王子はしょんぼり肩を落とす。
「そうか、それは残念だ」
表情に乏しいくせに、こんな時だけあからさまに落ち込まないでよ。傷ついたのは私の方なんだからね。
私達はそれから黙々と鹿肉を食べ続けた。
「では、そろそろ帰るか」
火の始末をしながら、フィルアートが切り出す。
ここは魔境に近い、だだっ広い丘陵地帯。狩り以外に目ぼしい観光スポットもない。……この王子様、デートプランの立て方が壊滅的に下手だ。
ま、お肉は美味しかったし、飛竜にも乗れたから、私的には満足だけどね。王都に戻るのにも数時間掛かるから、早めに切り上げるのは帰りが遅くならない為の配慮だと思おう。
鹿肉の余った部位は、骨と皮も纏めて藍竜が食べてくれた。魔獣、便利。
そして、最後に……。
「今日の土産にこれを」
フィルアートは木の枝のように張り出した、立派な牡鹿の角の片方を私に手渡す。
……えーと。
「鹿の角を持って帰ってどうしろと?」
「削って研げばペーパーナイフが作れるぞ?」
「……加工後の物をください」
何故、完成品でなく原材料を寄越すんだ。
結局、鹿の角もルラキに食べてもらいました。
「よし、忘れ物はないな」
竜の背の収納箱の施錠を確認してから、フィルアートが鐙に足をかける。私も乗ろうと鞍に手を掛けた……その時。
グォォォオオオォォォン!!
突然、長い首を上げてルラキが吼えた。
「なっ」
立ち上がった飛竜を制御しようと王子が手綱を引き、私は竜に踏み潰されないように飛び退く。
「どうした、ルラキ。落ち着け」
竜の首を撫でて気を静めようとするが、飛竜の興奮は治まらない。そして……その理由はすぐに判明した。
ルラキが嘶きながら振り仰ぐ空に、影が射した。
「あ……」
私達が見守る中で、その影はぐんぐん大きくなっていき、
ズドオオォォン!
猛烈な勢いで地面に落下した。
衝撃に土煙が上がる。茶色く濁った霞の合間に、私達が見たものは……。
「……虎!?」
翼の生えた、巨大な白い虎だった。
「当時の俺は子供で、突然の魔物の襲撃に怯えて蹲ることしかできなかった。そんな弱い俺を庇い、魔物と対峙した騎士の背中は今でも瞼の裏に焼きついている」
……こんな王都から離れた辺境に、どうして子供の王子がいたのだろう?
疑問が浮かぶが口にはせずに、私は黙ってフィルアートの声を聞いている。
「俺はその騎士のように人を護れる存在になりたいと、この道を選んだ。できれば君にも、騎士の在り方について知ってもらいたいと思っている」
……やっぱり勧誘ですか。なんかがっかりだ。
「そのお話は既にお断りしたはずですけど?」
無愛想に唇を尖らせる私に、彼は下手に出る。
「では、俺が何か君にできることはないだろうか? 騎士団に入るなら、俺のできる範囲で君の望みを叶えよう」
交換条件か。それなら……、
「飛竜が欲しいです」
「解った。諦めよう」
あっさり引いた!
ちぇっ、騎竜は私より価値があるのか。
私はふてくされた気分で、新しい肉串に噛みついた。
「じゃあ、私へのプロポーズも、騎士団勧誘の口実なんですね」
僅かでも浮かれてしまった自分がバカみたい。私がこっそり落ち込んでいると……、
「いや、君が承諾してくれるなら結婚したい」
……今度はあっさり受け入れた!
「は……??」
目をまんまるにする私に、フィルアートは淡々と、
「君は頑丈で壊れなさそうだからな。俺も後世に子孫を残したい欲はある。君となら強健な子ができるだろう」
「はぁ!?」
なにそれ、総じて体目当てかよ!
「そっちもお断りです!」
ぷいっと横を向いた私に、王子はしょんぼり肩を落とす。
「そうか、それは残念だ」
表情に乏しいくせに、こんな時だけあからさまに落ち込まないでよ。傷ついたのは私の方なんだからね。
私達はそれから黙々と鹿肉を食べ続けた。
「では、そろそろ帰るか」
火の始末をしながら、フィルアートが切り出す。
ここは魔境に近い、だだっ広い丘陵地帯。狩り以外に目ぼしい観光スポットもない。……この王子様、デートプランの立て方が壊滅的に下手だ。
ま、お肉は美味しかったし、飛竜にも乗れたから、私的には満足だけどね。王都に戻るのにも数時間掛かるから、早めに切り上げるのは帰りが遅くならない為の配慮だと思おう。
鹿肉の余った部位は、骨と皮も纏めて藍竜が食べてくれた。魔獣、便利。
そして、最後に……。
「今日の土産にこれを」
フィルアートは木の枝のように張り出した、立派な牡鹿の角の片方を私に手渡す。
……えーと。
「鹿の角を持って帰ってどうしろと?」
「削って研げばペーパーナイフが作れるぞ?」
「……加工後の物をください」
何故、完成品でなく原材料を寄越すんだ。
結局、鹿の角もルラキに食べてもらいました。
「よし、忘れ物はないな」
竜の背の収納箱の施錠を確認してから、フィルアートが鐙に足をかける。私も乗ろうと鞍に手を掛けた……その時。
グォォォオオオォォォン!!
突然、長い首を上げてルラキが吼えた。
「なっ」
立ち上がった飛竜を制御しようと王子が手綱を引き、私は竜に踏み潰されないように飛び退く。
「どうした、ルラキ。落ち着け」
竜の首を撫でて気を静めようとするが、飛竜の興奮は治まらない。そして……その理由はすぐに判明した。
ルラキが嘶きながら振り仰ぐ空に、影が射した。
「あ……」
私達が見守る中で、その影はぐんぐん大きくなっていき、
ズドオオォォン!
猛烈な勢いで地面に落下した。
衝撃に土煙が上がる。茶色く濁った霞の合間に、私達が見たものは……。
「……虎!?」
翼の生えた、巨大な白い虎だった。
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