33 / 34
32、元通りの日常
しおりを挟む
培養瓶から出て、すっかり元気になったノノだが……。
衝撃的な事実を目の当たりにすることになった。
「ああぁぁあぁ……っ」
狐の耳と尻尾をペシャリと下げて、うちひしがれる。
「お師様の髪が……ボクが丹精込めて育てた、お師様の髪がああぁぁっ」
床に崩れ落ちて泣きじゃくる弟子に、師匠は苦笑するしかない。
「仕方ないですよ。緊急事態だったので」
囮の魔物の材料として使ってしまったので、背中まであったフォリウムの髪は、うなじからすっぱりと切り取られていた。
「ボクの髪……ボクが毎日丁寧に梳いていた髪が……」
フォリウムのざんばらな後頭部を撫でては、また声を上げて泣く。
「またすぐに伸びますよ」
のほほんと慰める魔法使いに、ノノは耳を立ててすがりつく。
「すぐっていつですか!?」
「さあ? 五・六年くらいですかね」
「そんなに待てませんー!」
散々悲しんでから、横で見守っていたレナロッテをギンッと睨む。
「あんたのせいだからな! 触手オバケ! 疫病神!」
「……返す言葉もない」
そこは女騎士も反省している。
「誠意を見せろ! あんたが丸刈りになれ!」
「ノノ、レナロッテさんの髪を切っても私の髪が伸びるわけではありませんよ?」
魔法使いが弟子を諭すが、
「ボクの気が晴れます!」
感情論を言わせたら、ノノの右に出る者はいなかった。
「大体、ちょっと婚約者が別の女と結婚しちゃったくらいでバケモノになるのやめてくれる? 周りの命がいくらあっても足りないよ!」
……全然『ちょっと』な出来事ではない。
「まあ、愛憎の縺れで人間辞める例は、古今東西山ほどありますからねぇ」
フォリウムがフォローにならないフォローを入れる。
「それは……本当に悪かったと思ってる」
レナロッテは俯いて、右腕をさすった。
我を忘れて自分の中の魔物を暴走させた。ノノが体を張って止めてくれなければ、街にどんな被害が出ていたか解らない。
「……もう一度、街に戻りますか?」
魔法使いに訊かれて、女騎士ははっと顔を上げる。
「ブルーノさんが異国で結婚したという事情を、ちゃんと確かめなくていいのですか?」
柔らかな声に、腕の魔物がざわめく。レナロッテは首を振った。
「いや、もういい。何をしても、きっとブルーノは私の元に帰ってこない」
魔物と化してまで暴れたせいか、レナロッテは吹っ切れたというか、諦めたというか……妙な虚無感の中にいた。
ノノを殺し掛けたことで、他のことを考える余裕がなかったこともある。
とにかく、彼女の恋はここで終わってしまったのだ。
「これから、どうしますか?」
再び訊かれて、レナロッテは上目遣いに考えて、
「もう少し、ここに居ていいか? 行く場所が見つかるまで」
セニアの街には戻れない。頼む彼女に彼は頷く。
「お好きなだけ。部屋もベッドもありますから。ね、ノノ?」
師匠に水を向けられ、弟子はぶすっと、
「ボクが反対しても、置いてあげるんでしょ?」
頬を膨らますノノの頭をフォリウムはくしゃくしゃと撫でた。
「んじゃ、居候はタダ飯食わずに働いてよ。ボク、まだ本調子じゃないから、狩りに行って」
ノノの言葉に、レナロッテは怯む。
「いや、私は狩りは……」
「そーやって逃げてたって、どーしよーもないでしょ。これからも生きていくつもりなら、魔物を抑えるだけじゃなく、魔物が暴走した時の対処法も覚えなきゃ」
「……そうだな」
それは正論で、ぐうの音も出ない。
「近くで見てるから、獲物狩ってきなよ。暴走したらお師様に討伐してもらうから」
「……目の前に狩りやすそうな狐がいるが」
「なにそれ、恩人に対して笑えなーい!」
仲良くケンカしながら、二人が狩りの準備をする。
すっかり騒がしくなった家に、フォリウムはくすくす笑いながら二人を見送った。
衝撃的な事実を目の当たりにすることになった。
「ああぁぁあぁ……っ」
狐の耳と尻尾をペシャリと下げて、うちひしがれる。
「お師様の髪が……ボクが丹精込めて育てた、お師様の髪がああぁぁっ」
床に崩れ落ちて泣きじゃくる弟子に、師匠は苦笑するしかない。
「仕方ないですよ。緊急事態だったので」
囮の魔物の材料として使ってしまったので、背中まであったフォリウムの髪は、うなじからすっぱりと切り取られていた。
「ボクの髪……ボクが毎日丁寧に梳いていた髪が……」
フォリウムのざんばらな後頭部を撫でては、また声を上げて泣く。
「またすぐに伸びますよ」
のほほんと慰める魔法使いに、ノノは耳を立ててすがりつく。
「すぐっていつですか!?」
「さあ? 五・六年くらいですかね」
「そんなに待てませんー!」
散々悲しんでから、横で見守っていたレナロッテをギンッと睨む。
「あんたのせいだからな! 触手オバケ! 疫病神!」
「……返す言葉もない」
そこは女騎士も反省している。
「誠意を見せろ! あんたが丸刈りになれ!」
「ノノ、レナロッテさんの髪を切っても私の髪が伸びるわけではありませんよ?」
魔法使いが弟子を諭すが、
「ボクの気が晴れます!」
感情論を言わせたら、ノノの右に出る者はいなかった。
「大体、ちょっと婚約者が別の女と結婚しちゃったくらいでバケモノになるのやめてくれる? 周りの命がいくらあっても足りないよ!」
……全然『ちょっと』な出来事ではない。
「まあ、愛憎の縺れで人間辞める例は、古今東西山ほどありますからねぇ」
フォリウムがフォローにならないフォローを入れる。
「それは……本当に悪かったと思ってる」
レナロッテは俯いて、右腕をさすった。
我を忘れて自分の中の魔物を暴走させた。ノノが体を張って止めてくれなければ、街にどんな被害が出ていたか解らない。
「……もう一度、街に戻りますか?」
魔法使いに訊かれて、女騎士ははっと顔を上げる。
「ブルーノさんが異国で結婚したという事情を、ちゃんと確かめなくていいのですか?」
柔らかな声に、腕の魔物がざわめく。レナロッテは首を振った。
「いや、もういい。何をしても、きっとブルーノは私の元に帰ってこない」
魔物と化してまで暴れたせいか、レナロッテは吹っ切れたというか、諦めたというか……妙な虚無感の中にいた。
ノノを殺し掛けたことで、他のことを考える余裕がなかったこともある。
とにかく、彼女の恋はここで終わってしまったのだ。
「これから、どうしますか?」
再び訊かれて、レナロッテは上目遣いに考えて、
「もう少し、ここに居ていいか? 行く場所が見つかるまで」
セニアの街には戻れない。頼む彼女に彼は頷く。
「お好きなだけ。部屋もベッドもありますから。ね、ノノ?」
師匠に水を向けられ、弟子はぶすっと、
「ボクが反対しても、置いてあげるんでしょ?」
頬を膨らますノノの頭をフォリウムはくしゃくしゃと撫でた。
「んじゃ、居候はタダ飯食わずに働いてよ。ボク、まだ本調子じゃないから、狩りに行って」
ノノの言葉に、レナロッテは怯む。
「いや、私は狩りは……」
「そーやって逃げてたって、どーしよーもないでしょ。これからも生きていくつもりなら、魔物を抑えるだけじゃなく、魔物が暴走した時の対処法も覚えなきゃ」
「……そうだな」
それは正論で、ぐうの音も出ない。
「近くで見てるから、獲物狩ってきなよ。暴走したらお師様に討伐してもらうから」
「……目の前に狩りやすそうな狐がいるが」
「なにそれ、恩人に対して笑えなーい!」
仲良くケンカしながら、二人が狩りの準備をする。
すっかり騒がしくなった家に、フォリウムはくすくす笑いながら二人を見送った。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
溺愛王子と髪結プリンセス
水城ひさぎ
恋愛
美容師として働く真凛はある日、セドニー王国王子アウイにさらわれ、異国の地セドニーへと転移してしまう。
「おまえはセドニー王国王女マリン。だが、亡き陛下の娘の存在を知るものは一握りのみ。おまえは王女として生きることはかなわぬ」
身分を隠し、王子の身の回りの世話をする『髪結』として働くことになる真凛だが、ふたりの兄アウイ、ベリル、そして弟のセオに愛されてしまい……。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
【完結】没落令嬢オリビアの日常
胡暖
恋愛
没落令嬢オリビアは、その勝ち気な性格とあまり笑わない態度から、職場で「気位ばかり高い嫁き遅れ」と陰口を叩かれていた。しかし、そんなことは気にしてられない。家は貧しくとも心は誇り高く!
それなのに、ある時身に覚えのない罪を擦り付けられ、啖呵をきって職場をやめることに。
職業相談所に相談したら眉唾ものの美味しい職場を紹介された。
怪しいけれど背に腹は変えられぬ。向かった先にいたのは、学園時代の後輩アルフレッド。
いつもこちらを馬鹿にするようなことしか言わない彼が雇い主?どうしよう…!
喧嘩っ早い没落令嬢が、年下の雇い主の手のひらの上でころころ転がされ溺愛されるお話です。
※婚約者編、完結しました!
捨てられたループ令嬢のハッピーエンド
高福あさひ
恋愛
死ぬと過去に逆行を繰り返すフェリシア・ベレスフォード公爵令嬢は、もう数えきれないほどに逆行していた。そして彼女は必ず逃れられない運命に絶望し、精神も摩耗しきっていたが、それでもその運命から逃れるために諦めてはいなかった。今回も同じ運命になるだろうと、思っていたらどの人生でも一度もなかった現象が起こって……?※他サイト様にも公開しています。不定期更新です。
※旧題【逆行し続けた死にたがり悪役令嬢の誰にも見えない友人】から改題しました。
精霊に転生した少女は周りに溺愛される
紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。
それを見た神様は新たな人生を与える
親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。
果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️
初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる