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17、みんなでご飯

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 頭がぼんやりして、世界が回る。
 立ち上がれなくなったレナロッテに、長いローブを翻し、フォリウムが駆け寄ってきた。

「どうしました? レナロッテさん」

 魔法使いの両手で両頬を包み込まれ、顔を上に向けられる。

「なんだか……気分が悪くて」

 手足が痺れ、力が入らない。眩暈がする。そして、腹が……切ない。
 患者を一通り診察した魔法使いは、納得したように頷いた。

「解りました。レナロッテさんの症状はくうふ――」

 ぐぎゅうううぅぅぅぅ。

 ――フォリウムの声を、彼女の元気な腹の虫が遮った。
 レナロッテは包帯の下の顔を真っ赤にして腹を押さえる。

「え!? お腹が空いて倒れたの!?」

 無神経な子狐が、恥じ入る女騎士に遠慮なく事実を突きつける。よくよく考えてみれば、馴染みのある感覚だった。しかし……、

「だ……だって! 最近ずっと腹が減ったことなんてなかったから……」

 涙目で言い訳するレナロッテに、フォリウムは苦笑する。

「今までは寄生体から栄養を摂取していましたからね。空腹を感じるということは、レナロッテさんが完全に身体の支配権を取り戻したということです。実に喜ばしい」

「ボクは焦って損したけど!」

 意地悪狐が全力で追い討ちをかけてくる。

「では、食事にしましょうか。ノノ、用意を」

「わー! 簡単に言われた! 変則的な食事の支度って大変なんですよ。ここは買い物に行くにも不便な場所だから、数日分使い回せるように食材と献立考えてるのに、変な時間に予定にない人数の食事を作るなんて。お師様はボクを軽んじす……」

 くどくどと文句を言い募るノノの赤毛を、フォリウムがくしゃりと撫でた。

「ありがとう。いつも感謝してますよ、ノノ」

 途端に子供は金色の目を輝かせ、尻尾をボワボワに爆発させる。

「し、仕方ないですね。お師様がそこまで言うなら作ってあげます」

 わざと頬を膨らましてそっぽを向くが、尻尾は喜びにブンブン振られている。
 ……魔法使いは、本当に弟子の操縦が上手い。
 丸太小屋に戻って、早速食事。

「椅子ももう一脚用意しないとですね」

 今日はとりあえず、と低い脚立をダイニングテーブルに設置する。
 昨日まではダイニングテーブルに着くフォリウムとノノを盥の中から眺めていたのに……。今は三人で食卓を囲んでいる。なんだか感無量だ。

「急だったから、簡単な物しかないよ」

 そう言ってノノが並べたのは、野菜スープとパン、それに猪肉の燻製だ。温かい湯気に喉が鳴る。レナロッテはフォークを伸ばし、猪肉を頬張った。

「……美味しい!」

 脂の旨味が口いっぱい広がる。

「うわ、美味しい。この厚さの燻製肉がこんなに柔らかいなんて! 塩加減も絶妙だ。騎士団の食堂でも、こんなの出ないぞ」

 肉を次々とナイフで切り分け口に入れるレナロッテに、ノノが獣耳をピクピクさせて身を乗り出す。

「でしょ、でしょ! 下ごしらえにちょっと手間かけてるんだ」

「パンも美味い。果実みたいな甘みがある」

「解る? 果物酵母をブレンドしてるんだ!」

「スープも美味しい。あんな短時間でこんなコクのあるスープが作れるのか」

「二回分くらいスープストック作って冷暗棚に入れてあるんだよ。日持ちはしないけど、具材と調味料で味を変えられるし、すぐ食べられるからね」

 ノノがいちいちが解説する。

「料理の感想を言ってもらえるのって、いいね。お師様は食に興味がない人だから、栄養摂取できるなら木の根齧っておしまいにしちゃうんだもん」

「……まあ、日常の何に重点を置くかは人それぞれですから」

 酷い食生活を魔法使いは否定しなかった。

「そうか。では、私は日常の中で食事にかなり重点を置いてきたんだな」

 食べ物を美味しく感じることに、幸せを感じる。……生きていて良かったと思う。
 レナロッテは空になったスープの皿を、遠慮がちにノノに差し出した。

「できれば……おかわりをいただけないだろうか」

 ノノはちょっと目を見開いて、

「うん!」

 珍しく素直に頷いた。
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