145 / 155
じゃぱにーずかるちゃーいずくーる8
しおりを挟む千尋は既に臨戦態勢、いつでも飛び出して行ける。
対するお相手さんもこちらの剣呑な雰囲気を察してか、体を半身にして身構える。
武器の類は所持しておらず、拳を前に突き出すようなスタイルからして何かしらの体術を使えるのだろう。
「この私とやる気であるか?」
「このダンジョンが私達の世界に齎す被害はこれ以上は看過出来んからな。悪いが捕まえさせてもらう」
「ほほう……この私を前にしてその態度は中々に蛮勇だと思うがね。君達も生成されたばかりなのだろう?もう少し身の程を弁えた方が良いのではないか?」
「お前もな」
中々に有意義で楽しかったお喋りは終わり。
ここからは強い方が正義の闘争の場だ。
「ふっ!」
誰よりも早く千尋が駆け出した。
一歩の踏み込みで距離を縮め、拳を構える蒼白君にシンプルな突きを見舞う。
相手の技量を推し量るような最速の一手、この突きにどのような対応をしてくるかで今後の展開を考えやすく出来る。
俺達も蒼白君の動きを逃さぬように観察するが、全く動く気配が無い。
一瞬の時間が数秒にも感じられる中、蒼白君の喉元を狙った突きは蒼白君に対処される事無く寸止めされた。
「……少し、話をしようじゃないか」
「黙れ」
喉元に切っ先を突き付けられた状態で下手に動けないと悟った蒼白君が交渉を持ちかける。
「……一旦冷静になろう。こんな野蛮な事はやめようじゃないか?君達がわざわざ我がダンジョンに来たのには何か理由があるのだろう?その辺をもう少し話してくれないかい?もしかしたら君達の力になれるかもしれない!だから!武器を収めてくれ!」
途中から早口で捲し立てるように喋り出した蒼白君だが、ウチのちーちゃんがそんな事で刀を収める訳が無いだろう、阿呆めが。
「まこちゃん!こいつを拘束用の鎖で縛ってくれ!純はいつでも魔法を打てるようにしていてくれ!……動いたら反抗とみなしてその首を切り捨てるからな?大人しくお縄につけ」
「何と野蛮な……!」
「黙れ」
千尋の圧が凄い。
俺まで怖くなってきた。
千尋に言われるままに口を閉ざして大人しくしている蒼白君を拘束用の鎖でグルグル巻きにしていく。
こいつの実力が如何程のものかは詳しくは分からなかったが、千尋の突きに何も反応できていなかった時点で俺達の脅威には成りえない事だけは分かった。
もしかしたら体術よりも魔法戦やスキルを使った戦闘の方が得意だったのかもしれないが、ベルお手製の拘束用の鎖を使えばあら不思議、拘束された者の能力を無効化する効果によってたちまち無力化が可能となるのだ。
俺の怠惰の能力を応用して作られたらしいこの鎖はとても便利で強力だが、俺が怠惰の居城を発動している事が条件なので最悪の場合は只の鎖に成り下がる。
「これで良し!もうお前は何も出来ないからな、大人しくしてろよ?」
鎖が解けないようにしっかりと施錠して蒼白君を地面に座らせる。
「ふん!言われるまでも無く抵抗などするものか!抵抗すれば殺されるのであろうが!……何が目的だ?何が知りたい?」
理解が早くて助かる。
「私達がここに来た目的はダンジョンの攻略とこれ以上モンスターがダンジョンから溢れないようにする事だ。ダンジョンコアは何処だ?」
「……攻略してどうなる?我がダンジョンをどうするつもりだ?」
「良いからダンジョンコアの場所を教えろ。このままダンジョンを破壊しながら探しても良いんだぞ?」
「……館の階段に部屋があってその部屋に地下に行く道がある。その先ににダンジョンコアがある」
「案内しろ」
「……分かった」
蒼白君の案内の元、館に再び戻った。
館に入って正面の大きな階段を昇るのではなく、階段の右側に回る。
「そこを押し込むと扉が開く」
蒼白君が顎で階段の横側の壁を指し示す。
「……ここらへんか?」
言われた場所を軽く押すと、壁の一部がめり込んだ。
「おぉー!これは分からんな!」
壁の一部がめり込んだと思ったら、人が通れるだけのスペース分だけ中にめり込みそのまま横にスライドして部屋の入り口に変わった。
「……ダンジョンコアはこの先だ」
「お前が先に入れ」
千尋が鞘で蒼白君の背中を突いて蒼白君を部屋の中に押し込んだ。
「ライト!」
純が光源用に光の玉を出してくれて部屋の中が見えるようになった。
部屋の中は何も物が無く、ただの階段下の物置のような場所だったが地下へ続く階段があり恐らくこの先がダンジョンコアに続く道になっているのだろう。
「さっさと進め」
千尋が急かすように蒼白君の背中を再び突いた。
「分かってる!そう急かすな!全く!これだから野蛮な者共は……!」
ぶつくさと文句を言いながらも地下へ続く階段を下っていく蒼白君の後を三人で追いかける。
階段は思ったよりも広く、人が二人並んで歩けるぐらいの広さがあった。
階段を降りると見慣れた扉が現れた。
これは俺達の怠惰ダンジョンや他のダンジョンでも共通のダンジョンコアが治められているコアルームの扉と一緒だった。
「……ここだ」
「案内ご苦労。私が最初に入る、次にお前が入ってこい。まこちゃんと純はコイツが何か変な事をしないように見張っていてくれ
」
「りょーかい」
「りょうかーい!」
千尋がコアルームの中へと入り、蒼白君がその後に続く、俺達は蒼白君を見張りながら後に続いた。
千尋が全員中へ入ったのを確認してからダンジョンコアへと触れた、ダンジョンコアは砕けて破片が千尋に吸い込まれるように消えていった。
「これでこのダンジョンは攻略完了だ……後は事後処理とコイツの処遇をどうするかだな」
「ベルに丸投げで良いんじゃない?」
「そだねぇ!ここ以外にも回らないといけないし!」
「それが一番手っ取り早いか……ベルに念話を掛ける」
千尋がベルに念話をしている間も蒼白君が変な事をしないか念の為用心していたが、何もせずにじっとしていた。
意外と馬鹿でも無いのかもしれない。
「ベルが直接ここへ来てくれるそうだ、ベルが来たら次の都市へ向かおう……たぶん他にもここと同じようなダンジョンがある筈だ」
念話を終えた千尋が俺達に次の予定を語ってくれた。
中国は広い。
恐らくここと同じように成長したダンジョンが複数あるのは間違いない。
ここまでの規模のダンジョンとなると、俺達以外では攻略するのはかなり難しい筈だ。
出来れば街のモンスター討伐は他に任せておきたいが、自由に動ける人間がいないのも事実。
他国の人間が大々的に顔を晒して動くのは中国では厄介事に繋がるリスクが高いので中国から直接要請が無ければ動くに動けないのが現状だが、今は中国政府が機能していないので要請も出来ていない事が原因でこれから先、更なる被害を生むのは間違いない。
本当に厄介な国だ。
もういっその事開き直って怠惰ダンジョンやら暴食ダンジョンから人員を派遣してさっさと事態を収束させたい気分になってきた。
「とーちゃくです!こいつがここの管理者ですか?」
ダンジョン攻略から数分、ベルが到着した。
「……!なんだコイツは……化物め……!」
「化物とは酷いですね!これからあなたの上司になる私にそのような態度は良くないですよ?反省しなさい!」
「うごっ……!」
ベルによる鉄拳制裁によって地面に頭からめり込んだ蒼白君の姿に同情しながら俺は段々と面倒臭いなと思い始めてきた。
「……面倒臭い」
ダンジョン一つでこれなのだから、この先どれだけ面倒な事になるのか想像するだけで家に帰りたくなった。
0
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる