上 下
133 / 155

しふくの時と言われても20

しおりを挟む

 美奈は無事にダンジョンを攻略して帰って来た。

 これで美奈もG-SHOPが使用可能になった。

 そして部屋で一人、美奈が来るのを待っている。

「兄さん、来たわ」

「おう!入ってくれ!」

 扉の向こうから美奈の声がして返事を返した。

 美奈が俺の声を聞いて部屋へと入って来た。

 俺はまだ詳しい事は聞いていない、美奈がどのような加護を取得出来るのか、どのようなスキルを獲出来るのかを。

「まぁ、座れよ」

「ありがと……」

 部屋にはベルと英美里と一緒にアニメを見るように用意した座椅子があるので美奈を座椅子へと誘った。

 美奈が座椅子に腰掛けた事を確認してから口を開く。

「それで、ダンジョンはどうだった?」

「千尋さん達も一緒だったから恐怖は無かった、でもスライム意外のモンスターに襲われて、倒して……良い気分とは言えない。そんな感じかな……でも思ってたよりも忌避観とか嫌悪感は感じなかった……でもそれが逆に怖い」

 生物をモンスターを恐らくゴブリンを殺した時に感じる嫌悪感というのは俺もそうだったがあまり感じなかったようだ。

 だがそれが逆に怖いと美奈は言った。

 生物の死にあまり慣れていない人ならば感じると思っていた筈の忌避観や嫌悪感があまりに希薄過ぎて自分自身が恐くなったのだろう。

「自分が思ってたよりも自分の心が冷たいと感じたからか?」

「……そんな感じ」

「まるで自分の方がモンスターになったみたいな感覚?」

「……うん、自分で自分が恐くなる。このままだといつか自分が化物にでもなってしまいそうで怖い……」

 生物を殺しても何も感じなくなるのが怖い、死に慣れるのが怖い、それは人として当たり前の感情だと思う。

 その想いが薄れない限りは大丈夫だと思うが、人は慣れる生き物だからいつか心をすり減らしてしまった時に自分が自分で無くなる事に怯えてしまう。

「それじゃぁ今後、もう何も殺さなければ良い。それで解決!」

 この先も自分が命を奪う事を前提で考えるから怖いし、立ち止まりたくなってしまう。

「……」

 掛ける言葉を間違えたのかもしれない。

 睨みつけられてしまった。

「兄さん……そういう冗談は辞めて、この先何が起こるか分からない状況で自分に戦える力と強くなる為に必要な環境が充分に整っている私が立ち止まれる訳が無いでしょ」

「えぇ……」

「こういう時は、一緒に頑張ろうとか、一緒に乗り越えようとか言って欲しいの!はぁ……兄さんがそんなじゃ千尋さん達が可哀そうよ」

 俺は何故、妹にダメ出しを食らっているのだろうか。

 そんなに悪い事を言ったつもりも無いのだが。

 大体が妹に掛ける言葉と、嫁に掛ける言葉では大きな違いがある。

「……千尋に何か言われたのか?」

「だとしたら何?」

「いや、別に……」

「はぁ……」

 何か言われたんだろうな。

 しかし、何を言われてこんな事を言いだしたのかは分からないが、美奈はそんなに悩んでないって事なのだろうか。

「えぇと……一緒に頑張ろうな?」

「もうその話は終わってる。そもそも私には不退転っていうスキルがあるんだから、そのスキルの影響で平気だったんだと思ってるわ。……ここからが本題、今日私も晴れてダンジョン攻略者になった訳だけど、私の加護について相談しようと思って来たの……千尋さんに相談したら兄さんかベルさんに相談した方が良いって言われたから」

 明らかに不機嫌な美奈、もしかしてだが美奈は俺に嫉妬しているのだろうか。

 美奈は昔から千尋の事が大好きで、本当の姉のように慕っていたからなぁ。

「なるほどねぇ……ベルも呼んだ方が良いか?」

「とりあえずは兄さんに相談して駄目だったらベルさんに相談するわ……」

「りょーかい……」

 俺が了承すると息を吸い込み意を決した顔で美奈は口を開いた。

「私が取得出来る加護は二つ。一つは服神、もう一つは福神。私はどっちの加護を得るべきか迷ってるの……加護の善し悪しがあるのかは分からないけど、出来る事なら有益な方を選択したい。兄さんはどう思う?」

 美奈が机の上にあった紙とペンで服神、福神と書きながら教えてくれた。

 客観的に見て、有益そうなのは福神っぽい。

 そもそも服神とは何だ。

 衣服を司る神なのか、それとも別の何かなのか。

 俺達が日常的に使っているのは衣服の<服>で身に着ける物という意味だ。

 だが他にも服従、感服、屈服、敬服、心服、征服、不服、等々服の付く単語は多くあって、従う或いは従わせるといった意味合いを持つ言葉でもある。

 判断が難しい所ではあるが、ただ何となく良い事が起きそうな福神の方が良いんじゃないかと俺は思う。

「福の神からの加護の方が良い事ありそうだから、福神で良いんじゃない?」

 俺は紙に書いてあった福神の方を指差しながら答えた。

「そんな適当に……」

「どうせどっちが良いかとか分かんないんだったら、良い事がありそうな方を選べば良いじゃん」

「まぁ……確かにね」

「だろ?難しく考え過ぎなんじゃないか?確かに加護は大事だし、選べるのならより良い方を選びたいけど、結局結果が出ないとどっちが良かったかなんて分からないんだから」

「ちょっと頭がすっきりした……ありがと。明日までには加護を取っておくから、もう少しだけ考えてから取るよ……おやすみ」

「おぅ!おやすみ!」

 美奈が部屋から出ていくのを黙って見送る。

 俺が美奈だったらどっちを選んだだろうか。






















 俺が美奈だったら、多分服神を選んだと思う。

 福神の加護を取っても運が良くなるとは思えないし、福の神何ていう存在を俺は恨まずには居られないから。

「止まってる車に車が突っ込んでくる確立ってどんくらいあるんだろうな……」

 偶々居眠りをしていた人が運転している車の側で止まっていただけ、運が悪かった。

 ただそれだけ。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

処理中です...