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しふくの時と言われても11
しおりを挟む順調にダンジョンを進んで行き第三、第四階層も上階と殆ど変わりが無く、難なく突破した。
第三階層守護者は白くて大きい虎でこいつにも鑑定は出来なかったが、流れからして白虎であると思う。
第四階層守護者は蛇の尾を持つ大きな亀、こいつだけは玄武で間違いないと思うがこいつにも鑑定は出来なかった。
鑑定は便利ではあるが、ダンジョン側であれば対策も容易なのが欠点だ。
そしてダンジョンに侵入してから約5時間経過。
現在第五階層の奥にある扉前まで到達した。
恐らくここが終着点だと思うが、扉前には金ぴかの龍が蜷局を巻いて鎮座しており、こちらに気付いたのか睨みを利かせてきている。
「あれは黄龍かな?」
「だろうな」
「ちょっと眩しいね!」
「なんであろうと打倒あるのみだ!」
「鬱陶しいぐらいに光ってるっすね!」
「何か素材がドロップすると嬉しいのですが」
「鑑定……駄目」
ここまでの道中で黄龍を目の前にしながらすっかり油断しきっている我々だが、致し方ない事だと思う。
ダンジョンはずっと洞窟、罠も看破しやすい、階層守護者も苦戦する事無く沈めてきている。
イージーモード過ぎて油断しても仕方が無いと思う。
「あの扉がコアルームの扉だとすればこれがラストバトルになる訳だが……とにかく一番槍は俺が貰うとして、後は適当で良いか?」
長時間ダンジョンに潜っていると段々と面倒になり、思考も雑になってきている。
「後衛の守りは私が受け持とう」
「では俺は二番手を頂くとする!」
「私も攻撃に参加するっす!2番手は譲らないっすよ!」
「後衛は援護に回りますね」
「まぁ臨機応変にがんばろう!」
「今度こそぶっ放す……!」
皆の準備も整い、こちらの動きを見ていただけの黄龍との戦いの鐘を鳴らすべく俺が真っ先に突っ込む。
「行くぞ!」
俺が駆け出した瞬間に空中に浮かぶ黄龍、だがそれでは遅いと何故気付かないのだろうか。
「せやぁっ!」
俺が出来る最速の突きを何故か余裕綽綽の黄龍の胴体目掛けて放った。
黄龍が身を捩って突きを避けようとするが手遅れだった。
「ギャガァァァァァぁァ!!!」
痛みからなのか空中で巨体をくねらせ暴れ回る黄龍。
俺の突きは黄龍の鱗もなんのそのであっさりと貫通していた。
反撃の尻尾攻撃を軽く交わしながら、後退する。
俺の役目は終わりだ。
「……っ!」
「往生せいやぁっ!」
後退した俺と入れ替わるように俺の付けた傷口目掛けて一馬さんが渾身の一振りをかまし、番長が黄龍の頭へ真上から拳を叩きつけた。
「グヴォォォォォオ!!!」
頭は地面へ叩きつけられ胴体は空中へ勝ちあげられた黄龍が怒りから更に暴れ回る。
「やっちゃえミーちゃん!」
純の水龍が体を大きくして、黄龍の首元に噛み付き黄龍を振り回し、地面に何度も叩きつける。
黄龍よりも小さい水龍が軽々と黄龍を扱うさまはなんとも異常な光景だ。
「パワフルだなぁ……もう瀕死かな?」
「念の為一旦拘束します。純、水龍を離して下さい!……アクアバインド!」
リーダーが放った水の鎖が黄龍を雁字搦めにし、拘束した。
「ぐぅぉぉ……」
もはや死に体の黄龍が情けない呻き声を上げる。
「ちょっと可哀そうになってきたな……」
「ぶっ放す!」
止めの一撃は助手ちゃんの魔法銃による砲撃で幕を閉じた。
黄龍が宙へと消えて周囲にもモンスターは居ない。
「ドロップは無しか……まぁ良いけど」
これで後はコアルームに入って、ダンジョンコアに触れれば中国ダンジョンは攻略完了となる。
「コアに触れるの誰にする?リーダーか番長か助手ちゃんか……三人で決めて良いぞ」
「リーダーに決まってるっす!」
「リーダー……」
「……では私が」
少しの逡巡の後にリーダーが頷き、扉の前へと進んで行った。
「では、参りますね……」
これでダンジョン攻略者が俺、千尋、純、ベル、リーダーの5人になる。
英美里には悪いが、先にリーダーがダンジョン攻略組に仲間入りとなる。
ダンジョン攻略特典でG-SHOPの使用が可能となる。
現状判明しているのはSPを消費してスキルが取得可能であり、加護の種類によって得られる特殊スキルが異なるという事と、本人の適性次第であらゆる汎用スキルが得られるという事。
俺の娯楽神の加護ならアバター関連のスキルを得られる。
リーダーはエルフで植物神の加護を持っているので特殊スキルの取得が可能となる筈だ。
リーダーが扉に手を掛け開いた。
中は真っ白い部屋で、部屋の中央には台座の上に鎮座しているダンジョンコアのみがあった。
皆で順番に中へ入りリーダーがダンジョンコアに手を伸ばし、触れた。
手を触れた瞬間にコアは砕け散り、リーダーへと吸い込まれるように消えていった。
「G-SHOP解禁出来ました!ありがとうございます!」
「これで任務完了だね!」
リーダーが満面の笑みで報告してくれた。
軽く盛り上がりながら暫くの間コアルームで休憩ついでに談笑をしていると、ちょっと試してみたい事が出来た。
「リーダー!スキルは何が取得出来るっすか!」
「特殊スキルだと<小妖精召喚>が多分そうだと思うのだけれど……まだ全てを見てないから何とも言えないわ」
「小妖精っすか!可愛いのが出て来てくれると嬉しいっすね!」
「そうね」
「話はこれぐらいにして、一旦日本に帰ろう。あまり長居をしていても良い事は無いだろうからな」
「これでまた世界が騒ぎ出すだろうね!ただでさえ、人間以外の種族が世界に公表されちゃうからね!さっさと日本に帰ろう!面倒事は政治家に丸投げだよ!」
ダンジョンから出てきた新たな種族の公表によって世界は再び騒がしくなるだろう、そしてその新たな種族であるリーダー、番長、助手ちゃんが人類に協力して中国のダンジョンを攻略したという事も合わせて発表すれば多少はダンジョンとの共存共栄に近付けると信じたい。
「がはは!さぁ、帰ろうか!」
「……ちょっと試したい事があるから、ベルに念話する」
俺は帰宅ムードの皆にひ一言断りを入れてベルへと念話する。
『ベル!』
『はいマスター!』
『今さっき中国のダンジョンを攻略したんだけど……ちょっと試したい事があるんだ……俺達が攻略した中国のダンジョンを暴食ダンジョンみたいにベルの力で管理出来たりしないか?』
無茶苦茶な事を言っているのは自覚しているが、ベルなら何とか出来る気がした。
『可能ですよ!暴食ダンジョンの時と同様に私が直接そちらに出向けばの話ですが!』
『どうにかして来られないか?』
『そうですね……可能ですが、今しがた攻略されたダンジョンを私達の管理下に置くのは色々と注目されすぎているので良くないと思いますよ?他の場所にあるダンジョンを攻略して、そちらを管理下に置くのはどうですか?マスターの目的はダンジョン間転移門の設置ですよね?』
『あぁ、日本と中国に拠点があれば何かと便利かと思ってな』
『でしたら今から全力で私がそちらに向かいますので、合流してから未発見のダンジョンを攻略してしまいましょう!』
『ありがとう……ちなみにどうやってこっちに来るつもりだ?』
『勿論飛んで行きますよ!バビュンと!目撃されないようにしますので安心してください!数分後には合流しますので!暫しお待ちください!』
『……りょーかい』
自分で提案しておいてなんだが、毎度ベルの凄さには驚かされる。
「もうすぐベルがここに来るから、ちょっとだけ待っててくれ」
「?」
皆一様に首を傾げながら、俺の言っている言葉の意味を考えているようだ。
「それはどういう事だ?」
「いや、だからベルがここに来るんだよ。詳しい事はベルが着いてから説明するから」
コアルームの床に座り込んで休憩していた俺の頭を純がそっと撫でてくる。
「拓美君……ベルはね、今、怠惰ダンジョンでお留守番してるの。だからここには来れないんだよ?ちょっと疲れちゃったかな?大丈夫、今日はゆっくり休もうね?」
「俺も自分で馬鹿みたいな事言ってるのは自覚してるし、疲れてもいる。だけど頭は正常だよ……まぁもうすぐ分かるよ」
ベルが到着するまでの数分間、俺は耐えられるんだろうか。
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