上 下
119 / 155

しふくの時と言われても6

しおりを挟む

晩御飯を終えて嫁と共に部屋へ戻る。

「明日の中国行きの飛行機のチケットだけど、パスポートの変更手続きしてないから、拓美君の分は旧姓で取っておいたからね!」

「旧姓……そうか俺ももう佐々木になってるのか」

「そうだ。佐々木拓美だから、今後はもうまこちゃんとは呼べないな……何て呼ぼうか?拓ちゃん?」

 千尋が俺の事をまこちゃんと呼ぶのは児玉という苗字から付けたあだ名だから、俺が佐々木の姓になったからあだ名を変えようとしているみたいだ。

「別に今まで通りまこちゃんで良いんじゃないか?そっちの方が俺も慣れてるし、愛着もある。今更違うあだ名で呼ばれても困惑するだけだから」

「それもそうか……じゃあ今後もまこちゃんと呼ばせてもらうよ」

「りょーかい」

「それよりさ!明日はどうするの?大分からは北京の直行便が無いから、一回羽田空港を経由するんだけど……トータルで北京空港まで大体9時間ぐらいかかるから、北京に着くのは夜だけど」

 残念な事に我が地元大分は中国行きの便が存在しない。

 国際線で行ける国はお隣さんと親日国家で有名な台湾ぐらいだ。

「明日は移動だけで良いんじゃないか?北京で一泊して、翌日ダンジョンに向かえば良いと思うけど……俺達は冒険者協会とPCHと違って独立して動くんだろ?」

 冒険者協会とPCHからの中国ダンジョン攻略部隊は俺達とは別行動の予定なので、彼等に合わせる事も無いだろう。

「そうだな……明日は移動して一泊して、翌日から本格的にダンジョン攻略に向かうのが現実的だろう。こちらの予定を純から安相さんに伝えて貰えば、向こうの大使館スタッフが動いてくれるみたいだから詳しい旅程は明日現地に着いてから聞けば良いと思うが……正直、現地の地図さえあれば私達が走って向かった方が早いんだが、そんな事は他国では中々出来ないだろう」

「その辺の事は私が打ち合わせとかしておくから安心して!私が聞きたいのは……北京の夜に何して遊ぶかだよ!折角だから美味しいコーヒーが飲みたいよね!」

 旅程や予定は純に丸投げしていれば問題無いみたいだ。

「コーヒーもそうだけど、俺は美味しい本場の中華料理が食べたいなぁ」

「ふむ……私も本場の中華料理が食べてみたいな」

「りょーかい!じゃあ明日は翡翠が買えるお店と、美味しい中華料理が食べられる所に行こうね!」

「おぅ!」

「あぁ!」

「じゃあ!また明日!ちゃんと起きてね?」

「また明日」

「おやすみ!」

 嫁と軽い打ち合わせ等を済ませて、嫁が部屋から去って行った。

「ベルの所に顔出しに行こう」

 俺の為の装備を作ってくれているベル達の元へ向かう。


 ☆ ☆ ☆


 ベルに念話して居場所を聞くと、やはり研究施設に居るという事だったので俺も研究施設へと向かった。

「おいーっす!どんな感じ?間に合いそう?」

 研究施設の一室で待ち構えていたのはベルだけだった。

「お待ちしていましたマスター!槍の蜻蛉切りはもう完成しましたよ!」

「おぉ!早いな!」

「どうぞ!ちなみにリーダー達は別室で具足の開発を急いでいますよ!」

 ベル達が俺の為に用意してくれた蜻蛉切りを手渡してくれた。

「意外と軽いな……よっ!はっ!……取り回しも結構しやすいし!ただ、ちょっと長いな……いつもの槍は短槍寄りだからなぁ……」

「ふふん!そういうと思いまして、ギミックを施しているので顎安心を!槍に魔力を流して見てください、マスター!」

「槍に魔力を……!縮んだ!」

 ベルに言われた通りに蜻蛉切りに魔力を流すと蜻蛉切りの柄の部分が縮み、俺がいつも使っている槍と同じぐらいの長さになった。

「これはリーダー考案の魔力によって伸縮する槍!名付けて!魔槍蜻蛉切り!どうですかマスター?最短0.5mから最長6mまで自在に伸縮可能ですよ!」

「すげぇ!カッコイイ!」

「ちなみに槍の内部に刻んだ魔術式に長さのイメージと共に魔力を流せば伸縮する仕組みです!」

「ありがとう!ベル!」

「ではでは!次は具足の開発に掛かっているリーダー達の所へ行きましょうか!」

「あぁ!」

 魔槍蜻蛉切りがこの出来なら、具足もきっと素晴らしい出来に違いない。

 部屋から出て、真向いにある部屋に移動するとリーダー、博士、助手ちゃんが居た。

「おいーっす!どんな感じ?」

 てっきり他のドワーフの子やエルフ、マクスウェル、ラプラス何かも居ると思っていたが居ないようだ。

「もうじき完成です拓美様!」

「おぉ!仕事が早いな!」

「ふふふ!ベル様の協力があってこそですよ!」

「私が本気を出せばこのぐらい余裕です!」

 博士と助手ちゃんは最終調整中なのかこちらを一瞥する事も無く、机に置かれている具足に何か手を加えている。

「先に搭載したギミックの説明だけしておいた方が良いかもですね……」

「私が説明してあげましょう!」

 いつもの如く、テンション高めのベルが説明役を引き受けてくれるらしい。

「頼む」

「はいマスター!今回マスターの為に開発した具足ですが、私達は魔装と呼んでいます!魔装のコンセプトはシンプルで固い、速いです!魔装は元々の頑強さに加えて、魔装表面に常時展開する結界を生成する仕掛けを施しました!使用する魔力は基本的に周囲から、ダンジョン外のように魔力濃度が低い場合はマスター自身の魔力によって結界を生成出来るようにしています!強度は千尋の本気の一撃を数回までなら耐えられる程度です!」

「千尋の攻撃にも耐えられるのか……それは凄いな!」

 今や千尋の本気の一撃は比喩でも何でもなく地を砕き、天を割く威力だ。

「そうですマスター!すごいんです!次に速さ、これは着脱の速さとマスターの動きを極力阻害しないように工夫して実現させています!魔装に触れながら装着するイメージで魔力を流せば一瞬で着る事が出来ます!脱ぐ時も同様です!動きを阻害しないというのは、マスターの動きに合わせて魔装自体がある程度稼働してくれる仕掛けを施したからです!マスターの動きに合わせて魔装が稼働する事で魔装を付けていない時とあまり変わらない動きが可能になっているのです!」

「一瞬で着脱……ヒーロースーツみたいだな!俺の動きを阻害しないっていう後半の説明は良く分からんが凄そうだ!ありがとう!ベル!リーダー!博士!助手ちゃん!」

「完成したら試着をお願いしますマスター!」

「あぁ!」























 その後、無事に完成した魔装・忠勝型を試着して動作チェックをしてから部屋へと戻った。

「しっかしやばいな魔槍と魔装……」

 俺専用の新しい装備は本当に凄かった。

 特に魔装・忠勝型。

 着脱は一瞬、強度は最硬、甲冑なのに動きやすい。

 こんな装備が世に出回れば一般人でもダンジョン攻略が出来る時代が来るかもしれない。

「ハハッ!魔装が量産の暁にはダンジョンなぞあっという間に叩いてみせる!」

 コスト的に不可能な事は分かっているが、そんな未来が来る事を願わずにはいられない。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...