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しふくの時と言われても2
しおりを挟む今日は久々に嫁が我が家に帰って来る。
午前中はいつもと変わらず過ごし、午後からは中国に出向くメンバーと軽い打ち合わせを行う予定になっている。
『もうすぐ帰り着くから、リーダーと番長と助手ちゃんを家に呼んでおいてくれ』
『もう呼んでるよ。気を付けて帰って来いよ』
『あぁ。ではまた後で』
居間でコーヒーを飲みながら出張中の嫁の帰りを待つ。
リーダー、番長、助手ちゃんも仕事を中断して我が家で待機してくれている。
最近やっと人員を増やした事もあって、番長率いる鬼人娘衆の仕事量と負担はかなり軽減している。
「人が増えたのは良いっすけど、指導するのが大変っす!」
「まぁ、そこらへんはベルに文句を言ってくれ」
「流石に大所帯になり過ぎっす!鬼人だけで総勢20人っすよ!いきなり人数が5倍はやりすぎっす!5人刻みぐらいでちょっとずつ増やして欲しかったっすね」
「人が増えたら楽出来るから良いじゃん」
「最初の指導が大変っすけどね」
「それは確かに大変そうね……エルフは追加人員は4人でしたから、基本はマンツーマンで色々と教える事が出来てますから」
「ドワーフ二人増えた。嬉しい」
「助手ちゃんも後輩が出来て良かったっすね!ドワーフって寡黙な種族かと思ってたんで新人の子にはちょっとビックリしたっすけどね!」
「喋る、苦手」
怠惰ダンジョンは本格的に規模を大きくしている。
まず人員を大幅に増加。
エルフが4人増加で8人。
鬼人が16人増加で20人。
ドワーフが2人増加で3人。
新階層の海エリアに魚人族のマーメイドを10人。
研究施設に悪魔族のマクスウェルデーモンとラプラスデーモンの2人。
怠惰ダンジョンもかなりの大所帯になってきた。
「研究施設も大分賑やかになってきたよな」
「人増える、研究出来る事増える。楽しい」
「まぁ今までが少なすぎたか……にしても人を増やすにしても博士みたいなインテリ悪魔を増やすのかと思ってたけど違うんだな」
俺はてっきり博士と同じ種族を増やすのかと思っていた。
「それは出来ないんですよご主人様。悪魔族は基本的に単一の存在ですので同じ種族の方はこの世に一人だけですから」
「単一の存在……って事は子孫は作れないって事か?」
「いいえ。悪魔族の子孫は魔人族になりますので、魔人族の何とかという種族になりますね。ちなみに私は悪魔族のドラキュラの子孫のメイドラキュラという種族になります」
「へー……」
良くは分からんが、悪魔族は単一の存在で魔人族は悪魔族の子孫という事なのだと思う。
「ですから強大な力や能力を有している事が多いと聞きます」
「じゃあ博士ってやっぱり凄いのか」
「そうですね」
何れは博士やマクスウェル、ラプラス本人だけでなく、彼女らの子孫の魔人族が怠惰ダンジョンの研究施設や色々な所で活躍する日が来るのかもしれない。
「結局軽い顔合わせはしたけど、歓迎会も出来てないからやりたいんだけどな、流石に中国から帰ってきてになるか……やっぱり中国に行くの辞めないか?」
「それは無理だ!」
「無理だね!」
「「ただいま!」」
「おかえり!」
嫁の帰還。
久々に会うとやっぱり少しだけ照れる。
二人とは長い付き合いになるが、新婚には変わりない。
「そういえば……今まで忙しくて婚姻届けを出しそびれていたんだが、今日出してきたからこれで私とまこちゃんは正式に夫婦になったからな」
「マジで!そんな大事な事は事前に言っといてくれ!……でも、ありがとう!これで俺も所帯持ちだな……美奈に電話しないと!」
「美奈にはさっき電話しておいた。泣いて喜んでたぞ、一度こっちに帰って来るって言ってたからそのうち帰って来るんじゃないか?」
「なんで実の兄より先に言っちゃうんだよ!……まぁそれでも電話するけど。という事だから、ちょっと電話してくる」
千尋からのいきなりの報告に驚かされながらも美奈に電話する為に一旦部屋に向かう、流石の俺でも妹との電話を聞かれるのは少し恥ずかしい。
部屋に戻ってスマホで妹に電話を掛ける、コール音が数回鳴ってから美奈が電話に出た。
「もしもし、俺だけど」
「何?」
「いや、千尋から聞いたとは思うんだけど……俺、結婚したから」
「そう……おめでとう……よかったね」
いつも通り、俺には少し素っ気ない態度の美奈の態度に安心する。
「でさ……今度、帰って来るんだろ?」
「一応ね……千尋さんが義理の姉になるんだし、挨拶しようと思って……」
妹とはもう28年の付き合いになる。
一時期は本当に会話すらしない時期もあったけど、美奈はいつも俺の事を気にかけてくれていた。
俺は優秀な両親とも妹とも似て無くて、何をやっても中途半端で学生時代は良く妹と比較されていた。
優秀な妹と出来の悪い兄の構図は今もずっと変わらない。
それでも俺は妹が褒められる度にとても誇らしかった、才能というものが俺の分も妹に行ったと言われる度にとても嬉しかった。
そんな妹が今、電話越しに嬉しくて涙を流している事がとても嬉しい。
「そっか……ありがとう。千尋も喜んでたよ」
「うん……」
「そっちはどうだ?仕事とか……恋愛とか」
「仕事は何とかやってる……恋愛は今は、まだ良いかな」
「そうか……仕事、楽しいか?」
「あんまり楽しくない……やりがいはあると思う。でも多分、もう辞めたいかな……」
初めて妹から弱音を聞いた。
「じゃあ辞めて、家に帰って来れば?」
「でも、兄さんは新婚でしょ?今私が帰ったら迷惑じゃない?」
理由は何も聞かない。
聞いた所で俺が解決出来る事でも無いし、美奈が話すとも思えない。
「そんな事気にするな!というか……まぁ、一回家に帰って来いよ。色々と驚くと思うぞ!」
「ありがとう……近いうちに一度帰るから……千尋さんと純さんによろしくって伝えておいて……じゃあまたね」
「おう!またな!」
美奈も色々と悩みがあるのだろう。
年齢的にもそろそろ結婚を考える時期でもあるだろうし。
仕事的にも新人を脱して、上と下に挟まれて板挟みに会いやすい立場にあるだろうから。
「大企業様に勤めるとそれなりにストレスも多そうだしな……今の会社が辛いなら大企業なんか辞めて冒険者協会関連の仕事してもらいたいな……」
美奈は俺と違って優秀だ。
それこそ身内贔屓かもしれないが純にも勝るとも劣らない賢さがあると俺は思っている。
「兄より優れた妹が可愛くないわけがない」
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