上 下
115 / 155

しふくの時と言われても2

しおりを挟む

 今日は久々に嫁が我が家に帰って来る。

 午前中はいつもと変わらず過ごし、午後からは中国に出向くメンバーと軽い打ち合わせを行う予定になっている。

『もうすぐ帰り着くから、リーダーと番長と助手ちゃんを家に呼んでおいてくれ』

『もう呼んでるよ。気を付けて帰って来いよ』

『あぁ。ではまた後で』

 居間でコーヒーを飲みながら出張中の嫁の帰りを待つ。

 リーダー、番長、助手ちゃんも仕事を中断して我が家で待機してくれている。

 最近やっと人員を増やした事もあって、番長率いる鬼人娘衆の仕事量と負担はかなり軽減している。

「人が増えたのは良いっすけど、指導するのが大変っす!」

「まぁ、そこらへんはベルに文句を言ってくれ」

「流石に大所帯になり過ぎっす!鬼人だけで総勢20人っすよ!いきなり人数が5倍はやりすぎっす!5人刻みぐらいでちょっとずつ増やして欲しかったっすね」

「人が増えたら楽出来るから良いじゃん」

「最初の指導が大変っすけどね」

「それは確かに大変そうね……エルフは追加人員は4人でしたから、基本はマンツーマンで色々と教える事が出来てますから」

「ドワーフ二人増えた。嬉しい」

「助手ちゃんも後輩が出来て良かったっすね!ドワーフって寡黙な種族かと思ってたんで新人の子にはちょっとビックリしたっすけどね!」

「喋る、苦手」

 怠惰ダンジョンは本格的に規模を大きくしている。

 まず人員を大幅に増加。

 エルフが4人増加で8人。

 鬼人が16人増加で20人。

 ドワーフが2人増加で3人。

 新階層の海エリアに魚人族のマーメイドを10人。

 研究施設に悪魔族のマクスウェルデーモンとラプラスデーモンの2人。

 怠惰ダンジョンもかなりの大所帯になってきた。

「研究施設も大分賑やかになってきたよな」

「人増える、研究出来る事増える。楽しい」

「まぁ今までが少なすぎたか……にしても人を増やすにしても博士みたいなインテリ悪魔を増やすのかと思ってたけど違うんだな」

 俺はてっきり博士と同じ種族を増やすのかと思っていた。

「それは出来ないんですよご主人様。悪魔族は基本的に単一の存在ですので同じ種族の方はこの世に一人だけですから」

「単一の存在……って事は子孫は作れないって事か?」

「いいえ。悪魔族の子孫は魔人族になりますので、魔人族の何とかという種族になりますね。ちなみに私は悪魔族のドラキュラの子孫のメイドラキュラという種族になります」

「へー……」

 良くは分からんが、悪魔族は単一の存在で魔人族は悪魔族の子孫という事なのだと思う。

「ですから強大な力や能力を有している事が多いと聞きます」

「じゃあ博士ってやっぱり凄いのか」

「そうですね」

 何れは博士やマクスウェル、ラプラス本人だけでなく、彼女らの子孫の魔人族が怠惰ダンジョンの研究施設や色々な所で活躍する日が来るのかもしれない。

「結局軽い顔合わせはしたけど、歓迎会も出来てないからやりたいんだけどな、流石に中国から帰ってきてになるか……やっぱり中国に行くの辞めないか?」

「それは無理だ!」

「無理だね!」

「「ただいま!」」

「おかえり!」

 嫁の帰還。

 久々に会うとやっぱり少しだけ照れる。

 二人とは長い付き合いになるが、新婚には変わりない。

「そういえば……今まで忙しくて婚姻届けを出しそびれていたんだが、今日出してきたからこれで私とまこちゃんは正式に夫婦になったからな」

「マジで!そんな大事な事は事前に言っといてくれ!……でも、ありがとう!これで俺も所帯持ちだな……美奈に電話しないと!」

「美奈にはさっき電話しておいた。泣いて喜んでたぞ、一度こっちに帰って来るって言ってたからそのうち帰って来るんじゃないか?」

「なんで実の兄より先に言っちゃうんだよ!……まぁそれでも電話するけど。という事だから、ちょっと電話してくる」

 千尋からのいきなりの報告に驚かされながらも美奈に電話する為に一旦部屋に向かう、流石の俺でも妹との電話を聞かれるのは少し恥ずかしい。

 部屋に戻ってスマホで妹に電話を掛ける、コール音が数回鳴ってから美奈が電話に出た。

「もしもし、俺だけど」

「何?」

「いや、千尋から聞いたとは思うんだけど……俺、結婚したから」

「そう……おめでとう……よかったね」

 いつも通り、俺には少し素っ気ない態度の美奈の態度に安心する。

「でさ……今度、帰って来るんだろ?」

「一応ね……千尋さんが義理の姉になるんだし、挨拶しようと思って……」

 妹とはもう28年の付き合いになる。

 一時期は本当に会話すらしない時期もあったけど、美奈はいつも俺の事を気にかけてくれていた。

 俺は優秀な両親とも妹とも似て無くて、何をやっても中途半端で学生時代は良く妹と比較されていた。

 優秀な妹と出来の悪い兄の構図は今もずっと変わらない。

 それでも俺は妹が褒められる度にとても誇らしかった、才能というものが俺の分も妹に行ったと言われる度にとても嬉しかった。

 そんな妹が今、電話越しに嬉しくて涙を流している事がとても嬉しい。

「そっか……ありがとう。千尋も喜んでたよ」

「うん……」

「そっちはどうだ?仕事とか……恋愛とか」

「仕事は何とかやってる……恋愛は今は、まだ良いかな」

「そうか……仕事、楽しいか?」

「あんまり楽しくない……やりがいはあると思う。でも多分、もう辞めたいかな……」

 初めて妹から弱音を聞いた。

「じゃあ辞めて、家に帰って来れば?」

「でも、兄さんは新婚でしょ?今私が帰ったら迷惑じゃない?」

 理由は何も聞かない。

 聞いた所で俺が解決出来る事でも無いし、美奈が話すとも思えない。

「そんな事気にするな!というか……まぁ、一回家に帰って来いよ。色々と驚くと思うぞ!」

「ありがとう……近いうちに一度帰るから……千尋さんと純さんによろしくって伝えておいて……じゃあまたね」

「おう!またな!」
























 美奈も色々と悩みがあるのだろう。

 年齢的にもそろそろ結婚を考える時期でもあるだろうし。

 仕事的にも新人を脱して、上と下に挟まれて板挟みに会いやすい立場にあるだろうから。

「大企業様に勤めるとそれなりにストレスも多そうだしな……今の会社が辛いなら大企業なんか辞めて冒険者協会関連の仕事してもらいたいな……」

 美奈は俺と違って優秀だ。

 それこそ身内贔屓かもしれないが純にも勝るとも劣らない賢さがあると俺は思っている。

「兄より優れた妹が可愛くないわけがない」








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...