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夢を追うもの笑うもの9

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 我が家へと戻り美味しい晩御飯を堪能してから、お嫁ーずから報告を受ける。

「今日は超常現象対策本部からやっと連絡が来てさ、近いうちに会ってお話しませんかって感じだったんだけど……良いよね、会っても?」

 純からの突然の報告。
 PCHからの連絡は思っていたよりも遅かったが、これで彼方様も本腰を入れてくる事だろう。俺達が世間に流した情報の真偽をどうにか確かめようとしたが上手くいかなかったんだとは思うが、それにしても腰が重かったと感じる。日本のトップである、あの男がここまで慎重な動きをしたというのが俺的にはどうも気掛かりだ。

「勿論。当初の目的を果たす為にもPCHとの繋がりは出来るだけ強くしときたいし。にしても予想とは裏腹にPCH側の動きが遅かったのが気掛かりだけど……何か知ってる?」

 気になった事は情報を共有するという意味でも聞いておいた方が良い。俺よりも優秀な頭脳を持った嫁なのだ、頼る事に対して何の抵抗も無い。

「んー、知ってる事は特に無いけど……私の予想としては、内部分裂かコッチに話しを聞く前に情報の真偽を確かめていたのかって所かな。何にしても多分くだらない理由で初動が遅れたんじゃないかと思うよ!冒険者協会とかいう訳の分からないニュービーに後れを取ってたら、国営団体としての威厳も何も無いしね!」

 それでも俺達の齎した情報の凄さや大事さは向こうも理解している筈だ、その上で遅れを取るというのがどれ程馬鹿げているかは安相さんなら分かっていると思うのだが。

「まぁ多少想定とは違ったけど、これで本格的にダンジョンの情報をPCHに流す事が出来るな」

 俺達だけが知っているダンジョンの情報は多岐に渡る。
 この情報を渡すだけでも生活には困らない程度にはお金を得られるのかもしれないが俺達には必要無い。お金自体は必要だが、情報をお金に換えるよりも情報を世間に広める事の方が大事というだけなのだ。

「それで、今日も面接したんだろ?良さそうな人居た?」

「うーん……一人だけ面白そうな人は居たかな!まぁ千尋ちゃんの推しなんだけど!私的にはどうかなぁって感じ!」

 今日の冒険者協会の面接は千尋も参加したそうだ。
 ダンジョンの攻略は進めていきたいのだが、新人をダンジョン攻略者にする為にも候補地は確保したままにする方が望ましい。

「彼女には何か光る物があると感じた!まぁこれは私の直感でしかないがな。彼女の家庭環境的にも私は冒険者協会へ迎え入れたいと思うんだ」

「千尋の直感の事は置いといて……家庭環境に何か問題を抱えてる感じか?」

「あぁ。彼女に聞いただけの話しだから、まだ確定はしていないが……義理の父親に少し問題があるらしい、彼女自身は今年大学に入学したのをきっかけに家から出る為に家を借りようとしたらしいんだが義父に保証人を断られたらしくてな……母親も義父の言う事には異論は無いという話しだ。彼女は大学入学を期に一人で暮らす為に数々のバイトをしてお金を貯めていたらしいんだが、親以外では保証人に宛が無いという話しだし、出来れば協力してやりたいと思うんだ」

 又聞きでしかないので何とも言えないが、自立して自活出来るだけの能力があるのなら親御さんの元を離れるのは良い事だと思う。
 ただこの話で問題なのはこの義理の父親から彼女が逃げたいと思っている所だろう。義父に何か問題があるという事は聞いたが具体的な事は聞いてないので何とも言えない。

「義父に何か問題があるって話だけど、具体的に聞いても良いか?」

「彼女曰く、性的な虐待を受けているという事だ。母親が再婚したのが彼女が高校2年生の時らしくてな、その時から色々されているらしい、まだレイプには至って無いが時間の問題だと彼女は言っていた。実際、母親が居ない時には執拗に体を触られたりしているみたいだ。家庭内が一番危険といいうのはどれだけのストレスなのか……私はどうにか彼女を救いたい」

 彼女は身の危険に怯えながら毎日過ごしている。
 家庭という本来であれば一番安らげる場所で。

「聞いた話だけで判断するなら、俺は賛成だな。どうにかして助けてやりたい」

「私も話が本当なら助けてあげたいけど……冒険者にするのは違う気がする!彼女なら冒険者にならなくても、住む所さえ用意してあげられたら普通に生活出来ると思うしね」

「私は彼女を冒険者にしたいと思ってる。直感の事もあるが、彼女自身が強くなれば義父に怯える事も無くなる。これまで受けた恐怖やトラウマを払拭出来る機会を与えてあげたい」

 どちらの意見も正しいと思う。
 俺達三人の票が割れているのなら、結局最後は本人の意思次第だろう。


「まぁ……身辺調査と最終面接するって事で良いんじゃないか?出来るだけ早めに」

「あぁ」「そうだね!」


 ダンジョンを攻略する為の存在である冒険者というのは危険が付き纏う職業だ。出来るだけ危険を排除し、俺達も全力でサポートはするが、それでも確率はゼロにはならない。

 俺達自身もまた、死の危険を伴うのだ。
 覚悟と信念が無ければ務まらないと思う。

 けれど、今のこの状況では最初から覚悟と信念がある人なんて極僅かなのも事実だ。
 だとすれば覚悟と信念を持つように俺達で育てる方が効率が良い。後進を育てる事が出来なければ日本はダンジョンとモンスターによって埋め尽くされるのは間違いないのだから。

 若者を死地へ向かわせるというのは気分の良いものじゃない、若者に覚悟と信念植え付けるのもそうだ。けれど誰かがやらなくてはならない、嫌でも多少の犠牲の上でこの世界は成り立っているという事を再認識させられてしまう。







「そういえば、彼女の名前は?」

 ふと気付く、今まで誰も彼女の名前を呼んでいない事に。

「彼女の名前は……」

「名前は?」




































「岩藤幸子だ」
「いわふじさちこ……なるほど、ありがとう」

 こう言っては失礼かもしれないが、幸子という名前の人はどうにも幸が薄い人のイメージがある。
「幸子って人は幸が薄いイメージあるよね!」
「それ、本人に言うなよ?」
 念の為釘を刺しておく、純は意外と良識やデリカシーというものが無かったりするから



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