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夢を追うもの笑うもの2
しおりを挟む倒したゴブリンはスライムを倒した時と同様にその場から消えた。
「純、ゴブリン討伐成功おめでとう。気分はどうだ?気持ち悪くなったりしてないか?」
「うーん……自分でもびっくりするぐらい何ともないね!逆にそれが違和感というか……まぁ良いか!マイナス要素では無いし、あんまり考え過ぎても良くないしね」
「違和感か……まぁ何んとも無いなら良かったよ。これで計画の変更はしなくても良さそうだな。千尋と一馬さんは……大丈夫そうだな!良し、先を急ごうか」
嫌悪感や忌避観が無い事に対する違和感。
言われてみれば確かにとも思う。
ゴブリンはスライムとは違って明らかに人型に近いし、ある程度の知能と文明を持っているように感じられる。道具、武器、防具を使う事が出来るだけの知能はある上に、見た目も醜悪さはあるが遠巻きにみれば肌色が変なだけの子供だ。
そんなゴブリンをいくら死体が残らないからとは言っても、今まで生物を殺した経験が無い俺達が殺しているのに何も感じないのは確かに違和感がある。
考えていても答えは出ないであろう疑問を抱えながらも先へと進む。この九重ダンジョンが全ての始まりになるのだと信じて。
九重ダンジョンに入ってから大体1時間が過ぎた。
この洞窟型のダンジョンは基本的には一本道が続いている。偶に道が枝分かれするが片方の道は広場の様な場所に続いていて行き止まり、もう片方の道が先へと続いている。
遭遇したゴブリンは全部で14体で現状は4体以上の群れには遭遇していない。単体で行動しているゴブリンも居ないので、基本的にはゴブリンは集団で行動するモンスターだと思う。となればやはりダンジョン外に出ているゴブリンというのは群れからハグレた個体だったんだと思う。
「止まれ、敵影発見、ゴブリン3、他1、初見の相手が居る、少し様子が見たい、下がっていてくれ」
「「「……」」」
俺の意図を察して全員が言葉を発さずに後方へと下がってくれた。
相手はこちらに気付いて無い。洞窟型で道が真っ直ぐでは無く曲がりくねった道だというのが幸いしている。
死角になっている場所から再び顔を出して相手を観察する。
ゴブリンとは明らかに体躯が違うのが1体とゴブリンが3体地べたに座り込んでいる。
初見のモンスターの大きさは座っているので分かりづらいが、ゴブリンが小学校低学年生程度の大きさだとしたら中学校に入学したての子供ぐらいはあると思う。
見た目はゴブリンをそのまま大きくして肌の色が濃くなった感じだろうか。あれは明らかに俺達が知っているゴブリンでは無い。
このまま手を出すのは愚策だろう。相手の情報があまりにも少ない。
一旦後方へと下がり、皆と合流する。
「ただいま」
「おかえり!で、どう?」
「うーん……実力的には倒せるとは思うけど、流石に情報が無さすぎるからな。ベルに聞いてから判断するよ」
「何事も慎重にだね!」
俺が純と会話している間も千尋と一馬さんは周囲の警戒を怠らない。黙々と前後を見張ってくれるのはとてもありがたい。
『ベル!ちょっと質問!』
『はいマスター!』
『ゴブリンを少し大きくしたような奴が居たんだけど、何かわかるか?』
『そうですね、私は見ていないので何とも言えませんが恐らくホブゴブリンかハイゴブリンだと思います!鑑定は試しましたか?』
鑑定という便利な機能を今の今まで忘れていた。
『……ちなみにホブゴブとハイゴブの強さは?』
『ホブゴブリンはゴブリンの進化したモンスターで強さで言えばゴブリンの5倍は手強いと考えた方が良いです。ハイゴブリンはホブゴブリンの進化したモンスターでこちらもホブゴブリンよりも5倍は手強いと考えてください。見た目がただ大きくなっただけだと侮ると痛い目を見る可能性がありますが、マスター達の実力であれば何も問題は無いと思います!』
『ありがとうベル!また何かあったら連絡する!』
『はい!進化したモンスターは最低でも進化前の5倍は手強くなっていると思った方が良いですよ!ではまた!』
ゴブリンの5倍の手強さ。
ベルが言うには進化したモンスターはそれだけ強いという事なのだろう、見た目が少し大きくなっただけだと侮ると手痛いしっぺ返しが待っている。
「もう一度様子を見てくる」
再び様子を観察しに行く。
推定ホブゴブリンに鑑定を掛ける。
鑑定は上手くいった、分かったのはホブゴブリンという種族とスキル。
ホブゴブリン
スキル 他種族交配
・他種族交配 あらゆる種族と交配可能
分かった事はこれだけだが、種族名とスキルが分かるだけでもとてもありがたい。
「他種族交配か……何ともまぁイメージ通りのモンスターだな」
ゴブリンにも鑑定を掛けるがゴブリンには他種族交配どころかスキルが何も無かった。
ここで一度皆の所へと戻った。
皆と合流して情報の共有を行う。
「ホブゴブリンが厄介だな……強さ的には問題無いけど他種族交配っていうスキルを持ってる。ホブゴブリンが増えればゴブリンも爆発的に増える可能性が高い……流石はベル一押しのコスパ最強モンスターなだけはある」
「他種族交配……聞いただけで鳥肌が……ひぃい!そんな奴はサクッと始末しよう!」
「そうだな、私も純の意見に賛成だ」
「こりゃまた、世間が思ってるよりもゴブリン族ってのは厄介なモンスターだな!さっさと始末しちまおう!」
「じゃあ行きますか!ホブゴブにはまず俺が当たる。皆はゴブリンを排除してから余裕があれば援護を頼む、あまりにも強かった時は俺を見捨てて撤退で」
「おう」「あぁ」「ほい」
「行こう!」
ホブゴブリンの居る場所まで皆で戻ってきた。
「千尋は一番奥、一馬さんが真ん中、純が手前、3、2,1,GO!」
ホブゴブリンへと真っ直ぐ突っ込む。
エルフ印のミスリル製の槍で奇襲するようにホブゴブリンの頭を突く。
突然の事で反応が遅れたのか、ホブゴブリンは俺の突きを躱す事が出来なかった。頭を俺の槍が貫き、ホブゴブリンは消滅。
周囲確認、ゴブリンも既に消失していた。
剣精を背後に出現させながら増援、奇襲の警戒を怠らない千尋。
甲冑姿で千尋の反対側を警戒する一馬さん。
ミズチナナを撫でながら俺を見ている純。
「敵影無し、増援無し。お疲れ様!正直、ホブの強さが全く分からなかった。感触としてはゴブリンと然程変わらない感じかな」
恐らく俺達ではホブゴブリンとゴブリンの強さの違いがあまり分からないんだと思う。俺達とホブゴブリンではあまりにも強さに差があり過ぎて。
「じゃあ今後はホブが出てきてもあまり気にしない感じ?」
「うん」
「そうか、では次にホブが出たら私が相手しても良いか?」
「わかった。ゴブリンとなんにも変わらないと思うけど、次出たら千尋に任せるよ」
「では千尋の次は俺がホブの相手をしよう!」
「りょーかい。じゃあ進みますか」
慎重になるのは間違ってはいないが、気にしなくても良い事で慎重になり過ぎるとストレスと疲労が溜まってしまいパフォーマンスが低下してしまう。なので気にしなくても良い事は極力ラフに考える。
☆ ☆ ☆
曲がり角からこの先にある広場を観察すると、そこには体長が2mを超え、筋骨隆々でガタイの良いゴブリンのようなモンスターが居た。
そのモンスターの後ろには扉がある。
恐らくここが終点だろう
あのデカい奴がこのダンジョンの階層守護者なのだと思う。
鑑定を行うが全て?で表示されたので、隠蔽も付与されているのも確定した。
「ベルに相談するぞ。一旦下がろう」
ベルに相談する為にかなり後方へ引き返した。
『ベル!大きさが2m超えた筋骨隆々のゴブリンが居たんだけど、何者?』
『はいマスター!2m越えの筋骨隆々なゴブリンならマッシブゴブリンですね!一応ユニーク個体ですね!』
『……ゴブリンキングとかじゃ無いのか?』
『はいマスター!ゴブリンキングも巨体ですが、ぶよぶよに太ったモンスターなので違いますね!』
『……りょーかい。俺達でも勝てるか?』
『はい!マスターお一人でも余裕で勝てると思います!ちーちゃんなら瞬殺でしょう!』
『ありがとう……扉があったからもうすぐ攻略出来ると思うから、また連絡するよ』
『はい!ではまた!』
期待を裏切られた。
俺の中ではあの筋骨隆々なゴブリンはアニメやゲームでも定番のゴブリンキングだと思い込んでいた。
「俺の期待を裏切った事を後悔させちゃるけんなぁ!」
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