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夢を追うもの笑うもの1

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 人にとって夢とはなんだろう。
 いつか叶えたい目標だろうか。
 それとも願望そのものだろうか。
 はたまた叶わないものの例えだろうか。
 人によって夢というのは意味や形は違う。
 
 少し前までの俺にとっての夢は叶わないものであり、願望や欲望に近いものだったと思う。けど今は俺自身を動かす為の原動力になっている気がする。
 夢を語れば無理だと言われ、夢を追いかければ笑われる。そんな世の中の風潮に流され、染められ、それが当たり前になっていつか俺も夢を追う人を笑う時が来るのが怖かった。自分自身が夢を早々に諦めたからこそ、夢という名の目標に進んでいる人を応援したい。
 全ての人が夢限の可能性を秘めているのだから。


 ☆ ☆ ☆


 千尋が英美里を超えてざんねん会と祝勝会を終えた翌日。
 俺達は事前に準備していた政府や超常現象対策本部、通称PCHも把握していないダンジョンの攻略に向かっている。
 俺自身は怠惰ダンジョンからは出られないのでアバターを大きなカバンに入れて千尋に持って行って貰っている。ダンジョン外ではアバターの操作は出来ないが、アバター自体は問題なく存在させる事が可能なので力技も良いところだがこうでもしないと俺は他ダンジョンには行く事が出来ない。どうにか解決策をベル達と考えているのだが、今の所上手くいっていない。

 純の父の博信さんと千尋の父の一馬さんの協力により俺達が確保したダンジョンは九重連山で発見されており、同県内であるので仮称九重ダンジョンまでは車で向かっている。
 スキー場からは少し離れた場所で発見され、博信さんと一馬さんの働きかけにより町役場に報告された情報をお上に挙げる事無く留めていた場所だ。地方ならではのアナログな方法での情報規制ではあるが、今の所お上にはバレていない。持つべきものはやはり権力なのだなと痛感した。

『同県内とはいえ、流石に遠いな』
 一馬さんが運転する車中で千尋と純が俺にちょくちょく念話を繋いでくれている。
『そうだね!でも私はドライブデートみたいで楽しいよ?上まで行ったら景色も綺麗なんだろうなぁ!くふふ!楽しいね!千尋ちゃん!』
『デートにしては俺の扱いが雑過ぎる上に、俺は念話でしか情報が得られないんだが……』
『もうすぐ着く筈だから今は念話で我慢してくれ』
『りょーかい……着いたらまた連絡してくれ』

 念話を一度切って、ゲームの続きをする。
 俺のアバターは一目に着くと色々とヤバいのでカバンの中に収められたままだ。もし仮に警察に止められでもしたら一大事ではあるが、その時は千尋がカバンを担いで全力で走って逃げる算段になっている。

 今回、一馬さんが同行しているのは一馬さんにもダンジョン攻略者になってもらう予定だからだ。一馬さんがダンジョン攻略者になっても今回は公表はしない、あくまでも今回の攻略者は千尋という事にする予定になっている。
 世界初のダンジョン攻略者の称号は俺達の今後の活動では必須なので致し方ない。

「初めての他ダンジョン攻略……上手くいけば良いけど」

 多少の不安はあるが、俺達が揃っていれば他ダンジョンで遅れを取るとは思っていない。千尋のレベルは現在90、俺が80、純も80でかなりの高レベルだと言えるだろう。現状分かっている情報では馬鹿でレベル20前後らしいので恐らく世界最高レベルだと思う。
 中には俺達よりもレベルが上の存在が居るのかもしれないが、雲隠れをしているのであれば居ないのと同じだ。

「バックアップ体制も万全……各種SNSも既に開設済み、冒険者協会の人員も最低限確保出来ている……あと必要な物ってあるかな?」

 俺が考えた所で何も思い浮かばない事は分かってはいるが、あれこれ考えてしまう。どれだけ準備を整えていようとも新しい事に挑戦する場合、不安というのはどうしてもつき纏う。

 世界に向けて一世一代の大勝負をする。
 人造英雄ではあるがそんな事を知っているのは俺達と地元の一部の協力者だけだ。
 文句があるなら実績で黙らせれば良い。
 実力行使されたのなら徹底抗戦するだけ。
 舞台は全て整った。
 今日、世界に英雄が誕生する。
 変わった世界で初めてのダンジョン攻略という偉業を成し遂げる英雄が。


 ☆ ☆ ☆


『着いたぞ、見た目はただの洞窟のようだがな』

 千尋から現場到着の連絡が入った。

『じゃあ早速、俺のアバターを洞窟内に置いてくれ。先行偵察は俺の仕事だ』
 俺の役割は先行偵察だ。
 俺はアバターなので最悪死んだとしても俺自身の命が脅かされる事は無い。俺が先行して危険を排除すれば、同行者の生存率も格段に上がる。

『置いたぞ』
『ありがとう。早速アバターの操作を開始するよ』

 自室で一人アバターの操作を開始した。
 先ほどまではいくら操作しようとしても反応が無かったアバターが普段と同じように操作が可能になった。
 横たわっているアバターの体を起こして周囲を確認する。
「問題無く動けるな……千尋、純、一馬さん!お待たせ!」

 洞窟の外から俺を見ていた3人に声を掛ける。

「拓美!どうだ?問題は無いか?」
「俺は問題ないけど……一馬さんこそそんな装備で大丈夫?」
「あぁ!問題ない!大丈夫だ!」
 一馬さんの装いは何故か甲冑姿だった。
 兜には月輪の装飾があるので恐らく立花宗茂の使っていたと言われている甲冑のレプリカか何かだろう。レプリカなので防御面では何の期待も出来ない上に、甲冑というあまりにも動きづらい装いに不安しかない。正直この人はダンジョンを舐めてると思う。

「……まぁ良いか。千尋と純は……普通だな」
「ただのスポーツウェアだからな」
「動きやすい恰好が一番!」

 色違いのお揃いにしたのだろうか黒いウェアの千尋と青いウェアの純。純はともかくとして、我が嫁ながら千尋の破壊力は凄まじい物がある。スポーティな装いは確かに千尋に似合っているのだが、はち切れないか旦那としては不安である。

「とにかく命大事に、俺より前に出ない、俺が死にそうでも無視して撤退、何か異変があれば些細な違和感でも逐一報告、出し惜しみは無し、接敵しても基本は観察してから交戦、では!行きますか!」

「おぅ!」
「あぁ!」
「くふ!」


 浮足立っているのが分かる。
 大人気も無くワクワクしている自分が居る。
 今から俺は夢にまで見た、ダンジョンに挑むのだ。
 まるで童心に帰ったかのような高揚感。
 冷静にならなければと思うのだが、まるで上手くいかない。
 俺が冷静でなければ皆の命に関わるのだと何度も言い聞かせながら、周囲を確認しつつ洞窟型のダンジョンの中を進んで行った。


 ☆ ☆ ☆


「止まれ、敵影発見、ゴブリン、2……他無し、突っ込む!」

 仮称九重ダンジョンを進んでいたが中々どうしてモンスターには出会う事無く歩き続け、10分程進んだ所で初めてのモンスターに遭遇する事が出来た。この広さからして恐らくだが、モンスターの生成よりもダンジョン自体の規模を大きくしていたと思われる。ゆっくりと確実に成長する為に。 

「敵、排除確認……周辺異常無し、ゴブリンか……初めてスライム意外のモンスターを倒したけど罪悪感も、気持ち悪さも何も感じないな……死体が残らないのが影響してんのかもな」

 良くアニメやゲームで初めて魔物やモンスターを殺した場合に不快感や気持ち悪さ、罪悪感を感じるキャラクターが描かれているが俺にはそんなものは感じられなかった。

「槍で一突き!連続で2体も!凄い凄い!というかいつの間にあんな動き覚えたの?恰好良かったよ!」
「前とは違う動きだったな、確かに今の方が恰好良いぞ」
「がはは!やるじゃねぇか拓美!」

 褒められたことが素直に嬉しい。ベルと一緒に頑張った甲斐があるというものだ。

「皆は気持ち悪いとか、そういうの無い?大丈夫?」
「私とお父さんは狩猟経験もあるからな、全く何も問題ない」
「だな!」
「私も今の所は大丈夫!自分の手で倒した時が少し心配かなぁ……ゴブリンって一応人型だしね」

「じゃあ……次ゴブリンが居たら純に任せても良いか?」
「りょーかい!」

 怠惰ダンジョンで事前にゴブリンの討伐をしようと思えば出来た、だが俺達は敢えてしていない。ぶっつけ本番でどう動くか、どう動けるかが知りたかった。結果次第では今後の活動にも影響があるからだ。モンスターを殺すという事が過度なストレスになるのであればダンジョン攻略はさせられないし、計画の見直しも必要になる。怠惰ダンジョンで試した所でそこまでは分からないだろうというのが俺達の総意だった。
 生き物を殺す事への忌避観や嫌悪感に関して言えば、ダンジョン内であれば今の所俺は問題ない。
 千尋と一馬さんもたぶん大丈夫な気がする。
 ただ純はまだ分からない。

「良し!じゃあそういう事で、先に進もう」
 再び先へと進む俺達。
 この先何が待っているのか、無事にダンジョンを攻略出来るのか。





























「止まれ、敵影発見、ゴブリン4……他無し、一人一匹、行けるか?」
「あぁ」
「うん!」
「おぅ」
「俺が一番奥、その手前を千尋と一馬さん左右は各々で決めてくれ、一番手前を純、3,2,1,GO!」
 これで全員がゴブリンの初討伐を達成した。




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