67 / 155
英雄も事件が無ければただの人24
しおりを挟む一馬さんと雅さんが初日という事もあり想定よりも長い時間朝稽古を行ってしまったので、一馬さんと雅さんも誘って昼食を食べた。エルフ米は雅さんの口にも合うようで絶賛してくれたのでお土産としてエルフ米を2袋分プレゼントした。
米袋の重さは一袋で大体30kg程あるのだが、雅さんが2袋を同時に抱えて、嬉々として車に積み込んでいる様は少しシュールだった。今日だけでレベルが15まで上昇した事により可能な事ではあるのだが、細身の女性が60kg程の物を嬉しそうに運ぶ姿は何とも言えない感情になる。
千尋と俺で運転席に乗り込んだ一馬さんと助手席で満足げな顔をした雅さんに別れの挨拶と見送りをする。
「じゃあ、また明日。気を付けて帰ってな」
「お父さん、お母さん、もう良い年なんだから……明日からは今日みたいにはしゃがないでね?バイバイ」
「そうね……あんまり無理しない程度に頑張るわ!たっくん!お米ありがとうね!じゃあまた明日!」
「拓美!精進しろよ!じゃあな!」
千尋家の大きな車が出発し、俺達は軽く手を振りながら車が見えなくなるまで玄関前に佇んだ。
「さて……午後からは純のダンジョン攻略だな」
「あぁ、だが純先輩もアバター関連のスキルは取得出来ない可能性の方が高い……私の剣精系スキルと一緒で何か強力なスキルがあれば良いんだがな」
「まぁ……最悪先輩には魔法があるからな」
純は武器を使っての近接戦闘は俺以下なので、取得可能になるスキルは出来れば戦闘に役立つスキルの方が喜ばしい。だがそうで無かったとしてもあまり問題にはならない程には魔法適正は高いのでダンジョン攻略では戦闘もこなせる筈だ。
☆ ☆ ☆
俺達は千尋が攻略した株分けダンジョン跡地に来ていた。
株分けダンジョンは攻略された事で機能を失い、その場所はベルによって再び株分けされてダンジョン化している。
「純!心の準備は良いか?今日は検証は無しだから、そのままコアに触れれば良いからな」
「おっけーおっけー!じゃあいくよー!えいっ!」
俺と千尋の時と同様に純がダンジョンコアに触れた瞬間ダンジョンコアは砕け散り、その破片は純の体に吸い込まれるように消えていった。
数瞬の間を置いてから純が口を開いた。
「……良し!G-SHOPも確認出来たし!帰ろう!」
なんとも緊張感の無い純の姿に軽く呆れながらも俺達は我が家へと無事に帰還を果たした。
帰宅後、皆が一番気になっている純のG-SHOPで取得可能なスキルについて説明を受ける事になった。
最近ではすっかり我が家に馴染んだ面々と居間で純からの説明を待つ。
「ふむふむ」
暫く中空を眺めている純を見ながら英美里の入れてくれたコーヒーを飲みながら待っていると、確認を終えたのかようやく純が口を開いた。
「結論から言うね!やっぱりアバター関連スキルは無し!代わりに、拓美君と千尋ちゃんと似たような特殊スキルが1つ!後は誰でも取得出来そうな一般スキルが沢山って感じだね!」
「特殊スキルと一般スキルか……なるほど」
今までスキルを区分する単語が無かったので妙にしっくりとくる説明だった。
「それで、純先輩の特殊スキルとはなんなんだ?」
「それはとりあえず見て貰おうかな!ここじゃ危ないかもしれないから地下広場でお披露目するよ!皆の者、着いて参れ!くふふふふっ!」
笑いながら一人で歩いて行く純に置いて行かれないように俺達もその後を追う。
「テンション高いなぁ……よっぽど良いスキルだったのか?」
「さぁ……」
☆ ☆ ☆
純に遅れて地下広場へと向かった俺達はスポナーの前で待っている純の元へと向かった。
「くふっ!来たね!じゃあ英美里、スライムをお願い!念の為に弱い奴で!」
「畏まりました。では!いきます!」
スライムが生成されるというもはや見慣れた光景。
いつものようにレッドスライムが生成されると、純が少し離れた場所から片手を額に当てて顔を覆い隠すようにしながら、もう片手を開いたまま自分の胸の高さで前に突き出した状態で叫ぶ。
「<水龍召喚>出でよ!ブルードラゴン!」
叫び声と共にレッドスライムの前に何かが現れた、叫び声から察するに恐らく純の新スキルは水龍を召喚するスキルのようだ。
「……」
「……」
新スキルにより召喚された水龍を見て皆が声を失い、ただただ水龍を見つめる。誰もが目を奪われるだろうその容姿に
召喚した本人さえも言葉を発する事が出来ない。水龍は皆が見守る中、空中に浮いたままスライムに向かって行く。見た目は正に龍そのものだ、色は全体的に蒼い。快晴の空のように綺麗な蒼色の鱗を纏う一匹の龍。蛇のような細長い胴体と前後で合計4本の手足、長く悠然とたなびく髭。威厳と畏怖を感じさせる顔つきだがどこか憎めない可愛らしい顔にも見えるのは召喚主が純という事も関係しているのかもしれない。
辺りに漂う重苦しい空気。
水龍はスライムという敵を目の前にしながら泰然自若としており、スライムに格の違いを分からせるかのようにゆっくりと近付いて行く。
どれ程の時間が経ったのか。水龍の放つ重圧のせいで体感時間と現実時間が乖離しているかのような感覚。それはまるで水の中でゆっくりと死を待つかのように重く苦しい。
俺が黙って水龍を見守っていると、不意に両隣に居たベルと千尋が肘で俺の事を突いてくる。
ここで俺が大きな声を出して水龍の邪魔をするわけにもいかないので純と水龍には聞こえないように小声で話す。
「なんだ、今良い所だぞ。静かに見守ろうぜ」
「いや……まぁ、うん」
珍しく歯切れの悪い千尋に困惑してしまう。
「マスター。このままでは純にゃんが水龍の重圧に耐えられないかもしれません。顔もあんなに赤くなって……必死で耐えているんだと思います」
ベルも水龍からは決して目を離さずに何時になく真剣な声音で語り掛けてくる
「そうか……じゃあ仕方ないな。ちょっと純の所に行ってくる」
コワイ。
だが俺は勇気を振りしぼってゆっくりと純に近づいて行った。
「純……その、なんだ……ドンマイ!これからこれから!頑張って行こうぜ!なっ!」
「……うん」
羞恥心なのか、それとも俺の優しい言葉に胸を打たれたのか赤い顔をした純は微かに頷いた。
水龍も俺のアバターや千尋の剣精と同じように、成長型のスキルという事が分かったので収穫はあったのだ。
例え水龍のサイズが猫程しか無かったとしても。
0
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~
昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。
だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。
そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。
これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる