66 / 155
英雄も事件が無ければただの人23
しおりを挟むベル以外は朝食を終えてコーヒーブレイクしていると、遠くの方から車のエンジン音が近づいてきている事に気付いた。何か異常事態が起きていない限りは一馬さんと雅さんが朝稽古の為に来たんだと思う。未だ朝食を食べ続けるベルの方を軽く確認するが何も反応は無い。
「おじさんとおばさんが来たみたいだな……指導というか説明は千尋に頼んで良いか?」
「あぁ、任せておけ。といっても英美里が着いている以上は何も問題無いだろうがな、一応ルールと注意事項だけは説明しておくよ」
俺達が日々のレベリングで使用しているスライムランダムスポナーは現在2つで、魔力を使用してのスライム生成作業は魔力を簡易的に補充出来る英美里が主に行っている。エルフルズにも少しだけ手伝って貰っているのだが、彼女らには農業というメインの仕事が有るのであまり無理はさせられない。
「ありがとう。それと今後おじさんとおばさんが朝稽古に参加するんであれば、スポナーの数を増やさないと効率が悪くなりそうなのが問題だよなぁ……でもスポナーを増やせば今度は、魔力の供給が追い付かなくなりそうだし……ベル!何か良いアイディア無いか?」
美味しそうにご飯を食べている最中のベルに何か解決策が無いかを聞いてみる。
「ふぁいマフター!」
「口の中の物を飲み込んでから喋りなさい!」
俺はそこまで気にしないのだが、千尋に軽く叱られたベルは数度頷きながら嚥下していく。
「……はい!マスター!現状ではDPに余裕が無いのですが、インテリジェンスデビルを生成出来れば魔力問題は概ね解決すると思います!流石に名持ちの英美里、美帆、には劣るかとは思いますが魔力は豊富な種族なのでスポナー1つ分であれば賄えると思います!ただ、英美里のように魔力を容易に回復する術が無いので最初は午前中だけの運用の方が良いと思います!」
「じゃあ、暫くはこのままって事か……一馬さんがどれだけハッスルするか次第だな。千尋、おじさんがハッスルしそうになったら施設が本稼働出来るまでは、朝稽古だけにするようにって止めるの手伝ってくれよ?」
俺が言っただけでは止まらない可能性もあるので念の為に愛娘である千尋にも協力を要請しておく。
「わかってる。お父さんが武に関する事になると途端に脳筋になるのは理解しているからな……暴走しかけたら殴ってでも止めるから安心してくれ」
一馬さんならば勝手に自分の魔力を使ってスライムを生成しかねないので一人では地下広場へ行かないように注意しとなければならないだろう。レベルも低く、魔力も少ない状態でスポナーを起動すれば下手すれば死んでしまう、元々ランダムスライムスポナー自体が罠の一種だという事を忘れてはいけない。
一馬さんの対策を話していたら、一台の車が我が家の前で止まった。
「おじさん達も到着したみたいだし、お出迎えと挨拶したら朝稽古始めようか」
「あぁ」
「ほーい」
「はい!」
各々が返事を返す中、ベルだけは頷きを返すだけに留まった。
ベルを居間に残して皆で玄関へと向かう。
玄関に向かう途中でインターホンが鳴った。
「はーい、今開けまーす!」
玄関の戸を開けると、一馬さんと雅さんが並んで立っていた。二人とも剣道着を着ていて、二人とも手には細長い形状のジュラルミンケースを持っている。
「本日より!こちらで朝稽古をさせて頂きます!佐々木一馬と!」
「佐々木雅です」
「「よろしくお願い致します!」」
朝っぱらからとてつもない声量で挨拶をしてきたおじさんに思わず面食らってしまい、返事が遅れた。
「っと……えー、こちらこそよろしくお願いします」
「「お願いします!」」
「良し!挨拶も終わった事だ!早速稽古場へ連れて行ってくれ!」
「勝手な主人ですみません……」
「あ、はい」
「はぁ……お父さん、お母さん。おはよう、取り合えず上がって私に着いてきて。それと靴は持ってきてね、地下広場に着いたら土足だから」
「おぅ!おはよう!案内頼むぞ!千尋!」
「おはよう。皆様もおはようございます。お邪魔致します」
千尋の先導で転移門の置いてある部屋へと向かって行く佐々木家一同。置いてけぼりの俺達。
「純はおじさんに会った事あるんだっけ?」
「あるけど……前に会った時はもう少し寡黙で厳格な感じの人だと思ってたかな……」
「まぁ……武芸が絡むとあんな感じなんだよ。特に今日は一段とテンション高めだけど……」
一馬さんのテンションが高いのは今日まで怠惰ダンジョンでの稽古がお預け状態だったからに違いないだろう。
「そっかぁ……私達も行こうか」
「純も自分よりもハイテンションな人と接すると物静かになるんだな」
「まぁねぇ……何かエネルギーを吸い取られたような感じ?」
「あぁ……なるほどな」
有体に言ってしまえば精神が疲労した。
地下広場へと先に向かった佐々木家一同の後を追いかけるように地下平場へと向かった。
地下広場に着くと一馬さんと雅さんがジュラルミンケースから刀を取り出して軽く素振りしている、恐らく準備運動も兼ねているのだろう。
俺も槍を取り出して合流する。
「お待たせ。準備運動が終わったら、千尋と英美里からスポナーの説明と注意事項を教えて貰ってね」
「おう!準備は出来てるぞ!千尋!説明を頼む!」
「えぇ、来る前に軽くだけど体を動かしてきてるから。私達はいつでも良いわよ」
一馬さんは余程待ちきれないのか、急かすように千尋に説明を頼んでいた。
「じゃあ説明するわね」
☆ ☆ ☆
「良し!分かった!早速スライムとやらを生成してくれ!」
「はぁ……英美里!お願い!」
「では!いきます!」
英美里が掛け声と同時にスポナーへと触れた、最近ではめっきり見る事の無くなったブルースライムが生成された。
「良しきた!チェストォォォオオ!」
掛け声と共に振るわれた上段からのシンプルな切り下ろし。年齢を感じさせない鋭い剣閃は見事の一言だった。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ……次!」
「次!いきます!」
その後も次々とスライムを切り伏せていった一馬さん。
「ありがとうございました!」
連続でスライム切りを行ったので流石に疲労したのか、それとも他の人達の鍛錬の為に気を使ったのか英美里に礼をしてから後方で待機していた俺達の元へと戻ってきた。
「拓美!これは良い鍛錬になるな!がっははははは!次は雅の番だな!行ってこい!」
「はい」
一馬さんに促されて雅さんが英美里の元へと歩いて行った。
「拓美!スライム以外は居ないのか?」
「居ないよ」
「そうか……」
「それより、雅さんがスライム狩り始めるよ。見てあげないと」
「そうだな!」
一馬さんとの会話もそこそこに雅さんのスライム狩りを見守る。
「よろしくお願い致します」
「では!いきます!」
おじさんとは違い、刀ではなく木刀を手にしている雅さん。たぶん千尋から借りたんだろう。
やはり千尋の母なだけはあるようで、立ち姿は千尋によく似ている。
英美里によりグリーンスライムが生成されるとスライムを観察するように少し離れた距離で止まっている。数秒の間を置いてから一歩大きく踏み込んだ。
「やぁぁあ!」
甲高い叫びと共に、横一閃。
見事に核を捉えてスライムを討伐出来た。
「ありがとうございました」
一礼してからこちらへと戻ってくる。
「お疲れ様です。どうでした?」
「えぇ!とても楽しいわ!これでレベルも上げられるなんて最高ね!ありがとう、たっくん!」
その後はリーダーにも来てもらって二手に別れてスライム狩りを行い、昼前まで朝稽古は続けられた。
待ち時間で模擬戦もしていたのだが、俺が一馬さんに負ける事は一度も無かった。決して圧勝では無かったのだがやはりレベル差というのは凄まじい物がある、それは俺が一馬さんに勝てている時点で明白だろう。
「がっははは!後十日もあれば拓美には勝てそうだな!」
「いや、三日もあれば充分な気がしますけど……」
やはり俺には剣の才能は無いのだ。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる