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英雄も事件が無ければただの人15
しおりを挟む人間を人間たらしめる理由として理性というものがある。
他の動物とは違って人間には高い知能と技術があり、この現代社会を形成するにあたって重要な部分を担っているのは間違いなく理性である。
理性が無ければ法や常識を守る事が出来ない、そうなれば治安は悪化し世界は暴力渦巻く血を血で洗う世紀末になるのは間違いない。
だが全ての暴力が悪いという事では無く、暴力を理性無く振るうのが駄目なんだと俺は思うのだ。国というコミュニティを守る上で武力という名の暴力は必要だし平和というのは暴力の上に理性という殻を被る事で成り立っているのは間違いないのだから。
これは男女間でも言える事で、基本的には女性よりも男性の方が力も強いので世の男性というのは理性を持って自分の野生を包み隠して生活している。そうしなければ男女が混じり合いながら生活を送る事は出来ない、中にはその野生を隠さずに生活を送っている者も居るがそういう奴らは総じてクズばかりだ。だが一部の女性からすればその野生的な姿に魅力を感じる人も居るのも事実であり、一定の需要というのも存在する。
だから俺は理性無き不良という者が嫌いなのだ。
そしてその不良に魅力を感じている女性も嫌いだ。
理性を隠して押し殺して生活しているのが馬鹿らしく感じるからだ。不良が理性も無く好きに振る舞うのは構わないが反撃に移ることも無くただただ理性を持って耐え続けている人間が馬鹿を見るこの世の中は間違っていると俺は思う。
虐めというのがこの世から無くならないのは虐めている側には理性が無く虐められている側には理性が有るからだと思う。そしてそういう奴らに下される制裁があまりにも理性的であるが故に何年経っても虐めというのが教育の場から無くならない、子供は大人とは違って自分で自分の身を守る手段が極端に少ないのだ。大人であればある程度金銭に余裕があれば会社で虐められていたとしても辞めるという選択肢があるが、日本の学生には引き籠りや中退という行為自体に壁があるので逃げる事も出来ないで居る者も多いと思う。これは日本の教育システム自体の欠陥としか思えないし、それを積極的に改善するような動きも見られない。
良くも悪くも日本人は働き者が多すぎるのだ。
それは行動では無く思考の面でだ。
働かない者は悪。
学校に行かない者も悪。
そうする事でしか自分自身を守る事が出来ない者だって中には存在する。そうする事が出来ずに虐めが苦で苦しむ者や中には自らの手で命を捨てる者も居る。
働きたくないというのは至極当然の事で楽をしたいからという事で人類は発展してきたのだ。だから学校に行きたくないのであれば行かなくても良いのだ、変わりに何か他の事でお金が稼げるのであれば生活は出来るのだから。
そういう日本社会に適合出来なかった人達のセーフティネットとして<冒険者協会>というのは最適だろう。
心の中でいくら思っていても、理性がある内は行動には移せないのだ。
だから俺はベルの誘いに乗る事は無い。
乗るとすれば千尋と純が許可を出した場合だけだろう。
けれど二人がそう簡単に許す筈も無いので俺がベルと一夜を共にする事は無い。
男としては残念だとも思うが、俺は酒さえ飲まなければ理性の塊だという自負があるので今後も二人の妻の許可無く別の誰かと寝るという事は無いだろう。
☆ ☆ ☆
部屋で一人ゲームをしながら考える。
暇すぎてついついゲームをしてしまうのは仕方が無い事だろう。俺にとってはゲームという娯楽自体がレベリングにも繋がるし、俺にとって最高の言い訳が出来る娯楽神の加護というのはとてもありがたい存在だ。
「どうにかして冒険者協会で社会不適合者の救済が出来ればなぁ……」
この場合の社会不適合者というのは不良なんかの理性無き獣では無く、理性を保つがあまりに社会から弾き出された、あるいはそうせざるを得なかった人達の事だ。
「とりあえず最初はネットとかSNS使って宣伝して行くしか無いけど……引き籠りを外に連れ出すのは難しい、だとすればどうすれば良いのか……俺みたいにアバターを使ってレベリング無いしダンジョン攻略が出来れば一番良いんだろうけど……アバターを手に入れるにもダンジョンを攻略して貰わないといけないしなぁ……」
俺自身は怠惰で怠け者な人間ではあるが、周りの人達のおかげで現代社会でも生きてこれた。
仮に俺の周りに家族や千尋、純のような幼馴染や先輩が居なかったらと考えると恐らく俺は現代社会では生きていく事が出来なかっただろう。
だからなのだろうか、俺は社会不適合者にも輝ける場を提供したいと思うのは。これは俺自身が安全圏で何不自由無く過ごせるという余裕があるからこその考えだというのは分かっているし、エゴだと言う事も分かっている。けれど社会不適合者を救済する為のセーフティネットがあまりにも杜撰だったからこそこの国では自ら命を捨てる人が多いのだと思う。
「まぁ最優先は自殺志願者の救済だろうなぁ……引き籠ってるって事は一応は社会からの逃走には成功してるって事だし……千尋と純に相談して何か良い宣伝方法を模索するかなぁ……ネットの広告、テレビの広告、SNSでの情報発信……動画サイトに投稿するにもコンプライアンスがどうだとかで削除される可能性もあるか……いっそのこと動画サイトを一から作ってしまうか……グロさえ避ければ日本でも大丈夫だよな?」
自殺志願者をこの世に留めるというのはとても難しい事だと思う。
けれど自殺を考えて実行する人というのは総じて勇気がある人だと思う。死というのは人間にとって根源的な恐怖である筈なのだ。死というのは全ての人間が避けられない事ではあるのだが、自ら死ぬというのがどれ程の勇気が要るのかは想像を絶するものがある。人生に飽きた、諦めた、という理由で命を捨てる勇気があるのならばダンジョン攻略という命の危険がある行為に対しての忌避観も少ない可能性もある。
そこをうまく使って何かそういう人達が集まるようなキャッチコピーがあれば少しは自殺志願者が減るかもしれない。
「キャッチコピー……<命を捨てたいならダンジョンへ行こう>……流石に物騒か……<捨てる覚悟があるなら私が拾ってやろう>……これは千尋っぽいな……<一発逆転!ベットするのは自分の体だけ!経験経歴不問!人生最大の大勝負をするならダンジョンで!>……純っぽい感じだと胡散臭い求人広告みたいだな……」
キャッチコピーというか誰がどういう風に言うのかが大事な気がする。
誰かが自分の事を見ている、見てくれている。
このメッセージが大事なのかもしれない。
人は孤独では生き辛い生き物だから。
「英雄の言葉は重い筈だから千尋に何か言って貰うのは有りだな……でも千尋の言葉で救える人は希望を持てる人だけな気もするんだよな……そうじゃない捻くれた考えの奴を救うには俺みたいなダメ人間の言葉の方が響くかもな」
前向きな人や輝いてる人が嫌いだったり妬む人は居る。
そういう人には同じ考えや同じ位置にいる人間からの言葉の方が響く場合もある。
だからこそ俺の様なダメ人間の言葉も必要な気がするのだ、全ての人を救うのは無理かもしれないが救える可能性がある人は救いたいと千尋や純なら言うだろう。
俺自身はそこまで救いたいかと言われればそうでは無い。結局自分次第なのだ、それに気付けるかどうかの差でしかないと俺は思う。だから気付かせる機会は増やしたいけど救いたいとまでは思わない。
「とりあえず……純に相談して純パパに冒険者協会の運営サイト作ってもらわないとな!ちーちゃん活動記録とか、純にゃん運営日誌とか!そういうコンテンツ作って嫁の活躍を世に知らしめないと!」
ただただ自慢したい。
俺の嫁が世界を救う。
☆ ☆ ☆
何をするでもなく一日が終わろうとしている。
夕食も終え、部屋に帰り再びゲームをする。
ベルの件は嫁預かりになったので俺が心配する事は無くなった。
千尋と純に却下されたベルの要望だったが、ベルは思っていたよりもあっさりと引き下がった。
千尋と純も今はまだ駄目だという事らしく、そう遠くない未来で俺はベルと一夜を共にする事になりそうだ。俺としてはお嫁ーずが許可してくれるなら文句などありはしない。
むしろ感謝したいぐらいだ、俺だって男なのだからハーレムは男の夢だと常々思っている。
そんな俺も今日は一人寂しく寝る。
千尋も純も冒険者協会が軌道に乗るまでは控えるらしい、仕事熱心で勤勉なのは喜ばしいが俺としてはやはり寂しい。
「結婚ってなんだろうね……」
布団に入りながらそんな事を考えていた。
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