56 / 155
英雄も事件が無ければただの人13
しおりを挟む今日の予定を全て消化して居間で疲弊した精神力を回復する為に千尋の膝枕で癒されながらステータスを開く。
「昨日アバター関連のスキルは全て取り終わったからなぁ……」
G-SHOP 残SP85000
スキル
・槍術 消費SP30000
・魔力操作 消費SP50000
「アバター関連に追加項目は無し、とりあえず取れるだけ取るかなぁ……」
「新しいスキルを取るのか?」
「もうアバター関連で取れるものが無くなったからな、仕方なくって感じではあるけどな」
「そうか……私からすればG-SHOPが使えるだけ羨ましいよ」
未だダンジョンを攻略出来ていない千尋からすればスキルが取れるだけでも羨ましいのだろう。
ベルによって怠惰ダンジョンの株分け作業は順調に進められてはいるが、如何せん消費DPが多いようで株分けはまだ出来ていない。
優先度的には千尋の方が純よりも高い、これは役割が違うので仕方ない事とはいえ千尋を贔屓しているようで少しだけ純には悪いと思っている。
「まぁ……時間はもう少し掛かるけど、確実かつ安全にダンジョン攻略者には成れるからもう少しだけ我慢してくれ」
「わかっているさ。それでも少しだけ焦りがあるのも理解してくれ、国を救う英雄になるというのは存外プレッシャーなんだぞ」
俺の鼻を軽く指先で叩きながら微笑む千尋から、子供を産んだ訳でも無いのに母性を感じてしまった。これではまるで俺が子供みたいで少しだけ恥ずかしくなり顔を横に背けた。
「ふふふ!何だか今とても幸せを感じているよ……良いものだなこういう風にゆっくりとした時間を夫婦二人きりで過ごすというのも」
ヒキニートの旦那が働き者の嫁に膝枕されて甘えているというのは世間体的に見れば相当ヤバイとは思うが、お互いが幸せならそれで良い筈だ。
「……二人っきりでは無いけどね!私も居るし!ベルも英美里も居るんだからね!いちゃいちゃは許すけど、居ない者扱いは流石に看過出来ないよ!私も混ぜろぉ!」
仲間外れにしたつもりは無かったが、今まで空気を読んでいてくれた純も千尋の二人っきり発言には流石に我慢出来なかったようだ。
「じゃあ純は俺の上だな、サイズ的に」
「任せなさぁい!」
ふわりと優しく純が俺の上に抱き着くように寝転がる。
正直に言えば少し苦しいが我慢できない程でも無いのでそのまま純が落ちないように両腕で包み込むように抱き止めた。
「なんだこの背徳感は……だが幸せだ!」
嫁二人に癒されながら英美里が作る夕食を待った。
「いや、重いんだけど……」
千尋は少し不満そうだった。
☆ ☆ ☆
ダンジョン豚を使った生姜焼きを食べて純と一緒に俺の部屋へと向かった。
今日は純と夜を過ごす。
緊張しているのはもうどうしようもない、期待感で胸が一杯なのだから。
今夜俺は純と初めての夜を過ごすのだから。
「まだ寝るには早いし、ゲームでもするか?」
「そうだね……そうしよう……うん……それが良いよ」
俺以上に緊張している純はとても可愛い。
これで俺よりも年上というのが謎だ、人体の神秘という奴なのかもしれない。
「そういえば……昔一緒にやってたカードゲームありますけどやります?デッキは俺の組んでるのしか無いんで、純が使ってたようなコンボ系のデッキは無いですけど」
「うん……うん?昔私に散々負けたあげく、先輩とはもうやりません!と言っていた君がデュエルスターズで私に挑むなんて、拓美君も中々成長したようだね!くふふっ!これは楽しくなってきたね!デッキと余りのカードを少しだけ見せて貰っても良いかい?即席で私好みのデッキを作って昔みたいにまたコテンパンにしてあげるよ!」
俺と純が高校の時にやっていたデュエルスターズというトレーディングカードゲームはシンプルなルールだがそこにカードの効果が複雑に絡み合う事で、シンプルでありながらも読み合い、戦略、運、これらが上手い具合に合わさる事でカードゲームとしての面白さを際立たせている今でも人気のトレーディングカードゲームだ。
オセロ、チェス、将棋でフルボッコにされた俺が唯一純に勝てると思って挑んだのが全ての始まりだった。
最初はお互いに同じスターターと呼ばれる構築済みのデッキで勝負して俺が初めて純に勝利した事は今でも覚えている。
「絶対に負けねぇからな!」
俺が勝てていたのは最初だけだった。
純はいつの間にかカードを揃えてデッキを組んでいて、俺にリベンジマッチを仕掛けてきたのだ。
最初は平等に同じデッキを使っての勝負だったので昔からデュエルスターズをやっていた俺が勝利する事ができたが、それぞれが作成したデッキで勝負をしてからというもの、俺は負け越している。
俺の勝率は良くて二割だろう、つまり八割近く負けていた、そんなに負け越せばそりゃ誰だって勝負したく無くなるさ。
「くふふっ!私の龍脈大噴火デッキが使えないのは少し残念だけど、デッキを組ませて貰えれば私が拓美君に負け越す事は絶対に無い!なんせ頭の出来が違うからね!」
俺に向かって指を差しながら笑う純に軽くイラつきながらも俺のお気に入りのデッキ達から一つ選び手元に置いておく。
「俺だって昔は店舗大会で優勝したこともあるんだからな!」
「それはおめでとう!その大会に私が参加して無くて良かったね!」
純は昔からこうだ。
人を散々煽り散らして判断力の低下を狙ってくるのだ。
こういう盤外戦術も平気で仕掛けてくるのだから侮れない。
「大会に純が参加してたとしても大会の緊張感に飲まれて何も出来なかったと思うけど?」
俺も負けじと煽り返す。
こういうやりとりが正直一番楽しい。
「くふふっ!言ってくれるねぇ!そもそも参加者の八割が小中学生しかいない大会なんて私が出る訳無いんだよね!恥ずかしくて!そんな大会で優勝した事を自慢げに話してるのは、大人としてどうかと思うなぁ」
確かに。
「……返す言葉もありません」
「くふっ!じゃあデッキも完成したし、いざ尋常に勝負だ!」
「泣いても知らないからな!」
「それはこちらのセリフだよ拓美君!」
「「デュエルスタート!」」
この熱き一戦を制したのは純のランデスデッキだった。
「……参りました」
「くふふっ!いやぁ泣かなかっただけマシだね!どんまい!」
時代錯誤のランデスデッキに負けたのが非常に悔しい。
「……今度はコイツで勝負だ!最強のドラゴンデッキで絶対に泣かす!」
「良いだろう!では私はドラゴンに環境を奪われたワイバーンデッキでお相手しよう!」
「「デュエルスタート!」」
☆ ☆ ☆
何度もデッキを作り替えながらお互い色々なデッキで勝負を続けたが勝率は15対5で俺のボロ負けに終わった。
「いやぁ久々にやってみたけど面白いね!拓美君も意外と頑張ってたしね!くふふ!」
「正直勝ち越せるとは思って無かったから結果はどうでも良いんだけど……勝った試合が純が事故った時だけってのが納得いかない」
「くふふ!私に勝つにはまだまだ遠いようだね!さて……もう良い時間だし……そろそろ寝ようか?」
「そうだな……じゃあカード片付けるか」
「うん……楽しかったね」
「あぁ……高校生の時を思い出したよ」
「そうだね……君は昔から変わらないね」
「大分変わってるよお互いな……」
カードを片付けてから二人で床に入る。
電気を暗くして寝る準備は直ぐに整った。
「「……」」
互いの息遣いだけが聞こえる距離。
静かに見つめ合いながら言葉を紡いだ。
「愛してる」
「私も愛してるぞ……旦那様」
静かに夜が始まった。
0
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる