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英雄も事件が無ければただの人12
しおりを挟む大海グループという地元ではこれ以上無い大きな企業の協力を得られる運びとなった。
地元での知名度や資金力もこれで盤石と言えるだろう。
大海博信、佐々木一馬という協力者を仲間に加える事が出来た。これで地元の企業、名士、名家の方々とのコネクションも繋げる事が可能になった。ここからは佐々木千尋という未来の英雄の名前をいかに利用してダンジョン関連で超常現象対策本部と張り合っていくかが今後の大きな課題になるだろう。
公的機関では無く民間の団体でありながら、加護も持たない人でもダンジョンに立ち向かえるという事を証明するのが冒険者協会が為すべき事だ。一人でも多くの一般人を安全にダンジョン攻略者にする事が出来れば<G-SHOP>を利用できる人も増えるという事になる。それはモンスターやダンジョンという脅威に抗える人材が増え、人類共通の敵に怯える事の無い世界が構築出来る筈だ。
「本日はお忙しい中、貴重な時間を我々に割いていただきありがとうございました。これからは良きビジネスパートナーとして同じ目標に向かって協力し合える事を心から感謝致します」
千尋が固い言葉で丁寧に謝辞を述べて今回の話し合いの場を締めようとしていた。
「こちらこそ、とても有意義な時間を過ごさせて貰ったよ。ありがとう千尋君、拓美君。では私は一旦戻って今後の事について息子や部下と相談させて頂くとするよ。冒険者協会が正式に設立するまでの時間を有効に活用して、大海グループの総力を挙げて今回のプロジェクトを成功させる為に必要な下地を整えておくので冒険者協会に関しては安心して任せてください」
純パパもこの場を締めにかかる。
「じゃあお母さんは今日はここに泊っていくは!またねダーリン!明日にでも迎えにきてね!」
純ママは何故かここへ泊まるつもりらしい。
「お母様!今日は駄目です!今日だけは絶対に駄目!だから大人しくお父様とお帰り下さい!」
純ママの背中を押して我が家から追い出すように玄関へと向かう純、今夜の事を考えれば母親が家に泊まる事は避けたいようだ。
申し訳ないが俺自身も同意見なので純に任せて純パパと共に玄関へと向かう。
「どうして駄目なの!お母さんは新しく出来た息子と娘と一緒にお話がしたいだけなのに!純ちゃんはいつからそんなに意地悪になってしまったの?お母さんは悲しいわ!」
「またそんな事言って、意地悪してるのはお母様でしょうが!この性悪女!さっさとこの家から出てけ!何年私がお母様の娘をやってると思ってるの!私達を困らせて楽しんでるだけでしょうが!帰れ帰れ!」
「まぁ!私があなた達困らせたいなんて……酷い事を言うのね!もういいわ!帰ります!行きましょうダーリン!」
「さも私が悪いかのように仕向けるのはやめて!これだから油断ならないのよこの女狐め!拓美君、これがこの女のやり口だから騙されないでね!」
「くふっ!楽しいわね!純ちゃん!拓美君も私みたいな女には気を付けるのよ?じゃあまたね!」
「あっ……はい、ではまた」
「今日はありがとうそして娘を今後ともよろしくお願いするよ。ではまた何かあれば連絡するからね」
純パパが何事も無かったかのように我が家から去っていく。その後を追いかけるように純ママも出て行った。
まるで嵐のような印象を純ママに抱いてしまった。
親子というのはこうも似ているのかと思わせられる。
「純って両親に似てるって良く言われるでしょ?」
「まぁ……付き合いのある人からは言われるね」
さもありなん。
普段喋ってる感じでは決して頭が良さそうとは思わないのだが、時折見せる刀剣の様な鋭さは母親譲りなのだと思う。
☆ ☆ ☆
居間へと戻り英美里の入れてくれたコーヒーを飲みながら一息入れる。
今日は精神的にとても疲れた。
「ふぅ……これでいよいよ冒険者協会が本格的に動く」
「そうだな……ここからは私達が強くなって、各地のダンジョンを攻略しながら人を集めてノウハウを広めて行く事になる。これでまこちゃんの荷を皆で背負える事が可能になった」
「だね!妻として引き籠りニートの旦那様を養っていく為にも頑張ろうね千尋ちゃん!」
事実ではあるが真実では無い純の言葉は俺には結構効く。
「本格的に仕事が無くなりましたね!マスター!」
「仕事なんてしなくても良いならしないに越したことは無いからな、これからは引き籠りニートとして陰ながら働き者の嫁と部下を見守る事にするよ」
仕事なんて出来る人だけが出来るだけをすれば良いのだ。
社会はそれで上手く回っていく。
出来ない人が頑張って仕事をすればいつかは無理が出るものだから。
「仕事をしなくても良いなんて……幸せだなぁ」
☆ ☆ ☆
出来過ぎていると最近は良く考える。
俺に<怠惰>という特異なスキルと<娯楽神の加護>という<怠惰>を十全に扱う為の加護。
世界で初めてのダンジョン攻略、それによって得られたG-SHOPという力と<ダンジョン>という<怠惰>の力が最大限に発揮できる舞台。
意思を持ったダンジョンコアという稀有で優秀で勤勉なベルという相棒。
幼馴染で剣の腕の立つ<剣神の加護>を持ち、俺の嫁になってくれた千尋。
憧れの先輩で俺が長年恋をしていた頭が良い<水神の加護>を持ち、妾でも良いと言って俺の嫁になってくれた純。
権力、コネ、資金、知名度を持っている嫁の両親。
俺の周りには優秀な人が多い。
そして協力してくれる存在。
出来過ぎている。
神様のような存在が用意したかのような都合の良さを感じてしまう。
あまりにも俺に都合の良い展開が世界が変わってから続いている。
正直怖い。
俺の意思に関係なく全てが仕組まれているんじゃないかというような恐怖を感じるのだ。
俺は本当に俺の意思で動いているのだろうか。
神様のような存在に誘導されているのではないか。
答えは出ない。
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