上 下
48 / 155

英雄も事件が無ければただの人5

しおりを挟む

 勘違いは誰にでもある。
 
 それはもう仕方ない事だと割り切って、開き直ってしまった方が上手くいく事も往々にしてある。
 結局はその後のリカバリー次第だと俺は思うのだ。
 ストレス社会で生き残る為には自分の精神状態を保つのが何よりも重要だから。


「まぁ良いか……そんなことよりベルさんや……インテリ悪魔とドワーフはいつになったら生成出来るんだい?」

 場の空気が悪そうであれば話題を変える。
 簡単な事ではあるが、信頼関係が無ければ成立しないし、空気が読めてないと思われる事もあるので多用は禁物だ。

「はい!マスター!現在我々の最優先事項はちーちゃん世界最強計画と純にゃんアイドルにゃん計画の二つになっていますので件の計画完了後になります!」

 いつのまにか新しい計画が発足していた。
 純にゃんアイドルにゃん計画と言われても何も分からない、しかも下積みも何も無い状態の三十路前の女性がアイドルになれる程アイドル業界は甘くは無いだろう。

「いや、アイドルはちょっとなぁ……いくら見た目が若くても今からじゃ厳しいんじゃないか?」

 女性に年齢の話はタブーだと一般的に言われているが、実際に年齢関係の話題で本気で不機嫌になるような人と出会った事が無いので、半ば都市伝説や空気を読んで言っているだけだと俺は思う。

「問題ありません、マスター。純にゃんの計画の肝は<美容>ですから、ターゲットは女性になりますので。元から年齢よりも若々しい見た目の純にゃんの若さの秘訣はダンジョン由来の素材で作る<ポーション>を使っているからだと宣伝して、世の女性にダンジョンは美容に役立つ資源が眠っているという事をアピールするのが純にゃんアイドルにゃん計画の主な目的になりますから!」

 嬉しそうに語るベル。

 純の見た目の若さは持って生まれたものが大きいんじゃないかと思いながらも、影では並々ならぬ努力をしている筈だ。

「それでその計画の意図はなんだ?」
 問題は計画を実行する狙いはなんなのか。
 それが俺にはわからない。

「はい!マスター!この計画の意図する所は、一般大衆に<ダンジョン>の存在を受け入れて貰う為の土台作りです!このまま時が進めばダンジョンというのは今よりも身近な物になっていきます。それは危険もより身近になるという事に他なりませんのでダンジョンを恐れ、受け入れる事が出来ないという事態になれば余計にダンジョンの攻略は難しくなりますからね!そうなってしまうとマスターの大好きなネトゲも出来なくなります!」

 ベルの言わんとする事は分かる。
 ダンジョンをある程度制御出来なければ人類は衰退していくだろうから。
 地球に元から存在している人間よりも優秀な種族が存在しているのは間違いない。
 エルフや鬼人がそうだ。
 なのでダンジョンとなんとか折り合いを付けるか全て攻略しなければ文明が退化、下手すれば滅びる可能性もある。
 だが現実的にす全てのダンジョンを攻略するのは不可能だと思う。
 <怠惰ダンジョン>にしても外部の者に攻略なんてさせるつもりも無いし、俺以外にも特異なスキルを持っていてダンジョンも持っている奴がいるかもしれない。
 そうなれば攻略は長い時間と資源や人材が必要になってくる。
 時間を掛ければ掛ける程、ダンジョン側が有利になっていく事は間違いないだろう。
 ダンジョンは世界中に存在し、数を増やし続けるから。
 永遠と鼬ごっこは終わらない、それこそ世界が滅びない限りは。

「ネトゲとか娯楽が無くなるのだけは避けないとなぁ。要するに受け入れて貰うにはまず女性の支持が必要って事?」

「はい!マスター!少なくとも日本ではそうだと思います!女性の美に関する執着は侮れませんからね!世論を掌握するには女性からの方が早いと思います!安全をちーちゃんが提供して、資源の有用性を純にゃんが提供出来れば日本に関してはダンジョンと共生する基礎は作れる筈です!」

 安全と資源。
 これが両立出来れば世論はダンジョンに目を向ける。
 原発すらも一部の人達に反対されてはいるが、稼働し続けている。
 危険はある、けれど資源はその危険すらも許容させてしまう。
 安全よりも豊かな生活を手放したくない人の方が多いのだからダンジョンも何れは生活の一部に組み込まれるだろう。

「そういう感じの計画だったのか……まぁ俺に出来る事はあんまり無さそうだな」

「はい!マスターは家でゆっくりしているだけで良いですよ!マスターが居れば<怠惰ダンジョン>は無敵だと思いますので!」

「まぁ千尋と純の安全を俺が提供出来れば最良だな、その為にも<冒険者協会>を設立してダンジョン関連のパイオニアにならないとなぁ……」

「はい!マスター!」


 ☆ ☆ ☆


 特にやる事もなくなり、結局部屋に戻ってネトゲを始めようとしていた。
 
「暇があるならネトゲをすれば良いじゃない……ってね」

 ネトゲを起動する間にステータスを見る。

「新しいものは何も無し!うん!分かってた!アバター系を取ろう!」


<アバター>  75000SP

 アバター修復 消費SP1000

 聴覚強化 消費SP15000

 視覚強化 消費SP15000

 触覚強化 消費SP15000

 嗅覚強化 消費SP15000

 身体能力強化 消費SP15000


「丁度75000か……これでアバター修復意外は取れたな……」


 <ダンジョン用アバター 児玉拓美>

・発声機能
・味覚機能
・聴覚強化
・視覚強化
・触覚強化
・嗅覚強化
・身体能力同調
・身体能力強化
・魔力量同調
・魔力量強化
・魔力同調
・魔力強化
・スキル同調
・加護同調
・自動修復

 <スキル>
・念話
・隠蔽

 <加護>
・娯楽神の加護


 これで一応アバター強化関連で取得出来るものは全て取得する事が出来た。

「良し!使えるSPも無くなったしネトゲしよう!」

 多少の達成感を得る事が出来たので、いつも通りネトゲを再開する事にした。

「起動出来ない……緊急メンテだと?」
 いつものように無限迷宮を起動しようにも緊急メンテナンスを行っており、ログインする事が出来なかった。

「まぁ仕方ないか……久々にドラゴンエナジーでもやろうかなぁ……」
 最近はプレイしていなかったネトゲをやろうとアプリを起動するがアップデートに時間が掛かっていた。
 アップデートが終わるまでの間、仕方なくネットサーフィンに勤しむ。

「世界各国でもモンスターとダンジョン発見か……まぁそりゃそうか……日本も新たに6つのダンジョンが発見されたのか……北海道、岩手、群馬、岐阜、島根、徳島か……まだどこも攻略はされて無いか……」

 世界中でかなり多くのダンジョンが発見されてきているようだ。
 発見されたモンスターは全てゴブリン。
 まぁベル曰くこんなに早く発見されるダンジョンはゴブリン運営らしいから、ゴブリンしか見つかっていないのも頷ける。
 現状発見されたダンジョンは洞窟型のみ。
 
「ダンジョン内に入らなければ今の所は安全なんだけど……早速中国はやらかしてるみたいだな……中国で最初に発見されたダンジョンで軍の中隊が100名以上が行方不明……中隊規模でこれは全滅だな……しかし中国のダンジョンはもう取り返しが付かないかもなぁ」

 ダンジョンにおける行方不明者は日本が一番少ないらしいがホントの所は不明。

「へぇ意外だな……行方不明者が一番多いのが中国で次はアメリカで50人か……どの国も封鎖と監視に切り替えたみたいでまだ良かったけど……これは先が思いやられるな」

 ダンジョン内に侵入者が増えれば増える程ダンジョンの特性上育っていくので攻略出来ないのなら無理に侵入しない方が良い。

「結構ヤバイんじゃないかこれ?」

 モンスターに銃器は効きづらいというのも悪い方向に働いてしまっているようなので、今後もダンジョンは大きくなるだろう。
 そうなればもう一旦諦めるしか無いだろう。
 未だに人類でダンジョン攻略者は俺しか居ないというのは非常にマズイが、今は堪えてもらうしかない。
 こちらにも都合があるし、現状まだ千尋と純だけでは攻略は危険だ。
 こちらの準備が整うまでは動くに動けない。
 千尋と純がモンスターと難なく戦えるようになった状態で<怠惰ダンジョン>から株分けしたダンジョンを攻略してG-SHOPを取得してもらうまでは絶対に外部ダンジョンには向かわせられない。


「というか……ドラゴンエナジーもメンテ中かよ……もう良いや、アニメでも見るか……」

 ネトゲをやろうにも緊急メンテ中は何も出来ない。

「アニメでも見よう……」

 ネトゲを諦め、アニメを見る。
 昔流行った元祖リアル系ロボットアニメを見る為にDVDのケースに手を伸ばした。

「ディスク入れて準備はおーけー」

 久々に見返したロボアニメはとても面白い。
















「展開知ってるから……段々眠くなってきたな」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

処理中です...