42 / 155
小さな発見は大きな事件15
しおりを挟む「純。良いんだな?」
「ふふふっ。遠慮はいらないよ、準備は出来てるから。さぁ早く」
「随分と余裕があるみたいだけど、初めてだろ?」
「私はこんな形だが君より年上だぞ。姉さん女房という奴さ、少しぐらい余裕ぶっても良いだろう?それにこれだけ焦らされれば誰だって早くヤってもらいたいものだよ」
「そうかもな……良し!俺も覚悟は決めてますから!じゃあいきますよ?」
「あぁ頼む」
純は怖いのか両目を閉じて何かを祈るように両手を胸の前で組み、その時に備えている。
初体験とは聞いていた。
なので俺を受け入れてもらう為にしっかりと準備を行った。
経験済みの千尋にやり方を教わり、じっくり丁寧に下準備を整えた。
純の体はとても小さい。
身長は140cmあるかどうかといった所だろう。
俺との身長差は頭一つ分はあるだろうか。
出会った時から何も変化が無い容姿。
ここまで変化が無いというのは凄い事だ。
いつまでも若々しく、ともすれば幼いとも言える。
肌もすべすべもちもちで本当に年上なのかと疑ってしまう程だ。
実際<なごみ>で働いている時は、初見のお客様は「お手伝い?偉いね」なんて言ってくる方が多い。
そんな幼い容姿の純。
俺が尊敬し敬愛している人。
俺がこれから一生をかけて責任を果たさなくてはならない人。
「好きだよ」
「ふふふっ!私もだよ!」
「そういうのはもう良いから!早くしろ!」
ふざけていたら千尋に怒られてしまった。
「はい!<鑑定>」
純に隠蔽を解いてもらい鑑定を行った。
「なるほど……並行処理……これは俺も欲しいな」
「とりあえず、詳細を説明するよ!」
末永 純 LV7
スキル 並行処理/念話/隠蔽
加護 水神の加護
・並行処理 同時に複数の作業、思考を行う際に能力値上昇、効果上昇
<水神の加護>
・鑑定(鑑定対象の情報が分かる)
・同類言語理解(同類の言語が理解出来る)
・アイテムボックス(自身に所有権のある物を収納出来る)
・水神の守護(水を扱っている場合、経験値を取得し、能力値、成長値上昇効果)
「と、こういう感じだね!レベルも中々高いだろう?」
自慢気に胸を張るが、エルフルズの足元にも及ばない小山を見せつけてくる。
「LVは7か……これってやっぱりそういうことなのか?」
「少なくともこれで可能性は上がったな」
千尋の立てた推測の信憑性が更に上がった。
「まぁ、まだサンプルが3件しか無いから何とも言えないけど……ほぼ間違いない気がするなぁ……そうなると<超常現象対策本部>主導のダンジョン攻略はかなり時間がかかりそうだな」
「あぁ、このままでは何れ世界はモンスターで溢れ返るだろうな……まぁその為に私が居る、純先輩もな。」
レベルアップの恩恵というのは非常に大きい。
実際に俺と千尋は自らの体で体感している。
レベルが低ければダンジョン攻略など不可能だ。
しかしレベルを上げるには<神の加護>や<怠惰>等の特殊な経験値取得方法をもたない場合、モンスターを討伐するしかない。
そして特殊な経験値取得方法にも欠点が存在する可能性が高まった。
それは一日に1ずつしかレベルが上がらない可能性だ。
これは千尋の経験から推測したものだったが、今回の純のレベルを見た限りではほぼ確実だと思える。
「ただこの推測は……俺には当てはまらないんだよなぁ……」
何故かは分からないが俺には当てはまらない。
実際にレベルが複数ずつ上がっていた。
「考えても答えが出ないものは後回し!私のレベリングをしてくれるんでしょ?行こう!」
純はレベリングしたくて仕方ないらしい。
どうせ考えても分からないのだ、純の言う通りあれこれ考えずにレベリングした方がよっぽど建設的だ。
「それもそうだな!じゃあ……まずはコアルームに向かいますか!」
考えても答えは出そうにない、今の所デメリットも無い。だったら放っておいても良いだろう。なので拓美は考える事を止めた。
☆ ☆ ☆
ちょこちょこと小さい歩幅で歩く純の後ろ姿に癒されながら洞窟にたどり着いた。
メンバーは英美里、千尋、純、俺。
ベルにはコアルームへ先に向かってもらい、エルフルズと番長は仕事に戻ってもらった。
「この洞窟の先が下層階へ繋がっているのか……なんともファンタジーなものだね、ダンジョンというのは……」
「はい、私も初めてここを訪れた時は驚嘆しました」
「だろうね!……この洞窟の時点でかなり不思議だしね!明かりも無いのに見えるなんて凄くファンタジーだよ!こんな面白い事が味わえるなんて、長生きはしてみるものだねぇ」
「純先輩もまだ20代でしょ!年寄りみたいな事言ってると老けますよ?」
「ふふふっ!私は少しぐらい老けたぐらいが丁度良いのさ!なんせこの見た目でもうすぐ三十路だからね!そろそろ大人の色気という物を出していかないと婚約したばかりなのにポイされてしまうよ!ね!旦那様?」
前を歩きながら千尋とお喋りしていた純が頭だけこちらに振り向き、俺に話を振ってくる。
「そんな訳無いでしょ……俺は見た目じゃなくて先輩の中身に惚れてたんですから!」
「くふふ!ありがとう拓美君!けど、ため口はもうやめちゃったのかい?君にしては結構頑張ってたみたいだけどね!ふふっ!」
やはりまだ先輩にため口を使うのに慣れない。
「あぁもう!茶化すな!前向いて歩け!危ないだろ!」
「すまないね!これでも平静を保っていたつもりだったけど、やはり私も喜びを抑え切れていないみたいだ!愛してるぞ!旦那様!」
こうも喜んでくれるなら何故、昔告白した時に断られたのだろうか。
女心が全く分からない。
後学の為に聞いておこう。
「ちなみに、昔なんで俺を振ったんですか?」
「何故だと思う?」
質問を質問で返された。
「わからないから聞いてるんですよ」
「ふふっ!まだまだ伸び代があるみたいで嬉しいよ!」
「いや、教えてくださいよ!……俺、そんなに魅力ありませんでしたか?」
昔の俺は本当に何も持っていなかった。
夢を諦め、才能を恨み、未来に悲観して、自分という存在が疎ましく感じていた。
自分には何も無いと。
誇れるものは家族だけ、天然だが子供の事を最優先にしてくれた優しい母、寡黙だが子供を信頼してくれていた恰好良い父、興味ない振りして一番俺を気遣ってくれた優秀な妹、何故か俺にだけ懐かなかった猫のゆず。
今はもう妹だけになってしまったが、俺が誇れる大切な家族。
自分に期待せず、周りにも期待する事も無くなり。
ただ現実を受け入れ、生きていく為に折り合いをつけながら生きていただけの自分。
そんな自分の事が嫌いな時期もあった。
でもこんな自分も悪くないと、思えるようになったのは先輩に会ってからだと思う。
あぁそうか俺は先輩の誰にも屈しない、周りを気にしない、自分のコンプレックスさえも利用する、そんな強かさに憧れてたんだ。
憧れが尊敬に変わり、尊敬は敬愛に、敬愛は恋愛に。
そうして俺は先輩に恋をしたのか。
思い返せば俺の高校時代の思い出は先輩との思い出ばかりだ。
「いや、拓美君は今も昔も魅力的だよ……現実を受け止めて足掻くでも藻掻くでも無い。自分の事を充分に理解し分析した上で、自分に出来る最大限、最高率を探していた君は私にはとても魅力的に見えていたよ。現実に抗う事無く全てを受け入れて時には曲がりながらも決して折れる事の無い、大樹のような君が私は好きだった。だからこそ私は君を受け入れる事が出来なかった。君を受け入れてしまえば私も足を止めてしまいそうだったから、コーヒーへの愛が冷める気がしていたから」
いつの間にか先輩の横を歩きながら階段を下り、第2階層のトンネルへと到着していた。
トンネルの出口へと歩き続けた、先輩と二人並んで一緒に。
「けれど……都会から帰ってきた君はとてもじゃないが見ていられなかったよ……現実に打ちのめされて絶望していた君を見た時、胸が痛くて、張り裂けそうで。君の家族に何があったのかは知っていた……私はそんな君を救いたかった、力になりたかった、なにより私が君の側に居たいと思った。だから君をバイトに誘ったんだ、私が私の為に。告白しようと何度も思っていたけど、出来なかった……怖かったんだ君との関係が崩れる事が」
トンネルを抜け高原エリアへと足を踏み入れた。
「凄いねここは!……これを君たちは作りあげたのか」
先輩は素直に驚き、まるで少女の様にはしゃいでいた。
スゴイすごいと何度も叫びながら。
「凄いですよね!ここはベルが作りあげたんです!というか<怠惰ダンジョン>の全てをベルが作ってるんです!ベルは俺には勿体ないぐらい優秀なんです!俺の自慢の家族なんです!」
<怠惰ダンジョン>が褒められるとベルが褒められているようでとても嬉しくなる。
本当なら世界中の奴らに自慢したいぐらいだ「どうだ!俺の家族は凄いだろう!」と。
「ふふふ!そういう所だよ!だから私は君が好きなんだ」
そういって先輩は畜舎に向かって走って行った。
去り際に何か言っていたが声が小さすぎて聞き取る事が出来なかった。
「君が私の元を去るのならもう死んでも良いと思ったから私は<超常現象対策本部>に行くと決めたんだぞ……君に私を見て欲しかったから……女心をもう少し学びたまえ」
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?
シトラス=ライス
ファンタジー
漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。
かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。
結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。
途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。
すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」
特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。
さすがは元勇者というべきか。
助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?
一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった……
*本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。
俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜
平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。
都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。
ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。
さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。
こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる