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小さな発見は大きな事件12

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 朝食を食べ終わり食後のコーヒーを楽しみながら、ベルに気になっている事を聞こうと質問する。

「そういえば家畜っていつから飼育するんだ?」

「はい、マスター!もう既に<ダンジョン鶏>を飼育開始していますよ!これで鶏肉と卵については今後購入しなくても大丈夫です!」
 相変わらず仕事が早い、もう鶏の飼育を開始していたとは。

「ちなみにその<ダンジョン鶏>ってのは普通の鶏と何が違うんだ?」
 これから食卓に並ぶであろう食材について興味本位で質問した。

「はい、マスター。特徴としては、普通の鶏よりも少し大きい、強い、成長が早い、卵を産む数が多い、上げる餌次第で成長の仕方に大きく違いが出るといった具合ですね!普通の鶏よりも飼育は簡単ですしダンジョン内であればウィルスで病気になる事も無いのでDPを稼ぐにしても食肉にするにしても簡単、早い、美味しい!最高の家畜ですよ!」
 ベルから熱気が伝わってくるような説明をされた、実際テンションが上がっているのか目がキラキラと輝き、食べる事を想像しているのか口元はだらしなく緩んでいた。

「へぇー早く食べてみたいな」
「はい!明日には食卓に並べられますよ!折角なので明日はチキンパーティを開催しましょう!そうしましょう!牧畜担当の番長にも伝えて準備をしなくてはいけませんね!楽しみですねマスター!」
 肉体を得て<食>というものを知ってからのベルは食欲が凄い、誰よりも食べるし誰よりも食べ物に力を入れている気がする。
 嬉しそうにチキンパーティ開催について語るベルは綺麗で大人の色気を纏った、一目見ただけで恋に落ちそうな程に完璧な容姿なのに子供のような一面も持っていて、とても愛らしく<怠惰ダンジョン>最強であるにも関わらず庇護欲を掻き立てられる。

「そうだな!チキンパーティは俺も楽しみだ!」
 思わず笑顔がこぼれてしまう、ベルの反応を見ていると幸せな気分になる。

「はい!マスター!それと今日中には残りの<鬼人>と<ダンジョン牛><ダンジョン豚>も生成しますね!これが軌道に乗れば<怠惰ダンジョン>で自給自足が可能になります!そうなれば陸は制したといっても過言ではないので、次は魚介類を制していきたいですね!私はマグロという魚が食べてみたいです!」
 どこまでも食に貪欲なベル。
 肉体があるからこその感情。
 ベルがやる気になれば成る程、全員の食事事情がグレードアップするので心なしか皆期待の眼差しでベルを見ていた、特に魚介類と聞いて千尋の目が変わった気がする。
 千尋は魚が好きだ、昔から肉よりも魚を好んでいた記憶がある。

「私は魚介類が大好きなんだ!美味しいマグロが食べられるようになるのなら!是非とも協力したい!」
 魚スキーな千尋が協力すると机から身を乗り出す勢いでベルに話しかける。
「そうなんですね!では、ちーちゃんは出来るだけ多くスライムを狩って素材を集めてください!素材をDPに変換すればする程、マグロに近づきますよ!頑張りましょうね!」
 ベルの言葉で更にやる気が出たのか、それともマグロを想像してなのか満面の笑みを浮かべる千尋。

「では、早速スライム狩りに行ってくる!英美里!行くぞ!」
 立ち上がり英美里に同行するように頼む千尋、現状英美里がランダムスライムスポナーでの生成を担っているので仕方無い。
「もう少しお待ちください、後片付けを終わらせてから行きますので」
 冷静に返されて何を言うでもなく再び席に着いた。
 多少の気まずい空気が流れる。
 空気を換える為にも他の話題を振る。

「そういえば、インテリ悪魔の件ってどうなってんの?」

「はい!マスター!今の所優先順位が高く無いので、後回しですね!ちーちゃん世界最強計画が最重要なので、この計画がある程度達成してからインテリジェンスデビルを生成して、その後ドワーフを生成してから遂に!魔導PCの開発に着手する予定です!マスターと一緒にネトゲが出来るのが楽しみです!」

「そうだな!」


 ☆ ☆ ☆


 朝のスライム狩りも終えて、部屋に戻って何か面白そうなゲームは無いか調べていた。
「うーん……どのゲームも新作は延期ばっかりだし、ネトゲも特に面白そうなのは無いな……」
 世界が変わってからというもの、発売予定だった新作は軒並み延期を発表していた。
 社会情勢的に仕方ないのかも知れないが、ゲーム好きとしては非常に残念だ。

 ネットの海を彷徨っていると携帯が震えだし、着信を知らせてくる。
 画面を見ると<店長>からの着信である事が分かった。

「もしもしお疲れ様です、先輩」
 すぐさま通話を開始する。
「うん、お疲れ様。用事も済んだからいつでも行けるよ!千尋ちゃんにも連絡したんだけど電話に出なくてさ、もしかして一緒に居るのかなと思って」
 今日、先輩には事情を説明してこちら側に引き込む。
 この勧誘が失敗すれば先輩の命に関わる。
 緊張してきた。
「まぁ近くには居ますね、じゃあすぐに迎えに行ってもらうんですけど……どこに行けば良いですか?」
「やっぱり!……じゃあ悪いんだけどお店まで来てくれるかな?今<なごみ>の閉店の準備が大方終わったからさ……お願いね!また後でね!」

 電話が切れた。
 気丈に振る舞ってはいたがやはり店を閉めるというのは色々と考えさせられるのだろう、いつも明るい先輩の声が少しだけ寂しそうな気がした。

『千尋、先輩を迎えに行ってくれるか?』
『あぁわかった、一旦そっちに戻るよ』

「さぁて……どうなるかな……」
 不安、心配、焦燥、ネガティブな感情が湧き出てくる。
 失敗は許されない、失敗=先輩の死。
 そう思って慎重に事を運ばなくてはならない。
 先輩が加護持ちで<超常現象対策本部>に行くとは想像もしていなかった。
 自分の周囲の人が<神の加護>を持ちすぎていて吃驚する。
 この流れからすると、アニメなんかでは美奈も何かしらの加護を持っていてもおかしくない。
 だが美奈なら、仮に加護を所持していたとしてもうまく立ち回れると思うのであまり心配はしていない。

 だが先輩は心配だ、あの人は破天荒のようで困っている人を放っておけないタイプだからだ。
 優しすぎるのだ先輩は。
 困っている人が居てその人を救う力を持っていたとしたら、先輩は無茶をしかねない。
 その無茶で死ぬ事が容易に想像できるのだ。
 主人公を庇って死ぬヒロインのような未来が。
 そんな事は俺が許さない。
 受けた恩を返すまで先輩には生きていてもらわないといけない。

 俺のスキルと加護があれば大勢の人や世界も救う事が出来るのかもしれないが、俺はそこまで愚かじゃない。
 大きすぎる力はそれだけで悪とされてしまう事があるのを知っている。
 他を救う事で発生するリスクと得られるリターンが不釣り合いな事も分かっている。
 だから俺は俺の我儘で助けたい人を助けるし、救いたい世界を救う。
 だから俺自身は世界を救わない。
 なんせ俺は<怠惰>なのだから。



 ☆ ☆ ☆



 千尋が先輩を迎えに行ってからどれぐらい経っただろうか。
 未だに緊張は解れない。
 ベル、英美里、エルフルズ、番長、皆がメイド服に着替えてはしゃいでいる中で俺だけが緊張していた。
 先輩を救う、ともすれば告白もするのだ。
 失敗は許されない。
 告白は失敗したとしても勧誘だけは成功させなければならない。
 世界がどうなろうが知った事ではないし、知らない人が困っていようがどうでも良い。
 俺にはもう守るべき場所も、家族も居るのだ。
 他のことなど然程興味は無い、救う手助けは日本だけで良い。
 それも千尋に任せておけば大丈夫。

 もう何度目かわからないぐらいに落ち着けと自分に言い聞かせる。
 これ程の緊張はここ最近で何度か味わっているが、一向に慣れない。

『今、居城の効果範囲内に入った』
『わかった、ありがとう千尋』
『どう致しまして』

 千尋から念話が入り緊張は更に増していく。
 外から車の走る音が聞こえる。
 こんなに耳が良いとは思っていなかったが、俺の耳は確実に千尋の運転するコンパクトカーの音を捉えていた。
 部屋に戻りアバターを取り出し操作する、本体はそのまま部屋で待機させておく。
 何も起こるとは思わないが、念には念を入れておく。

 家の前で車が止まる。

「まこちゃーん!入るよー!」
 まるで幼き日に遊びにきたような緊張感の無い千尋の声が家中に響き渡る。
「はーい!今行きまーす!」
 メイド達を引き連れて玄関へ向かう。
 玄関の戸を開け、招待客を迎え入れる。
「どうぞ!」

「久しぶりだね!拓美君!早速だけどお邪魔します!」

 あれ、おかしいぞ、もしかして見えて無いのか。
「どぞどぞ遠慮無く、とりあえず居間で話しましょうか!」
 英美里が先導して先輩を居間へと案内する。
「そういえば、拓美君の家に入るのって初めてじゃない?千尋ちゃんの家には何度かお邪魔した事があるけど!」

 なんの疑問も質問も無く、英美里に案内されるがままに席へと着いた先輩。
「紅茶、緑茶、コーヒーが用意できますが」
 ベルがドリンクを先輩に尋ねる。
「アイスコーヒーでお願い致します」
 まるで貴婦人のような笑みで自然に返事を返す先輩。
 何がなんだか分からないが、このままでは作戦が失敗に終わるのでベルに追加で指示を出す。
『ベル、ふざけた返事で返して!』
『はい、マスター!』

 ベルが右手は目の辺りで横ピース、左手は腰に当てるというアイドルのようなポーズを決めた。

「かしこま!」

 時が止まった。
 先輩も若干だが驚いていた。

「ありがとうございます」
 ベルの渾身のおふざけを無視して軽く会釈で返す先輩。
 中々手強い。

 俺と千尋も先輩に対面する形で席に着いた。
 何故か動じない先輩、一つ目の作戦は失敗に終わったようだ。
 相手を動揺させて、主導権をこちらが握った状態で勧誘に入るというシンプルかつ効果的な作戦だったのだが、流石は先輩だ。

「とりあえずコーヒーが来てから話しますね」
「そうね」

 この空き時間で先輩を観察する。
 まずは服装から観察する、上は白のブラウスに黒いロングカーディガンのシンプルな装いで下は動きやすいようにか黒のスキニージーンズ、モノトーン好きな先輩らしい服装で年齢相応に大人の女性を思わせる余裕のある服装だ。

 続いて状態を観察する。
 全体的に落ち着いている雰囲気で緊張した様子も無い。
 知らないメイドを見てもリアクションすら無い。
 これは強敵だ。
 明らかに場慣れしている様子だ。
 だが、俺は先輩を動揺させる秘策がある。
 軽くジャブ程度に一発入れてから主導権を頂く。

 これからあまりにも失礼な発言をするので先に心中で謝罪をしておく。
 すみません先輩、本気で思っている訳では無くこれも先輩を勧誘する為に仕方なく言います。













「先輩ってロリ属性だから、そういう大人っぽい服装あんまり似合わないっすね!」
「大人の女性にそげんこつ言ったらいけんので!私だって気にしちょんのやけん!」
 無事に化けの皮を剥がすことに成功した。




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