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小さな発見は大きな事件5

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 千尋から念話が掛かってきて焦り、誰も居ない筈の部屋を見回してしまう。

『へー!家からでも念話って届くんだ!めちゃくちゃ便利!』
 念話の有用性に気付き喜ぶ千尋の声を聞きながら急いで動画を閉じて身だしなみを整える。
『おう!凄いな!この距離で念話出来るならかなり有用なスキルだよ!』
 心臓はバクバクとうるさいが平静を装いながら無難な返事を返して間を繋ぐ。
『ところでまこちゃんは今何してるの?』
 普通の質問なのに何故か焦る。
『いやなにも特にはしてないかな、まぁ誰も居ないし暇だからネットサーフィンしてる感じかな』
『そうか……今日の事なんだけど、こちらから答えを求めたりはしないから、まこちゃんの中できちんと答えが出た時に教えてくれ。だが私もそれまで待つとは約束出来ない、正直な話をすると両親からも結婚しないのかと言われているし見合いの話もされたよ。いくら晩婚化だとは言っても将来の子供の事を考えるなら早いうちに結婚するに越したことは無い、だから予めまこちゃんには言っておくよ、私は三十路になって結婚してなければ見合いをするからな』

 急速に頭と体が冷えていく、俺も考えて無い訳では無い。
 三十路、男にも女にも大きな節目の大変な時期。
 普通に働いていれば三十路ぐらいになってくると仕事もある程度任されるようになり、責任を負う側にシフトしていく年齢だ。
 仕事と恋愛を天秤にかけるのか、それともどちらも手に入れるのか。
 人それぞれで意見や選択は違うだろうが多くの日本人はこの三十路という時期が近づくと嫌でも考えてしまう、将来の自分のビジョン。
 俺にはビジョンが見えない、仕事はバイトを休業中で恋愛については相手は居るがこんな俺で良いのかと一歩を踏み出せずに居る。
 俺は今でも先輩が好きだ、これは間違いない。
 でも千尋も好きだ、これも間違いではない。
 付き合っても居ない片思いの先輩を追いかけるのか、両想いで今の俺の現状を一番理解していて協力してくれている幼馴染か。
 まるで恋愛シミュレーションゲームのような展開。
 俺は選ぶという事が苦手だ、だけど選ばなければ先には進めない。
 セーブもロードも無いこの現実で俺はどうする事も出来ないでいる、恐いのだ選択する事が、責任を負うのが、俺の人生なのに誰かに選択を委ねて楽になりたいと思う程に。

『わかった。早いうちに俺なりの答えを見つけるから、もう少しだけ時間をくれ千尋』
 ただの時間稼ぎの言葉を吐いた。
 不義理とも取れる俺の言葉。
 だがこれが俺の精一杯の言葉。
 こんなにも俺を想ってくれる人が居る事が嬉しい、だけどその事がとても苦しい。

『言っただろう、約束はしないと。私は答えを強要したい訳じゃ無い。だが現実的に時間は限られている、お前も私も。ただお互い大人になってしまったんだよ良くも悪くもな』

 何故こうなってしまったんだろう、昔の俺だったら悩む事も無く千尋と結婚まではいかなくとも付き合うまでには至っていただろう。
 何故だろう千尋と会話しながら先輩の事を考えてしまうのは。

『わかってるよ』
『なら良い、こんな事言いたくは無かったし言うつもりも無かったが、こんな状況だ私だって混乱しているし焦ってもいるんだ。モンスターやダンジョンが確実に存在すると知ってしまったからな』

 千尋なりに考えたのだろう、変わった世界では命を失うリスクが格段に上がったと。
 だからこそ悠長な時間は過ごせない。
 命の危険を感じると生物は子孫を残そうとするものだと聞いたことがある。
 本能からくる焦りが千尋に決断させてしまったのかもしれない。

『千尋にこんな事言うのは間違ってるかも知れないけど、近いうちに先輩に連絡入れるよ。じゃあまたな!』
『そうか……どんな結果になろうが私は協力するから相談したかったらしてくれ』

 俺なんかよりよっぽど男らしい千尋と念話を終える。
 念話する前の気分はどこへやら、明日にでも先輩に連絡してみようとネトゲを始めた。


 ☆ ☆ ☆


 うだうだと悩みながら考えながらネトゲをしていたら、いつの間にか帰ってきていた英美里に呼ばれ居間へ行くとベルも家に来ていて、一緒に夕飯を食べた。
 ベルは綺麗な顔が台無しになるぐらい口一杯にハンバーグを詰め込みアホみたいにもりもり食べていた。
 ベルを見ていると癒されている自分が居た。
 綺麗なのにアホっぽい行動をするベルはとても可愛い。
 アホな子程可愛く見えるというやつなのかもしれない。
 普段の仕事ぶりとのギャップもとても良い、俺も気を使わずに自然体で居られるから。

 夕飯も食べて寝る準備も整ったし再びネトゲを再開した。
 千尋もログインしていたので千尋の手伝いをしていく、さっきまであんな話をしていたのに今は一緒にネトゲをしていた。
 ネトゲとリアルは別物なのだお互いに。

 千尋がそろそろ寝ると言ってログアウトしたので俺も寝ようと布団に入った。

 布団に包まれながらあれこれ考えるが、結局答えは出ない。
 思考が色々な所に飛んでいく。

 そもそも何故日本は一夫一妻制なのか。
 ハーレムで良いんじゃ無いか。
 先輩に告白して振られたらどうしよう。
 2回も振られたら流石にもう諦めつくな。
 千尋は良い女になったな。
 昔は男勝りでそれはそれで好きだったな。
 ぶっちゃけベルの容姿が俺の理想。
 一目惚れってあるんだな。
 でもベルだからな。
 好きだけどアイドルに近い存在かなベルは。
 英美里は妹かな。
 優秀な妹がこれで二人に増えた。
 めちゃくちゃ嬉しい。
 エルフルズはもう最高。
 隠れエルフスキーの俺には最高。
 俺がエルフスキーって皆にバレて無いよな?
 バレてたら流石に恥ずかしいぞ。
 階層が増えればエルフルズにも名前付けてあげたいな。
 リーダーはどんな名前にしようかな。
 漢字でいくかカタカナでいくか。
 カタカナのイメージあるよなエルフって。
 でも折角日本に居るんだから漢字の名前も良いよな。
 英美里も漢字で喜んでくれたし。
 でもあれこれ悩み過ぎるのも良くないのかな。
 名付けって大変だよな。
 親って偉大だな。
 名は体を表すって言うしそれぞれの特徴から考えるか。
 リーダーは水が得意だから水関連で。
 ふうちゃんは風。
 ツッチーは土。
 ひかりんは光。
 なんとも安直なあだ名をつけてしまったな。
 でもこのあだ名本人達も気に入ってるみたいだし。
 このあだ名で呼べるような名前を付けてあげたいな。
 でもリーダーはちょっと難しいか。
 リーダー。
 トップ。
 頂点。
 水。
 指揮官。
 親分。
 チーフ。
 主任。
 水樹。
 声優会のトップアーティスト。
 七
 ナナ
 駄目だ思考が趣味に走りだしてきた。
 一旦考えるのはやめよう。
 でもナナか。
 良いな。
 先輩も千尋も親が一生懸命考えて付けてくれたんだろうな。
 どんな想いが込められてんだろ。
 ささき ちひろで。
 佐々木 千尋。
 すえなが じゅんで。
 末永 純。
 今度聞いてみよう。
 俺の名前は。
 どうだったっけ。
 確か。
 小学生。
 の時。
 作文。
 さがそ。
 う。
 ねむ。


 ☆ ☆ ☆


 暖かい。
 柔らかい。
 良い匂い。
 
 小さい頃を思い出す。
 昔は良く妹にこうして抱き締められながら寝てたな。
 でも妹が小学2年生の頃には一緒に寝なくなった。
 兄離れの早い妹だった。

 微睡ながら昔の事を思い出して寂しい気持ちになる。
 頭がうまく働かないがこの気持ち良さに身を任せて2度寝でもしようと体が意識を手放そうとしていた。

「昨日の今日で良いご身分だな、まこちゃん」

 何故か千尋の声が聞こえてくるが、目は未だに開いてはくれない。

「起きろ!馬鹿者!鍛錬の時間だ!」
「はい!」
 突然の怒声に反射的に飛び起きる。
「早く支度しろ!それとテレビでもネットでも良い、見てみろ<ダンジョン>が見つかったそうだぞ」

「まじか……」

 唖然としながら起き上がろうと布団に手を付くが、布団ではない異質な感触を左手に感じて驚き手を引っ込めた。
 引っ込めた場所には黒髪の乙女がすやすやと幸せそうに寝ていた。
「あれ……俺って結婚してたんだっ……けっ!」
 布団から飛び出る、鼓動はフルスロットル状態。
 惚れてしまいそうになる程のあどけなさ。
 
「こいつ……いつの間に……起きろ!ベル!大変だ!」
 揺さぶってベルを起こす。
「ん……おはようございます!マスター!良い朝ですね!」
 寝覚めばっちりなベルを尻目にテレビの電源を点ける。
「おはようベル!そんなことより<ダンジョン>が発見されたみたいだぞ!」

「そうですか、ですがこの時期ではまだゴブリン程度のモンスターしか居ないので大丈夫だと思います。何者かが<ダンジョン>内で死なない限りは」

 怖い事を言うベル。
 テレビではどのチャンネルでもダンジョン発見とモンスター発見についての話題しか取り扱っていない。

「また緊急会見するのか安相さんは……フットワーク軽いな、まぁある程度は想定してたんだろうな」
 緊急会見の発表とダンジョンやモンスターを見かけても近付かず警察や役所に連絡を入れろという注意喚起それから<超常現象対策本部>に詳しい事は記載しているという事。
 とにかく命を最優先で動く事、避難勧告が出ている地域の人は速やかに避難する事等々。
 災害大国日本ではもはや定番な報道がなされていた。

 ダンジョンの発見は日本が一番早かったそうで、宮崎県の農家の人が山菜取りに行った際にゴブリンと思われるモンスターを発見し警察に連絡、そこから自衛隊が周辺の封鎖と探索をしてダンジョンを発見という流れらしい。
 第一発見者が現地のリポーターにインタビューされている映像も流れた、60代の男性で方言きつめの宮崎弁で運良く先に見つけて急いで家に帰ったと言っていた。

「恐らくゴブリンが誤ってダンジョン外に出てしまったんだと思います。こんなタイミングでダンジョン外にモンスターを出すならもっと早くに出していたと思いますし、メリットが薄いので」
 ベルが冷静に今回の発見を分析していた。
「今回の発見世界的にも日本的にもラッキーってことか」

「はい、マスター。私の見立てではダンジョンが本格的に外部に侵攻するのは半年はかかると思います、ですのでそれまでにある程度のダンジョンを発見し攻略しなければ地球はモンスターで溢れかえる可能性が高いです」

「半年か……それを過ぎると具体的にどうなるんだ?」
「はい、マスター。半年間の間攻略されないとなるとダンジョンの規模も大きくなり、攻略自体が厳しくなります。特に加護を持たない人では不可能、加護持ちがレベルを上げて複数人集まってやっと攻略できるかどうかだと思います。ですので最初の3カ月が世界の命運を分ける筈です、ダンジョンの規模が小さいうちに攻略して戦力を伸ばせるだけ伸ばす、これが出来なければ半年後ダンジョンに挑める人が足りなくなり、世界はダンジョンに飲み込まれます」

 最初の3カ月、ここで戦力増大と攻略が躓けば半年後には世界が破滅に向かう。
 そうなると俺は非常に困る、ネトゲが出来なくなるから。
 
 俺はダンジョンによって現代社会が崩壊する可能性もあると思っていた、それでも日本だけでも今の環境を維持していけるようにしたい。
 なので俺は日本だけでも救う手伝いをしたいと考えてはいた。

 その計画を昨日千尋達と話しあった、この計画は千尋の負担が大きいが千尋は快く引き受けてくれた。
 最悪俺か妹に頼んで矢面に立つ事も視野には入れていたので千尋が引き受けてくれたて良かった、千尋の方が説得力も発言力もある。
 なにせ千尋は剣道界では誰もが知っている有名人だ。
 
<平成の美少女剣士><全方不敗><剣姫>数えればきりが無い程のあだ名や呼び名。
 女子剣道の大会で負けたことが無い彼女は俺にとっても世間にとってもスターでこの世界では希望だ。
 
「まぁ千尋に任せとけば問題無いだろダンジョン如き」

「はい、マスター!ちーちゃんには早期にレベルアップと実践訓練、魔法訓練を行った後に華々しく<ダンジョン攻略>をして頂く予定です!<怠惰ダンジョン>の総力をあげてバックアップすれば、ちーちゃん世界最強計画は達成されたも同然です!ハッハッハー!」
「だな!ワッハッハー!」
 ベルと大声で笑いあい勝利を確信した。
 ちーちゃん世界最強計画始動開始だ!













「良いからさっさと準備しろ!この馬鹿者共が!」
 ベル共々怒られ、鍛錬の準備を始めた。




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